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黒部五郎岳3泊4日ソロ縦走の記録・2日目:最高の稜線歩きを経て黒部五郎岳へ

 8月上旬、初めてのソロ縦走で黒部五郎岳に挑んだ3泊4日の旅。2日目は太郎平小屋からついに黒部五郎岳へ。前半はお花畑や雲海を眺めながらの最高の稜線歩きとなりました。黒部五郎小舎、本当に泊まってよかった。もう一度行きたい…。
 前回(1日目)の記事はこちら。


2日目:太郎平小屋〜黒部五郎岳〜黒部五郎小舎

03:00 太郎平小屋(2,330m)

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 2日目。小屋では狭さや暑さや息苦しさや頭痛や他人のイビキでろくに眠れず、さっさと出発しよう…とぼんやり考えながら、3時頃からゴソゴソ起き出して準備を始める。ちなみに4時頃になると大半の人は起きて準備を始めていました。山の朝は本当に早い。(私は洗面台やトイレが混むのが嫌で早起きしたけど、その時点で既に出発する人たちがちらほらいた)
 2日目は今回の縦走で一番のロングコース、しかも午後から天気が崩れそうだったこともあり、なるべく早く出発したかったので、太郎平小屋では朝食無しのプランで宿泊していた(朝食は4時半から)。
 その代わり炊事室でガスバーナーを使ってよいとのことだったので、ありがたくお借りして朝食を作る。お湯を沸かし、モンベルのリゾットとアマノフーズの味噌汁を寝起きのちょっとむかむかする胃に突っ込んでいく。その間に隣の布団の女の子は颯爽と出発していった。テント泊装備で今日は雲ノ平まで行くんだそうだ。みんな健脚だな…。

 今日はついに、今回の登山のメインとなる黒部五郎岳へ。太郎平小屋から北ノ俣岳や赤木岳の稜線を経て黒部五郎岳に登り、そこから黒部五郎のカールを下り黒部五郎小舎に宿泊。単純なコースタイムだけでも6時間ほど要する行程です。

04:50 太郎山(2,373m)

 結局のんびりし過ぎて4時40分頃に山小屋を出発し、10分ほど登ると山小屋裏の太郎山へ到着。日の出前だけどヘッドライトがいらないくらい明るく、雲は出ているけどよく晴れていた。(この天気がずっと続けばよかったのにな……)

 太郎山を通過し、まずは黒部五郎岳との中間地点である北ノ俣岳へ。しばらく歩いているうちに、後ろを振り返ると薬師岳の方面から太陽も出てきた。中央にあるのが薬師岳。左下に小さく見えるのが太郎平小屋…かな?

 ゆるやかな登りが延々と続く。
 太郎平小屋では繋がっていたスマホの電波は、この辺りからほとんど入らなくなった。

 写真じゃうまく撮れなかったけど、道の両脇は花でいっぱいでした。歩いてて楽しい。

06:50 北ノ俣岳(2,660m)

 2時間ほどのんびり歩いて、北ノ俣岳に到着。指が入ってる…笑
 この辺りから風が強くなってきた。

 稜線に出ると見渡す限り雲の上。すごい景色だ…と立ち止まって写真ばかり撮ってしまう。
 北ノ俣岳周辺の稜線歩き、今回のコースの中で一番楽しかったです。風が強くて寒かったけど、その代わり絶景が見れました。

 休憩して行動食を食べていると、後ろからトレイルランの選手が早歩きで追い抜いていく。ここから静岡まで行くレースの途中らしい。世の中超人ばっかりだな。

 歩いて歩いて歩いて、やっと見えた…と思ったけど、手前の山ではありません。奥のガスに隠れている方です。わかってたけど、あまりの距離に凹む。

07:39 赤木岳(2,622m)

「気を引き締めて 黒部五郎の登り ガンバレ」
 もう充分登ったよ〜〜〜〜〜!!!!!
 出会いやすいと聞いてた雷鳥にも会えず、だんだんしんどくなってきた。景色だけは最高なのに…
 赤木岳の周辺は、ほんの少しの区間だけど大きな岩をよじ登るところもあって、そんなに高度感もないのにちょっとビビる。後ろから追い越していった小柄なおじいちゃんが通りすがりに「三点支持、三点支持だよ〜!」と励ましてくれた。

