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重力バッテリーの将来性

こんにちは。MAKOです。
皆さんは重力バッテリー(重力蓄電)をご存知でしょうか。電気が余っている時間帯でモーターで錘を巻き上げることで位置エネルギーとして充電し、電気が必要になったら錘を下ろす力でモーターを回して発電するシステムです。

・充電:錘を巻き上げる(位置エネルギー)
・発電:錘を巻き下げる(落下エネルギー)

つまりダムの揚水発電の水を錘に変えたものと考えれば分かりやすいかと思います。昨今のレアメタル高騰などを受けて、レアメタル産出国に依存しない蓄電システムとして脚光を浴びているのです。
※重力蓄電については以下に詳しく解説されているのでご覧ください。


重力蓄電は既にEnergy Vaultというベンチャーが上場しており、商用化に向けて既に動き始めているとのことですが、今回はこの重力蓄電の将来性について改めて私の意見を述べたいと思います。

重力蓄電のコスト

こちらはEnergy Vaultの重力蓄電システムの3Dアニメーションです。クレーンで36トンのコンクリートブロックを60mの高さまで巻き上げる予定だそうです。

例えば36トンの錘を60mの高さから5分間かけて落下させた時に得られる出力は71kWです。

(36000kg*9.8m/s*60m)/300s≒71kW

71kW×5分間は流石に少ないので1000kW×3時間出力させるとします(つまり3MWhの蓄電池)。すると計算の結果、36トンの錘とクレーンが500基必要になります。

(1000kW*180min)/(71kW*5min)≒500基

これだけの設備を設置するとなると、効率的に配置したとしても中規模マンション程度のスペースは必要でしょう。建設コストは50-100億円あれば出来るか?と言ったところでしょうか。

Energy Vaultのサイトに高出力タイプの3Dアニメーションがありました。1ユニットで10MWhとのことなので、これの三分の一くらいの大きさでしょうか。まあまあイメージ通りです。

リチウムイオン蓄電池のコスト

ちなみに現在のリチウムイオン蓄電池の相場は5万円/kWh程度と言われており、今回の蓄電池容量(3MWh)であれば1.5億円で済みますし、スペースもトラックコンテナ程度で済みます。蓄電池寿命とカントリーリスクを考慮してもやはりリチウムイオン蓄電池には全く歯が立たないと言わざるを得ません。

揚水発電との違い

国内最大級の奥只見ダムの出力は560,000kWです。とりあえず出力時間を3時間と仮定すると、同じ発電能力を得るには36トンの錘が28万個、つまり1000万トンの錘が必要になります。

(560000*180)/(71*5)≒280000
280000*36≒10000000

さすがに日本最大のダムと比べるのは酷なので中規模の八ツ場ダム(11,700kW)と比べると、同じ発電能力を得るには36トンの錘が6千個、つまり22万トンの錘が必要になります。

(11700*180)/(71*5)≒6000
6000*36≒220000

要するにダムど同等の発電出力を得るにはダム貯水容量と同等の錘重量が必要という当たり前の話ですね。

「こんな大量のコンクリートを使うとかあり得ないでしょう」

そう思った方がいるかもしれませんが、ダムの堤防にも数百万トンのコンクリートを使用しているので、ダムと比較するとコストパフォーマンスはそれほど悪くないのかもしれません。
少なくともダムのように「村を沈める」とか「生態系を破壊する」といった心配はありません。

重力蓄電は普及するか

30年前であればリチウムイオン蓄電池にもコストパフォーマンスで十分戦えたでしょうが、現在の化学蓄電池のコストパフォーマンスには到底及ばないでしょう。化学蓄電池の技術は日々進歩していますし、形勢逆転することは今後も無いように思いますが、ダムの代わりと考えると重力蓄電の可能性はかなり高まります(ただしダムのように雨水で水を貯めてはくれない)。

CO2バッテリーの記事でも書きましたが、無尽蔵に使える広い土地が必要になるのでやはり北海道あたりに建設するのが現実的かも知れません。
どっちにしろ国家プロジェクトで進めないとベンチャーでは実現は厳しそうです。

蓄電システムの今後

再生可能エネルギーの普及によって発電側の変動が大きくなると、どこかで蓄電してあげる必要がどうしても出てきます。化学変化、熱、状態変化、位置エネルギーなど様々な形でエネルギーを貯める方法が模索されているのです。
そしてリチウムイオンバッテリーなどの化学変化が最も伸び代があると考えられており、大量の投資資金が集まっている状態というわけです。

※実はEVのバッテリーも余った電気を逃す(貯める)ための有効な手段なんですよね(以下記事再掲)。

まとめ

現在の蓄電業界は過渡期であり、奇想天外なものも含めて様々なアイデアが生み出されてとても面白いです。数十年後あたりに今を振り返ったら笑い話になるような蓄電システムもきっとあるでしょうが、自由な発想を受け入れる場がなければイノベーションは産まれません。そういう意味でもこれらベンチャーへの投資はとても意義のあることだと私は考えます。

本日は以上です。

P.S.
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