ベンディールークスクスざるか?フレームドラムか?
「チュニジアの大阪」の異名を持つチュニジア第二の都市、スファックス旧市街のスーク(市場)は、観光客用のお土産物屋はほとんどなくて、もっぱら地元住民のための洋服、日用品、野菜、果物、魚、肉、乳製品、嫁入り道具などが一通り揃う便利な場所である。
ふらふら歩いていたら「おお!ベンディール(北アフリカの片面太鼓)がある!楽器屋さんかな」(↑写真 ©️MIHO WATANABE)と覗いてみた。すると、同じお店でクスクス作り用のザルも売っている。(↓写真 ©️MIHO WATANABE)
店主に聞いてみると「こっちが羊の皮でできたベンディール、こっちは麻でできたクスクスのザル。枠はおんなじやで。」(大阪弁訳のイメージ)とのこと。なんと合理的なことよ!
ベンディール بندير は、膜に接するようにガットの響き線が貼られている。気軽に持てて、これ1つあればその場を楽しく盛り立てることができる日用品のような楽器なのかもしれない。北アフリカや中東の伝統的な歌、アンサンブル、スーフィー儀式とさまざまなところで大活躍のこの楽器、ある時は「クスクスざる」というローカルな日用品に、そしてある時は「フレームドラム」としてインターナショナルな楽器にもなり得る可能性があるようだ。
メキシコ系アメリカ人のパーカッショニスト、グレン・べレスGlen Velez(1949ー )は驚異的なフレーム・ドラムの持ち主だそう。うちにあったのは1983年ブルックリン録音のCD『HAND DANCE』。スペインのパンデロ(子牛の皮)、ブラジルのパンデイロ、モロッコのベンディール(山羊の皮)、アフガニスタンのドイラ(鹿の皮)、スペイン北部のアデューフ(正方形の両面太鼓)、アイルランドのボーラン(山羊の皮)を叩き分けている。このCDの最終曲の曲名が「ベンディール」だ。
Glen Velez『HAND DANCE』NOMAD RECORDS,NMD50301,1983年録音
グレン・ベレスはベンディールについて、南エジプトとスーダンの境のヌビア出身のウード奏者ハムザ・エルディーン(1929ー2006)Hamza El Din
حمزة علاء الدينの録音から多くを得ていると書いている。さきほどの「ベンディール」という曲では、ヌビアのリズムが使われているらしい。
そのハムザ・エルディーンとは、60年代にニューポート・フォーク・フェスティバル出演して以来国際的に活躍、1980年代に琵琶研究のため日本に滞在していたことから、日本のワールドミュージック好きにおなじみの奏者だ。日本盤がうちにあった。
ハムザ・エルディーン『ムワシャー 幻のヴェール』Victor,VICG5416,1995年録音
アルバムタイトル曲のムワシャーMuwashshah موشح 。「Lamma Bada yatathana (لما بدا يتثنى)」と歌われるこの曲、聴いたことあると思ったらレバノンの歌手ファイルーズやシリアの歌手レナ・シャマミアンほかたくさんの歌い手によって歌い継がれている伝統的な曲だ。ライナーノーツによるとムワシャーは、9世紀頃にZiryab(789–857)
أبو الحسن علي ابن نافع, زریاب というバグダッドから北アフリカ、スペインに移り住んだ詩人・音楽家によってつくられた歌の形式だそう。そして、この曲の詩は 14世紀のスペインーモロッコの詩人Lisan al-Din Ibn al-Khatib لسان الدين ابن الخطيب によるものだという説もある。
スファックスのベンディールークスクスざる屋さんの話からぐるぐると巡って来てしまったけど今日はこのへんで。
関連サイト:
Glen Velez (Fantastic World of Frame Drums): http://glenvelez.com
HAMZA EL DIN (Victor): https://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A008165.html
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