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黒部五郎岳3泊4日ソロ縦走の記録・3日目:雲と強風の三俣蓮華岳

 8月上旬、初めてのソロ縦走で黒部五郎岳に挑んだ3泊4日の旅。3日目は三俣山荘を経て三俣蓮華岳、そして双六小屋へ。強風吹き荒れる稜線を歩いたり、雪渓を渡ったりと試練の一日となりました。
 前回(2日目)の記事はこちら。



3日目:黒部五郎小舎〜三俣蓮華岳〜双六小屋

05:00 黒部五郎小舎(2,345m)

 昨日までの疲れが溜まっていたのか、信じられないくらい爆睡して4時頃にようやく目覚める。今日は小屋で朝食を食べるし、コース的にもそこまで長くないのでのんびりと支度する。小屋の周りは相変わらずガスで覆われており、朝食の前に少し散歩しようとしたけど視界はゼロだった。

 朝食はこんな感じ。量はちょっと少なめ。スクランブルエッグって割と苦手なんだけど、甘くて美味しかった。鰯の梅煮っぽいのも好き。(多分冷凍なのかな…?)しょっぱめのものが多くてありがたい。

 部屋の皆と「気をつけて!」と声を掛け合って別れ、少し早めに出発して三俣方面へ向かう。写真の分岐、真っ直ぐ進むとテント場があるはずなんだけど、霧のせいで視界はゼロ。テント泊にも興味があったので見ていこうかなと思ったんだけど、とりあえずパスして左の三俣方面へ。

 三俣方面に行くには、まずは小屋の裏手から登っていく必要があるのですが、これがまたすごい急登…。昨日双六山荘方面(私と逆方面)から来た人が「小屋の手前にすごい下りがあって、帰りにあれ登ると思うとしんどいよ〜」と言っていた意味を実感する。ただ、ここを登ればスマホの電波が入るエリアになるそうなので、それを心の支えにしてひたすら登る。視界のない樹林帯の登りは本当にきつい…。

06:40 三俣蓮華岳巻道分岐

 樹林帯を抜けると一気に風が強くなってきた。強風に煽られながら必死に歩いていると、三俣蓮華岳と三俣山荘への巻道の分岐に辿り着く。今回の縦走、残念ながら三俣山荘の予約が取れず宿泊は諦めたけど、立ち寄るだけでも行ってみたいな、と思っていたので、巻道を通って三俣山荘へ。

 巻道は緩やかなアップダウンの繰り返しで、危険なところはない。ただ、道があまりにもだだっ広いので、上の写真のような岩に黄色く付けられた目印や、白いペンキで描かれた矢印をよく見ていないとこの天気では迷いそう。実際、目の前にいた女性グループが目印に気づかず逆方向に進もうとしていたので声をかけたこともあった。

 黙々と進んでいると、突然目の前に大きな雪渓が。事前にルートを調べている時に雪渓があるのはなんとなく知っていたけど、今の今まですっかり忘れていた。アイゼンなしでも歩けるとのことだったので、赤い染料のようなもので付けられた道に沿って、雪の窪みに体重をかけてゆっくりと歩く。
 が、これがめちゃくちゃ滑るし、何より怖い!!足元から冷気が上がってきて早く通り抜けたい焦りと、転びそうな恐怖心でへっぴり腰になる。ただでさえ捻挫癖があるのにここで転んだら今日泊まる小屋まで歩けるのか、そもそもゆるい下りの雪渓なのでそのまま雪渓の下まで滑り落ちないか??と怖くなりつつ(今思えば全然大丈夫な箇所なんですけどね…)、周りに誰もいないと思っていたので「ヤバイ!!!!無理!!!!!」と大声を出しながら己を奮起させて歩いていると、雪渓の向こう側、霧に包まれたところから「赤い道は滑りやすいから少し右に逸れたほうがいいですよ」と男性の声がする。…一瞬幻聴かと思ってかなりビビった。よくみるとうっすらと大きなザックを背負ったシルエットが見える。「ありがとうございます!滑りそうで怖いですね!」と返事をしてみると、「雪の窪みよりもフチの方に体重をかけたほうが歩きやすいですよ、まあ自分もさっき転んじゃいましたけど」と返事がきた。私がおっかなびっくり歩くのをしばらく様子見した後、「じゃあ先に行くので、お気をつけて」と声だけ残して男性は行ってしまい、雪渓を渡り終えた頃にはどこにもいなかった。

 雪渓を抜けた後は、昨日の黒部五郎カールのような草とお花と岩の道が続き、風も穏やかだったので少し長めに休憩。お湯を沸かしてインスタントのコーヒーを飲む。スティックタイプの甘いコーヒー、普段だったらあまり飲まないんだけど、こういうところで飲むと抜群にうまい気がする。甘味と苦味が稜線歩きの冷えた体に染み渡って元気が出る〜。

08:40 三俣山荘(2,547m)

