’22-’23WEリーグ第17節 レッズレディース対ベレーザ

2023年5月7日
三菱重工浦和レッズレディース 2-2 日テレ・東京ヴェルディベレーザ

ベレーザのディフェンダーに求められるもの

LAST 7 GAMESと題し逆転優勝へ向けチームと後押しする企画が始まった最初の試合でいきなり勝ち点2を落としたベレーザは、今季ここまで首位を独走する浦和レッズレディースと絶対に負けられない一戦に臨んだ。

強い雨と風が吹く悪天候の中、コイントスに勝ったベレーザ主将 村松はあえて風下を選択。

試合後に竹本監督が

ーー試合の立ち上がりは少し押さえていたようにも見えましたが、まずはしっかりと相手を見るという狙いだったのですか?
今日は雨と風が強かったので前半は意図的に風下を取りました。前半は0‐0の展開でも良いかなと守備を固めていこうと話していました。

https://www.verdy.co.jp/beleza/match/info/12023050701/report

と語った通り、GW3連戦の内、1試合目を理念推進日に費やし試合数が少ないベレーザは、3連戦の3試合目でかつ2試合目を広島で戦ったばかりの浦和に対し、慎重にスタートする意図を持っていた。

しかし、実際にはキックオフ直後から浦和は連戦の疲れをものともせず、いつものようにボールのあるサイドに大胆にTilting(傾ける)し人数をかける。

開始5分にはポゼッションを失った直後から浦和は3人がかりでボールホルダーのベレーザ藤野へプレスし

すぐにポゼッションを回復した。

浦和のアグレッシブなプレッシングは、特にベレーザの最終ラインでプレーする西川彩華をターゲットにしていた。

村松がボールを持つと、浦和の1トップでプレーする菅澤が寄せパスコースを限定。
コースを限定された村松が、横でプレーする西川にボールを出すとその横パスをプレッシングトリガーとし、猶本が西川にトップスピードで迫る。
7分の場面では慌てた西川はGKへバックパスをするしかなく、

同様に11分には慌てた西川は、清家がコースを切り既にパスコースを失っている木﨑へパス

ボールを前進させることは出来ず、辛くもタッチラインに逃れた。

プレッシャー下でボールを繋げない西川は、次第に前線へ長いボールを選択する場面が増える。

しかし、”意図的に”風下を選択したが故に、ロングボールはいずれも精度を欠き、

ボールを簡単に相手に渡してしまっていた。

この日の浦和は守備だけでなく、攻撃面でもベレーザ西川を標的にしていた。

35分、清家が自陣から縦に一本のシンプルなボールを裏へ入れると

ハーフウェイラインでは菅澤の前を走っていた西川だが、

その直後、菅澤のスピードに追いつかないと判断し、村松が対応、西川はカバーリングへ回った。

38分には柴田のボールから猶本が裏へ抜けようとするところを西川が対応するも、

またしてもスピードで追いつかず、なんとかクロスを足に当てコーナーに逃げるのが精一杯であった。

1対1の同点で迎えた67分、エリア内へ入ってきた清家へ西川が対応しようとするが、

侵入を止めることはできず、折返しのボールを塩越に決められ

浦和に勝ち越しを許した。

現在のベレーザのサッカーは、ピッチ上のどの位置でも「フリーになる」→「ボールを受ける」→「相手を引きつける」→「フリーの選手へパスを出す」の基本を繰り返しながら、数的、質的、位置的な優位を形成していくサッカーを基本としている。

それは最終ラインでプレーする選手も例外ではない。

相手からのプレッシャーを受け、ショートパスで出せるコースが全て塞がっているように見える時、パスコースは相手のプレスのラインの裏側にあることも多い。

今季見事に優勝を果たした皇后杯では、ベテランCB岩清水が相手のプレスの後ろ側のハーフスペースで待つ前線の選手へ鋭いパスを何本も通していた。

前半風下に立っていたことを差し引いても、長くふわりとしたボールは滞空時間の間に相手が守備を整えることができるため、好ましくない。

ベレーザの守備陣には岩清水のような速く正確なパスが求められる場面が多くある。

そのような長く鋭いパスを出す以外にも、自らドリブルでプレスを剥がすことも重要となる。

また、このサッカーで主導権を握るためにはフェーズスペースをコンパクトに保つため、守備陣はラインを高く設定する必要がある。

その為、相手が裏へ抜けようとする場合には強い強度の対人守備だけでなく、場合によってはGKと連携しクリアすることや、ファールによって止める必要がある。

守備のリスクを”計算されたリスク”とするため、より正確な状況判断、勇気をもった意思決定力が今後求められるだろう。

シュートの確率と”決定力”

