'22-'23 日テレ・東京ヴェルディベレーザ シーズンレビュー 前編

清水梨紗の移籍と育成の伝統

昨季WEリーグ初年度を3位で終え、巻き返しを図るベレーザの2022−23シーズンはアメリカ遠征と共に始まった。

一部のトップクラブを除いて、コンタクトに強く縦に速いスタイルが主流の女子サッカーにおいて、ベレーザがここまで積み上げてきたポゼッション志向のスキルフルなサッカーがどこまで通用するか楽しみなThe Women’s Cup参戦であったが、ACミランとの一戦ではその縦に速いカウンター攻撃から3失点し敗戦。続く5−6位決定戦ではトッテナム・ホットスパー相手に見せ場を作りながらも最後はセットプレーから岩清水がスーパーゴールを決める辛勝。これまで積み上げてきた自分たちのサッカーへの手応えと共に、成長の余白を感じる海外遠征となった。

アメリカ遠征から帰国後、2020シーズンから主将としてチームを率いた清水梨紗の海外移籍が発表される。

海外遠征から僅か1週間後に始まったWEリーグカップでは、米国遠征前に土光真代との”実質トレード”の形で加入した西川彩華や、メニーナから昇格した坂部幸菜、守備的MFとして活躍する岩﨑心南をライトバックとして起用し、試行錯誤しながらなんとかグループステージを突破。

しかし、決勝では一時は3−0でリードするも残り時間15分で追いつかれ、PK戦の末敗戦。試合後の表彰式では多くの選手が人目を憚らず涙を流す悔しい敗戦となった。

悔しさを胸に臨んだ2年目となるWEリーグでは、リベンジの機会がすぐに訪れる。
アルビレックスレディースとの開幕戦を1−0で勝利し、臨んだ浦和とのリベンジマッチでは守備が崩壊し3−5で敗戦

清水梨紗の穴を埋めるためにクリエイティブな解決策が求められる中で迎えた第3節、ベレーザはこれまでレフトバックとして活躍した宮川麻都をライトバックに起用し、右ウィンガーの木村彩那をレフトバックとして起用する

レフトバックに起用された木村は、持ち前のサイドでの攻撃力をいかんなく発揮した。

第3節 ノジマステラ神奈川相模原戦
第3節 ノジマステラ神奈川相模原戦

第4節アウェーでの長野戦では、右利きの宮川、左利きの木村がそれぞれ利き足と同じサイドで試合をスタートしながら、途中から左右をスイッチし、利き足と逆のサイドでプレーする。

第4節 AC長野パルセイロ・レディース戦
第4節 AC長野パルセイロ・レディース戦

利き足と同じサイドでは外側からのクロスを、利き足と違うサイドではカットインしてからのスルーパスと、特性を活かし攻撃に変化を付け、2−0で快勝した。

現在リヴァプールFCでライトバックとして活躍するトレント・アレクサンダー=アーノルドは育成年代では中盤の選手として活躍し”次期スティーブン・ジェラード”として将来を期待されていた。

しかし、トップチームでの選手層を検討した結果、ユースコーチ陣は彼のポジションをコンバートすることが、最も早くトップチームで多くの出場機会を得られると考え、ライトバックにコンバートした

現在のベレーザも前線に日本代表クラスが多く在籍しており、木村彩那のフルバックへのコンバートのように、下部組織であるメニーナに所属する選手も、ポジションを変更することによってトップチーム昇格後に出場機会を増やせる可能性が高い選手が多くいるだろう。

特に眞城美春のようなタイトなエリアでボールをコントロールできる高い技術を持った選手は1列前、または1列後ろのポジションを経験することで、ベレーザの可変システムに対応出来る選手になるのではないだろうか。

木村彩那の新たなポジションへの挑戦は、彼女自身の伸びしろだけではなく、ベレーザという育成に伝統を持ったクラブのさらなる伸びしろを示していたのかもしれない。

WMフォーメーションという解決策

リーグ第5節終了後に理念推進日、皇后杯4回戦を挟み久しぶりのリーグ戦となったクリスマスイヴのアウェー大宮戦で、ベレーザは新しいシステムを試みる。

それまで出場時間が限定されていた宇津木瑠美がレフトバックとして非ポゼッション時4バックを形成する最終ラインから、ポゼッション時ライトバックの宮川が右ウィングの高いポジションまで上がり3−2−5のフォーメーションに変形するシステムを採用。

第7節 大宮アルディージャVENTUS戦

100年以上前にアーセナルの伝説的名監督ハーバート・チャップマンが考案し、また今季プレミアリーグで当時2位に低迷していたマンチェスター・シティが2月頃から採用しリーグ逆転優勝を含むトレブル獲得の原動力となったWMフォーメーションを導入した。

第7節の大宮戦では、4−4−2のミドルブロックで守る相手は、突如前線に5枚目が現れるベレーザの攻撃に対応出来ず

第7節 大宮アルディージャVENTUS戦
第7節 大宮アルディージャVENTUS戦

間延びしたディフェンスラインにより中央にスペースが生まれただけでなく、植木、小林、藤野のタイプの異なる3人のストライカーが、これまでの4−3−3で離れた位置関係にあった時と比べ、より近い距離でプレーすることが可能となり、相手に脅威を与えた。

また、守備ではこれまで攻撃的な中盤の選手として活躍してきた木下が三浦成美と共にダブルピヴォットを形成し、

第7節 大宮アルディージャVENTUS戦

3−2の強固なレストディフェンスを形成することで、相手のカウンター攻撃により上手く対処できるようになった。

続く皇后杯でも同可変システムを採用したベレーザは順当に決勝に進出。
INAC神戸レオネッサとの決勝戦でもWMフォーメーションで臨んだベレーザは

第44回皇后杯決勝 INAC神戸レオネッサ戦

ディフェンスラインから宮川が攻撃に加わる右サイドからINACの守備を崩し先制点を奪い、

第44回皇后杯決勝 INAC神戸レオネッサ戦
第44回皇后杯決勝 INAC神戸レオネッサ戦

4−0の快勝で見事に皇后杯を制覇した。

久しぶりのタイトル獲得だけでなく、現行のスクァッドの”最適解”とも言えるシステムが見つかり、リーグ後半戦に巻き返しを図るかと思われたベレーザであったが、3バックの中心から相手のプレスのラインを簡単にパスで割ることの出来る岩清水梓はこの日を境に今季終了時まで出場することはなく、

第44回皇后杯準決勝 アルビレックス新潟レディース戦

さらに、永田雅人監督(当時)就任以降のベレーザにおいて不動のアンカーとして活躍した三浦成美のNWSL挑戦が決定。

開幕時の清水梨紗の移籍同様、替えの効かない選手がまたしてもクラブを去ることとなり、ベレーザはリーグ後半戦に再び試練を経験することとなった。

(後編はこちら)

'22-'23WEリーグ前期マッチレビューまとめ

第1節 アルビレックス新潟レディース戦(H) ◯1−0

第2節 三菱重工浦和レッズレディース戦(H) ●3−5

第3節 ノジマステラ神奈川相模原戦(A) ◯1−3

第4節 AC長野パルセイロ・レディース戦(A) ◯0−2

第5節 サンフレッチェ広島レジーナ戦(H) ●0−1

第7節 大宮アルディージャVENTUS戦(A) ◯0−2

第8節 マイナビ仙台レディース戦(H) △0-0

第44回皇后杯決勝 INAC神戸レオネッサ戦(N) ◯4−0

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