’22-’23WEリーグ第20節 INAC神戸対ベレーザ
2023年5月28日
INAC神戸レオネッサ 2-2 日テレ・東京ヴェルディベレーザ
ベレーザの4-2-3-1と山下のキック力
首位浦和との直接対決を引き分けて以降、3バックの布陣に変え2連勝を飾ったベレーザは、2位と3位の"Six-Pointer"となるINAC神戸レオネッサとの一戦を迎えた。
前々節怪我で途中交代した村松が先発復帰したベレーザは非ポゼッション時レフトバックに北村が入り4バックを形成
前線には1トップの植木の後ろに左から松永、小林、藤野が並び、ダブルピヴォットの菅野と木下を加え4−2−3−1の布陣を採用した。
前線の”3−1”の4枚が前に残ることでINACの3バック(土光、三宅、脇阪)とアンカーの伊藤と数的同数になりマンツーマンの形でプレッシャーをかけるベレーザであったが、INACはWEリーグ屈指のパス能力を持つ山下が積極的にボールに関与することでベレーザの守備をいなす。
開始早々に村松のミスで失点し0−1のビハインドで迎えた前半14分、その山下から前線の田中美南を狙った正確なロングボールが入ると
田中が頭でフリックし、裏へ抜け出した愛川へボールが通り
愛川がキーパーとの1v1を冷静に制し、INACはリードを2点に広げた。
左サイドへの偏重
今季これまで左のウィングに北村がプレーするときは似たようなドリブラータイプである松永や山本を反対の右サイドで起用してきたベレーザであったが、この日の4−2−3−1ではその北村と松永の両方を左サイドで起用した。
さらに、右サイドの藤野が頻繁に外から中へ入ってプレーすることで、ベレーザは攻撃を左サイドに偏重することになる。
ベレーザの1点目はこの左サイドへの偏重をまさに象徴するものとなった。
30分INAC右ウィングバック守屋から松永がボールを奪取すると植木がゴール前までボールを運ぶも
シュートまで行けずに藤野を経由しライトバックの宮川までボールが流れてしまう。
左サイドに偏重しているため右サイドから攻撃を展開できないベレーザは宮川から木下を経由して左サイドの北村へボールを戻すと
その北村からPAへクロスが入り、こぼれたボールを小林がボレーでネットに突き刺し
ベレーザは1点を返した。
INACの右サイドには今季自由なポジショニングと積極的な攻撃参加でブレイクを果たしたWB守屋がいたが、このベレーザの左サイドに偏重した攻撃により、守屋は守備に専念をせざるを得ず、この日彼女がアタッキングサードでクロスを供給したのは61分にPA内で折返しの低いボールを入れたのが最初となり、それまでの約1時間攻撃にほとんど参加することが出来なかった。また、守屋のシュート本数も後半にわずか1本を放ったのみとなり、ベレーザの左偏重のシステムにほぼ完封されることとなった。
理想のビルドアップを組み立てて
菅野と木下のダブルピヴォットが先発ラインナップに定着してから初めての上位チームとの対戦となった今節、INACのプレスの強度により、現在のベレーザの課題が浮き彫りとなる内容となった。
INACは前線の田中、愛川の2枚がベレーザのダブルピヴォットをシャドーに捉え、パスコースを限定しながらボールホルダーにプレッシャーを与える
この状況下でボールホルダーの田中桃子は前線で待つ植木へのパスを選択するが、
その植木は近くの藤野へのパスを選択するも繋がらずポゼッションを失ってしまう。
仮にボールが綺麗に前進した場合でも、60分のこのシーンのように菅野が最終ラインまで下がりビルドアップに参加、村松がINAC田中を引きつけその背後の木下にスペースが与えられると、坂部を経由して木下にパス
その木下から相手ラインの間にフリーで待つ小林へパスが出るが
その小林の前には広大なスペースがあり、パスのオプションも複数あったが
その小林の選択は遠目からのシュートであり
決定機を作れずに攻撃のチャンスが終わった。
これらシーンは現在ベレーザが抱える「パサー不足」の問題の表出と言えるだろう。
現在のベレーザはチーム随一のパス能力を持つ菅野、木下の両選手を6番の位置で起用しているが
(冒頭4分のシーンのように)最終ラインから6番の位置に直接ボールが出てこない
その為、6番のどちらかにボールを入れるためにはもう一人が最終ラインまで下がる必要がある
(60分のシーンのように)どちらかが下がって繋げた場合でも、相手の最終ラインと中盤の間で受け取るのがパサータイプではない前線の選手になってしまう
という状況に陥り、相手PA前中央の”Zone 14”からのラストパスが出てこない。
これまでサッスオーロ、シャフタール・ドネツクで欧州サッカーを席巻し、今季よりイングランド・プレミアリーグのブライトン&ホーブアルビオンを指揮しその名を世界に轟かせているデ・ゼルビ監督は、特徴的なダブルピヴォットを活かすビルドアップを採用している。
この動画が解説するように、デゼルビのブライトンはダブルピヴォットにあえて相手の1列目のプレッシャーのラインの背後に立つように指示
その代わりに、一度そのピヴォットの前にいる選手へボールを預け、その選手からピヴォットの位置の選手が前を向いてボールを受け取るようデザインしている。
また、この動画が解説するように、このピヴォットを”Third Man(第三の選手)”として間接的にパスする動きは様々なバリエーションがあり、
相手に的を絞らせず、ピヴォットが前を向いてボールを受ける形を複数用意している。
現在の菅野、木下の両方を6番として起用するベレーザも、このようなビルドアップで、いかに二人が前を向いてボールを受け、前線に並ぶストライカーへボールを供給するかが鍵になるだろう。
今節の結果により、惜しくも優勝の可能性が完全に消滅してしまったベレーザだが、残り試合数が2試合となってもまだまだ進化の伸びしろを秘めたチームである。
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