08:40 中俣乗越(2,461m)

 登りガンバレって言ったじゃん!せっかく登ったのになんで200mも下るんだよ!と愚痴りまくって歩く。山小屋出発から4時間経過、黒部五郎岳はガスに包まれたまま。
 この後一瞬だけガスの切れ間から山頂が見えて、結局今回の山行で黒部五郎岳が見えたのはこの時だけでした。慌てて動画撮ったので写真がない。本当に綺麗な山だった。

 山頂目指していざガスの中へ。
 写真で見るとそうでもないけど、結構な急登です。
 湿った風が猛烈な勢いで吹き荒れる中を、展望もなく2時間も登り続けるのは本当に辛かった。人生で一番頑張ったことランキングを更新した気がする。

11:10 黒部五郎の肩(2,770m)

 ゴロゴロした岩をひたすら登り、やっと黒部五郎岳の山頂直下(黒部五郎の肩)へ到着。ここから山頂までは15分ほど。看板の側に荷物を置いて山頂に向かう。

11:25 黒部五郎岳(2,833m)

 ようやく黒部五郎岳に到着〜!!うーん、何も見えない。しばらく粘ってみたけどガスは取れず、景色は一面真っ白いままでした。諦めてそそくさとザックを置いた肩へ戻る。

11:50 黒部五郎の肩(2,770m)

 山小屋を出てから既に7時間。足の疲労感もなかなか強くなってきて、あったかいものでも食べたいなあ…と思うけど、暴風の中お湯を沸かす気になれず、巨大な芋ようかんをもそもそと囓り水で流し込む。次縦走行くときは保温ボトル持ってこよう…と強く誓ったのでした。

 ただこの時は正直、「今日のピークはここだからあとはもう山小屋に向けて下るだけだな」と思ってたんですよ。ここから2時間、歩けども歩けども辿り着かない地獄の行程になるとは……

 ガスの中、ものすごい急な下り道を経て黒部五郎カールの中へ。これ、逆方面だと登るのすごい大変そう。

 案の定カールの中もガスに包まれていて、天気良かったら最高の景色なんだろうなあ…と恨めしい気持ちになる。カールに残る雪を眺めながら歩くと、目の前の大きな岩にはペンキで書かれた「小屋まで2時間」の文字が。…2時間!?コースタイムだと黒部五郎の肩から1時間ちょっとだったはず…… 確かに事前にルートを調べている時に「黒部五郎カールから小屋までが長い、見えているのに辿り着けない」と書いてあったけども。

 みるみるテンションが下がってしまい、とりあえずはまた座って休憩。黒部五郎岳の山頂で「次、また天気のいい時にリベンジね!」と言っていた老夫婦を思い出しつつ、私はもう二度と来ないかもしれないなあ…白く霞んだカールをぼんやり眺めて過ごす。待てど暮らせど天気は良くならないので、諦めて歩き出した。

 カールから数十分は、巨大な岩がゴロゴロ転がっている草原を歩くことになる。有名な雷岩があるのもこの辺り。写真じゃわかりづらいけど、めちゃくちゃ大きい。なだらかな斜面を歩いていたら突然これが現れて、巨大なスケールの風景に圧倒された。途中で沢を渡ったのも楽しかった。頭の中でDEATH STRANDING(※ゲーム)の曲が流れている。

 これ(ていうか景色も一緒じゃん!!)
 この曲(Asylum for the feeling)、BTが出現する山岳地帯をめちゃくちゃ苦労してなんとか登り切った先、視界が開けてポート・ノットシティが現れた瞬間に流れるからめちゃくちゃ印象的ですよね。ここの演出ほんとに好きだったな…。