序盤から終始浦和のペースであったが、この日先制したのはベレーザであった。

29分、右サイドでボールを持った松永がドリブルで粘り、6番の位置でプレーする木下へマイナス方向にパス

その木下からふわりとしたクロスをファーで頭で植木理子が合わせ

見事にゴールネットを揺らした。

今季、ベレーザはファーサイドに高いボールを上げ、ヘディングでシュートを狙う形を多用している。

前節ジェフレディース戦でも、この先制点のように、右サイドで松永がボールを持ち駆け上がり6番の位置でプレーする菅野へマイナス方向のパス、菅野がファーで待つ植木へクロスを上げ、植木はヘディングシュートを決めたが、惜しくもオフサイドの判定によりゴールは取り消しとなった。

第16節 ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦

このファーサイドを狙ったボールはかつてチームメイトが”頭利き”と評したFW植木理子の特徴と、サイドで1対1の状況を作るベレーザの戦いと相性が良いが、一方でいくつかの課題も残る。

まず、WEリーグにはVARは導入されておらず、またレフェリーの質も低い
その為、先述の第16節のように、際どい位置で抜け出しクロスに合わせる形を狙うことは、必要以上にオフサイドの判定となる確率が高い。

加えて、ヘディングシュートは一般的に同じ位置(座標)で地面にあるボールを蹴ってシュートする場合に比べてシュートの成功確率(ゴール期待値)が低いことが知られている。

実際に、先日WEリーグが公開した2022-23シーズン第11節終了時点までのデータを見ると、1シュートあたりのゴール期待値(xG/Shot)は0.135であり、浦和の0.152に比べ低い。

InStat社WEリーグテクニカルデータ 2022-23シーズン第11節終了時点

また、いくらヘディングシュートが得意な植木を擁しているとはいえ、角度の無いファーからヘッドを決めることは容易なことではなく、実ゴール数とゴール期待値の合計の差(本来決めていてもおかしくないゴール数と実際の乖離)はベレーザは-9.51と大きく下回っており、浦和の-2.51と比較しても低く、ベレーザFW陣の”決定力”の課題に対して現在の攻撃のデザインが正しいかどうかは検証が必要となるだろう。

奢らず謙虚に、過剰なくらいの自信を持って

1点ビハインドの状況で迎えた試合終盤、ベレーザは前節に続いてまたしても4−4−2から3−2−5のWMフォーメーションへシステムを変更する。

4−4−2の相手に対し3−2−5の陣形で並ぶことは、相手の最終ラインに対してそれより多い人数で攻撃を仕掛けることが利点となる。

両サイドのウィングが深い位置で幅を取り相手のDFラインを広げながら、その間でボールを受けることによって、自分たちがプレーするスペースを確保しなくてはならない。

しかし、勝ち越し弾がほしいという焦りの気持ちが強いからか、ベレーザは相手の密集するスペースを避け、その外側でボールを受けようとしてしまう。

ベレーザは勝ち続けなければならないクラブである。

しかし、それはクラブがこれまで沢山のトロフィーを獲得したからでも、多くの優秀な選手たちを輩出してきたからでも決して無い。

今いる選手たちにその実力があるから、勝利を求められているのだ。

優秀な下部組織から切磋琢磨しトップチームに昇格してきた選手や高校サッカーで各チームのエースを務めていた選手が多く所属するベレーザは、個々の技術力が突出して高い。

公開練習や試合前のウォームアップではその技術を活かした密集した状態での正確なボールコントロール、状況判断、パスの能力を発揮している。

そのような技術は、浦和の密集した守備相手にも発揮しなければならず、自分たちの技術の高さに自信を持って、密集したブロックの中でしっかりパスを待ち、ボールを受け、次のプレーに繋げることが期待される。

今季の優勝争いから大きく後退した今、「毎試合勝って当然」というような奢りは(当たり前だが)持つべきではない。

しかし、自らの技術の高さを今一度信じ、狭いエリアでのボール回し、大きなサイドへの展開など、これまで続けてきたことをさらに進化させる必要があるだろう。

残り5試合、ベレーザの選手たちが自分たちにとって価値のある試合にしてくれることを期待したい。

もし面白いと思っていただけたり、興味を持っていただけましたら、サポートではなく、ぜひ実際にスタジアムに足を運んでみていただけると嬉しいです。