雲に覆われた鷲羽岳。中央右の小屋が三俣山荘

 花畑でのんびり休憩していたせいか、コースタイムから大幅に遅れて三俣山荘へ到着。NHKのドキュメンタリー「黒部の山賊」で見た、ハイマツ帯にぽっかりと浮かぶ赤い屋根の小屋を目前にして、「ここまで歩いて来たんだなあ」と感慨深かった。目の前に広がる、その名の通り鷲が翼を広げたような山容の鷲羽岳は、この日は雲に覆われており、ほんの少しの間しかその全容を望むことはできなかった。

食べかけのジビエ丼

 三俣山荘の2階にある展望喫茶室で名物のサイフォンコーヒーとジビエ丼を食べつつ、今から思い切って鷲羽岳までピストンして来ようかな…と思い悩む。ここまで来るのにかなり時間を使ってしまったけど、今日の宿泊地である双六小屋まではあと2時間と少しだし、頑張れば行けなくもないか…と考えるも、水晶岳から鷲羽岳を経由してここまで来たらしい登山客が「ものすごい突風で心が折れそうだったよ」と話していたのが聞こえて断念。

 窓の外にどっしりと聳える鷲羽岳は、ほとんどが雲に覆われていて、確かに今から登っても展望は期待できなさそうだな…と自分を納得させる。
 代わりに三俣山荘で思う存分休憩して山荘の雰囲気を味わい、一時間ほどしてからやっと三俣蓮華岳に向けて出発した。

10:50 三俣蓮華岳(2,840m)

 三俣山荘から三俣蓮華岳へ標高を上げていくと、案の定そこからはガス&突風の嵐…。とりあえず山頂の写真だけ撮る。雲が無ければ、この後ろに絶景が広がっているんだろうなあ…。


 私含めたまたま山頂に居合わせた三人で、「ここからどう進みます?」と話し始めた。三俣蓮華岳から双六山荘までは、巻道、中道、双六岳経由の3つのルートがある。今回の行程では、私は中道と双六岳経由の道、どちらを歩くか迷っていて、「とりあえず三俣蓮華岳の山頂に行ってから決めようかな」と思っていた。


 天気が良いなら眺めの良い稜線歩きが楽しめるので迷わず双六岳経由のルートを選ぶんだけど、残念ながらこの辺り一帯はしばらく荒れ模様が続きそう。暴風が吹き荒れる霧の中、あの広々とした双六岳の稜線を歩くのは…ちょっと自信がなかった。昨晩泊まった黒部五郎小舎で同室になった人たちも、「巻き道は以外とアップダウン激しいし、この天気なら中道が一番いいかも」と言っていたし、とりあえず中道を行くことにした。他の人達は「せっかく来たんだから」と双六岳まで行くそうだ。私ってほんとにビビりよね…。

 というわけで、まずは丸山を経由して双六岳と中道の分岐点へ。ここの稜線歩きは……もう思い出したくもないくらい、霧交じりの強風で辛かった。ウインドシェルの上にレインジャケットを羽織り、帽子とフードを限界まで締めていたので、寒さは感じなかったけど、下りの道で風に体を持って行かれそうになるのはなかなか怖いし、疲れる。 帽子からはみ出した髪の毛が、霧に晒されて水が滴るくらい濡れていた。「なんで私わざわざこんな辛いことしてるんだろ」と、テレビの砂嵐のような風の音の中ぼんやり考えてしまう。(登山あるある…)

11:48 中道分岐

 一時間ほど歩いて、やっと中道への分岐点に到着。ここからは風も比較的穏やかになり、ゆるやかな下りが続く。霧で覆われて何にも見えないけど、山の斜面に広がる広大なお花畑が広がっているのはなんとなーくわかる。晴れてたら最高の道なんだろうな〜。2日目に最高の景色を堪能したので文句は言わないけど、それにしてもここは晴れの日に歩きたかった!霧に包まれてるのも幻想的でいいけども。

 それにしてもこの中道、本当に人がいない。爆風の中、少し前を歩いてるご夫婦も、この苦難を一緒に乗り越える戦友のように勝手に思っていたけど、双六岳の方面に行ってしまったみたいだ。ここから3つのルートの合流地点に至るまで誰にも会わなかった。楽しいといえば楽しいんだけど、こうも霧に覆われてるとけっこう怖い。普段ならやらないんだけど、あまりにも人がいないので、いいかな…?と思い、スマホでデスストの曲(※2日目の記事参照)を流しながら歩いた。

 孤独な道をひたすら歩いていくと、ようやく分岐していたルートの合流地点に着いた。ここから小屋まではあと少し。

 こちらに行くと双六岳へ。目の前の山ではなく、もう少し奥に頂上がある。この日は雲に覆われていて見えなかった。

12:50 双六小屋(2,547m)