 そしてこれまたポート・ノットシティが見えてからが遠いんですよね。傾斜が緩くて足への負担が少なそう(転ばなさそう)なルートを選びつつひたすら歩くしかないちょっとした苦行………。サム、わかるよ、目的地見えてるのに辿り着かないのは辛いよな………。
 ちなみにこの後すれ違った登山客が「黒部五郎岳から黒部五郎小舎までジップライン引きたい」って言っててすっげえわかる…となりました。

 歩けども歩けども岩、草、そしてガス。岩が大き過ぎて距離感がわからなくなってきた。いつ着くんだろう。

 振り返ると遠くに山の稜線らしきものが見える。足が重くてもう進みたくないけど、今更戻るわけにもいかないので…と自分を叱咤しながら歩く。ひたすら歩く。ここから一番近い山小屋は黒部五郎小舎しかないので、とにかく歩くしかない…!

 雄大な景色を下っていくと、やがて樹林帯に入る。ガスに覆われた地帯を抜けたけど、ここからはあんまり展望もないし、暑いし、虫も多くて(まあどこも多いんだけど)割とかなりしんどい。ちょっとしたアップダウンもあり、そのアップがゴリゴリ体力を削ってくる。太郎平小屋を出てからもう9時間ほど経とうとしている。しんどい。至る所に「→ コヤ」の目印が。親切…
 歩いては座り、歩いては座りの繰り返しでなかなか進まない。「もうそろそろ小屋でしょ」とヤマレコを見ても、さっき見た地点から少しも進んでいない。
 途中、大きな岩の上でカップラーメンを食べているお兄さんがいた。どうやって登ったのかはわからないけど、高いところにあぐらで座って、景色を眺めながらのんびりしている様子を見ていいなあ…と思いつつ、天気が悪くなる前になんとか小屋に着きたい鈍足の私はのろのろと歩くしかない。


13:55 黒部五郎小舎(2,345m)

 沢山の人に追い抜かれ、後ろに誰もいなくなった頃、ようやく本日の宿泊地、黒部五郎小舎に到着!小屋が見えてから嬉しくて少し小走りになった。

 黒部五郎小舎は、黒部五郎岳と三俣蓮華岳の間に広がる平野に、ぽつんと佇む赤い屋根の小屋。見た目が超かわいい…!小屋の外にはお花畑が広がり、どこからか水の音もする。思わず「大草原の小さな家」が頭に浮かんだ。暑苦しい樹林帯を抜けたらこんなメルヘンな景色が広がっていてびっくりした。ちなみに、収容人数は60人とちょっと少なめ。

 チェクイン時、「予約は夕飯のみですけど今なら朝食付きに変更もできますよ」と言われ、疲労困憊の頭で「付けます!!!」と即決してしまう。食料は充分にあったけど、エネルギー不足で9時間歩いた今日を思うと、明日もそこそこの長丁場になるのできちんとした朝食が食べたくなってしまった。一泊二食13,000円なり…。
 チェックインを済ませ、汗だくの服は着替えて乾燥室へ。どの山小屋も乾燥室あるのが本当にありがたい…。(あと、モンベルのジオラインやウィックロンは汗かいても本当に臭わない。すごい)
 黒部五郎小舎は、太郎平小屋のような大人数の雑魚寝スタイルではなく、何人かずつ小部屋で泊まるスタイルらしい。今回は布団の敷かれた7人部屋に通してもらった。二段ベットの部屋もあったみたい。
 小屋の中はとても綺麗で、部屋もコロナ対策で布団と布団の間は小さなパーテーションで区切られていて、布団も枕も使い捨ての不織布で覆われており、こんな山奥でこういう対策するの大変だろうな…と思いました。

 夕飯までまだ時間があるので、周囲をちょっと散歩してみることに。ちなみに当然のようにスマホの電波はない。太郎平小屋を出てからもうずっと圏外で、スマホ中毒者としてはすごい不思議な感覚になる。この散策もスマホを持っていかなかったようで、写真は一枚も残ってなかった。見渡す限り花と草原が広がっていて、頭上の雲は強い風でどんどん形を変えていき、地上にいる自分の傍にも、時折涼しい風が通り抜けていく。時間がゆっくり流れているような感覚があった。
 夕方から少しずつ雲が出てきて、やがて小屋の一帯はガスに覆われてしまった。その後は部屋でのんびりKindleで読書していたら、いつの間にか夕飯の時間になっていた。

 黒部五郎小舎の夕食はなんと、とんかつ!あったかくてサクサクで肉厚で、こんな山の奥深くでこんな美味しいもの食べていいのか…!?と思うくらい美味しかった。付け合わせのにんじんとツナのカレー味のあえ物とかふろふき大根とか、どれも優しい味で疲れた体に染み渡った。湯呑み一杯分のお蕎麦が付いてきたのも嬉しかった。ご飯が美味しくて二杯も食べた。

 夕飯後部屋に戻ると、誰からともなく「明日はどこまで行くの?」という話が始まる。
 私と同じく折立から来た人たちが約半分、残りは新穂高温泉から来たらしい。ちなみに全員ソロで来ている。
 翌日は三俣蓮華岳の方面に向かい、私のように双六小屋に行くか、三俣山荘から黒部川の源流へ行き、そこから雲ノ平へ登る人、黒部五郎岳に登り太郎平小屋へ向かう人と、皆ルートは様々だった。

 ちなみに、この4日間の旅で、「どこから(登って)きたの?」「どこまで行くの?」という会話を道行く人々と何回もした。そして最後は必ず「じゃあ、お気をつけて」で別れる。この挨拶がすごく好きだった。

 個人的な感覚だけど、この旅で会った人たちは今まで行った山の中で一番優しくて、親しげだった。ある程度の時間立ち止まっていたり休憩していたり、すれ違いで道を譲った時でさえ、すぐ「どこから来たの?」「今日は天気が心配だねえ」と会話が始まる。(見るからに初心者っぽい登山者が、一人でひーひー言いながらもたもた歩いているから心配になっただけかもしれないけど…)
 車も電波も来ないこんな山奥に一泊以上かけてやってきた人たちなのだから、まあ当然なかなかの山好きということだろう。ある程度北アルプスなどの山々に馴染みがあって、有名な山に登った経験があって、それで今回この、比較的マイナーな山域を選んでやって来た。(※上高地に比べればって意味ですよ!)そういう、皆の中で「ここにいる奴全員山好き」という認識があるからこその距離感というか…。「好き」を共有してるのってやっぱ強いなあと思った。

 そして黒部五郎小舎は、北アルプスの中でも特に奥まったエリアにひっそりと建っている。裏銀座コース上にある三俣山荘や双六小屋と違い、恐らく黒部五郎岳に登る人じゃないと通過すらしないだろう。夏山のわずか3ヶ月だけ営業する秘境の山小屋にわざわざやって来ている、というのも、部屋の人たちと親しくなれた理由なんじゃないかと思っている。

 明日の荷物の準備やストレッチをしながら、畳の上にそれぞれが持参した地図を広げ、明日歩くコースや、前に行った山について話をする。こっちのルートはきつい、ここは見晴らしがよかった、時間があったらこっちに行きたかった。私も翌日歩くコースについて相談したら色々なアドバイスがもらえた。
 そこから皆の住んでいるところの話になったり、好きな山や、おすすめの山小屋の話になったり…。
 日本の色々なところから一人でやってきた人たちが一晩だけ一緒の部屋で過ごして、そして翌日は各々が選んだコースへ別れて行くの、当たり前なんだけど不思議だなあ…と思いながら過ごしました。山の話ばっかりで、お互い誰一人として名前すら聞かなかったのも、なんかすごくいいなあと思ったり。

 そうしている間に消灯の時間になり、明日の起床時間を確認して、それぞれ床に就いた。外はずっと霧に包まれて、強風で窓はガタガタ揺れてるし、明日の天気は絶望的。そんな中でも、この部屋で過ごした時間はとても楽しくて、その日は前日とは比べ物にならないくらい熟睡できた。小屋まで歩いている時は「もう二度と来ない」と思ったけど、今では「もう一度あの小屋に泊まりに行きたい」と思っている。


2日目の記録

歩行距離:11.1km
行動時間:約9時間
歩数:28,362歩


(3日目に続く)





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