 分岐点から少し進むと、急坂の下に大きな小屋が見えてくる。ここの下り、疲れた足にはしんどかった…
 小屋が見えた辺りで安心しきってしまったのか、この辺りで足を滑らせて思い切り転んでしまう。捻挫癖のある自分には覚えのある「グキッ」という感覚があってめちゃくちゃ焦った。幸い歩くのには支障はないし、足首を内側に曲げたときに痛みがあるだけだったので、心配しつつも小屋に向かう。

 ほんのりと足は痛むけど、とりあえず双六小屋へ到着!
 双六小屋は収容人数150人の比較的大きな山小屋。裏銀座縦走コース上にあり、ここからは槍ヶ岳なども目指せることもあって、結構賑わっている印象があった。ちなみに黒部五郎小舎もこの小屋の系列らしい。
 小屋は大半の山小屋と同じく横に広い二段のスペースに布団を敷いて使う方式で、割り当てられた場所は新しめの棟なのか綺麗で広々としていた。黒部五郎小舎と同様、隣とはパーテーションで区切られ、布団や枕には不織布のカバーが付いている。

 チェックイン時に転倒した話をすると、小屋に隣接する富山大学の診療所が開設中なので、心配なら受診してはどうかとスタッフの方に勧めてもらい、ありがたくお邪魔する。幸い特に深刻な怪我でもなさそうで、湿布で冷やして、翌日の下山前にテーピングしてもらえることになった。「朝早く出発するんですけど…」と恐る恐る言ってみると、「小屋の電気点いた後なら何時でもいいですよ!」とのこと。ありがたい…!
 登山をしていると、こんな体力もないへっぽこな人間がたった一人で無事に歩き続けられるの、山小屋を始めとした色んな人々の努力があってこそなんだろうなあと実感します。実習中の学生さんも滞在しているようで、本当に頭が下がる思いでした。

 小屋に戻ると、昨日泊まった黒部五郎小舎で一緒の部屋だったお姉さんと出会い(というか真上の布団だった)、コーヒーをご馳走になった。今日はあれから黒部五郎小舎を出て黒部五郎岳へ登り、また黒部五郎小舎へ引き返してから三俣蓮華岳と双六岳経由でここまで来たそうだ。体力すごすぎる。

 先程三俣山荘から眺めていた鷲羽岳や遠くに表銀座の山々が見える場所でコーヒーを飲みながら初めてお互いの名前や出身や住んでいるところの話をしたけど、知らない世界の話を聞くのはやっぱり楽しいなと思った。普段は見知らぬ人とここまで話せる性格ではないので、登山中のコミュ力ブーストによるところが大きいんですけどね…。やっぱり好きなものが共通しているのは強いよなあ。
 強風で髪はぼっさぼさ、コーヒーもぬるくなっていたけれど、楽しくて楽しくて、上着を着込んでまで延々と二人で山を眺めながら話していた。

 双六小屋の夕食は天ぷら!もうね、これも本当に、本当においしかった…。さっくさくの天ぷらは抹茶塩が添えられていて、そうめんのつゆを天つゆにもできる。添えられていた皮付きじゃがいもの煮っ転がしみたいなのも甘じょっぱくておいしかったなあ…。デザートのグレープフルーツゼリーが油っこい口の中をさっぱりさせてくれるのもいい。大きな山小屋なのでワイワイガヤガヤして少し落ち着かなかったけど、爆風の中を歩き回った一日の疲れが取れたような気持ちになりました。(翌日ちょっと胃もたれしたけど…笑)
 1日目にご一緒した女性は、私が夕食を食べている頃小屋に到着していた。今日はワリモ岳や水晶岳、私が断念した鷲羽岳を通り、三俣蓮華岳や双六岳を経由して辿り着いた中々ハードな旅だったようだ。お疲れの様子だったので、また明日ゆっくり話しましょうね!とお声がけしてお別れ。

 消灯前には隣の布団にいたマダムと小声でお話させてもらった。槍ヶ岳に何度も登ったことがあり、奥穂高岳や剱岳にも登ったことがあるそうだ。今回は双六岳と笠ヶ岳に登りに来たらしい。「自分の体力を見極めて無理のない行程にすればどこにだって行ける」と言っていて、すごく励みになった。おいしい山小屋グルメの話もたくさん聞かせてもらった。(ヒュッテ大槍の夕飯、食べたいな〜〜!!)北アルプスはいつも夏に山小屋泊で来ているけれど、冬になると近所の山友達と地元の山に登り、山頂でみんなでご飯を作るのが楽しみなんだそうだ。これからあとどのくらい登山を続けるかわからないけど、歳を重ねてもこうやって人に語れるくらい、自分の好きなことを楽しめているといいなあと思った。

 じんわり痛む足首を気にしつつ、明日はついに新穂高温泉へ下山。一向に止む気配のない外の強風や、この頃目撃情報が続出していたわさび平周辺の熊が心配だったけど、最後までどうか歩けますように…と思いつつ眠りに就いた。



3日目の記録

歩行距離:7.9km
行動時間:約7時間30分
歩数:24,989歩


(4日目に続く)




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