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渋谷と新宿の生態系を観察する:『リ/クリエーション』2/8合同フィールドワークレポート


「渋谷さんと新宿さん」

 「渋谷と新宿を人に例えるとどんな違いがある?」ナビゲーターの清水文太さんからあらかじめ投げかけられていたこの問いから2月8日の『リ/クリエーション』合同フィールドワークは始まりました。渋谷のど真ん中にあるSHIBUYA QWSにいながら新宿に言及したのは、違いを通じて街への理解をより深めるためです。
 清水さんは水曜日のカンパネラのスタイリングからキャリアをスタートし、現在では様々なアーティストや媒体・広告でのスタイリング、アートディレクション、音楽作品の制作からコラムの執筆に至るまで、幅広くクリエイティブな仕事を手がけています。特にスライド等も使わず、彼はシンプルかつフランクにこの日のフィールドワークの趣旨を語ってくれました。


 ちなみに、この文章を書いているのは『リ/クリエーション』のマネージャーを務めている朴です。はじめまして。今回のフィールドワークに自分も参加しながら、清水さんのお話を体感するなかで、私もいろいろ思うところがありました。
 渋谷の街にはどんどん新しい商業施設とそれに伴う新たな賑わいが生まれています。渋谷から伸びる様々な路線の沿線に住む人々が、そうした商業施設に夜遊びに来たり、会員制の朝活コミュニティに参加したりします。再開発によってこうした多様な人々の集いが生まれつつありますが、若者によるストリートカルチャーのような、渋谷にもともと持続的にあった文化が少し見えづらくなってきていることも事実です。散らばった人たちが、建物や場所を固定せずに一時的に集まるコミュニティが多い場所になってきたともいえるかもしれません。

 その一方で、新宿には特定の建物や場所に根付く多様なコミュニティがはっきりとあります。建物であれば伊勢丹、場所であれば歌舞伎町や新宿二丁目がすぐ例に思い浮かびます。重要なのは、こうしたコミュニティの差異は優劣でなく特徴だということです。人によって、どういうコミュニティが好きかは異なります。受講生たちはこの二つの街を、良し悪しではなく比較するため、人に例えて描き出して語り合いました。各々が持つ渋谷・新宿のイメージをこの擬人化でとらえたあと、フィールドワーク後の報告から得られたイメージと比較対照すると、どんな差異が現れるのでしょうか。

 フィールドワークの具体的な内容はふたつ。ひとつめは新宿歌舞伎町付近で食事をして、そのお店の雰囲気・会話・客層を観察することです。清水さんが知っている新宿の面白いお店(例えば、飲食店を居抜きで作り替えた服屋「THE FOUR-EYED」や、水商売のお姉さんや強面なお兄さんなどかなり独特な客層が特徴の喫茶店「マリエール」など)が例として挙げられましたが、受講生たち自身の嗅覚を大切にしてもらうため、携帯電話の使用は禁止にしました。そしてふたつめは道行く人々に「新宿はどんな場所か?好きか?渋谷はどう思うか?」とインタビューをすることです。
 ワークは3人1組で行われ、各グループのメンバーはそれぞれメモ係、タイムキーパー、インタビュアーの役割を振られました。そしてこのフィールドワークで調査したことを、「小学生でもわかるように」模造紙にまとめて発表し、共有します。受講生は清水さんの直感で10グループに振り分けられ、新宿へと向かいました。

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▲清水さんの直感で行われた受講生たちのグループ分け。「あまり話しそうにない」組み合わせを意識したという。

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▲ナビゲーターの清水文太さん(画面中央)とBコースディレクターの中村茜(画面左)、アシスタントの栗田結夏も新宿に向かう。


銀行・画廊・タイカラオケ


 筆者は各コースのコミュニティリーダー2名とグループになり、QWSを出てすぐの副都心線に乗りました。新宿三丁目駅で降りて歌舞伎町に入ります。手持ちのお金がなかったので銀行を探しますが見当たりません。歌舞伎町ではかなりの金額が日々やり取りされているはずなのに、目につく場所に銀行がないのは意外でした。仕方ないのでコンビニでおろすことにすると、ATMがなぜか店内でなく店外にあります。ガラス張りの別室のような設えでしたが、安全のためなのでしょうか。

 歩いていると目の前に新宿眼科画廊があったので、入ってみました。写真展を開催していたのでで、在廊している方に「渋谷をどう思いますか?」と聞きました。すると、渋谷に住んでいるわけではないが、渋谷はいろいろな人がいて、再開発で都市の風景が変わり続けているため、スナップ写真を撮るなら渋谷のほうが面白い、と答えてくれました。

 その後、画廊を出て、飲食店を探して歌舞伎町を歩きました。大通りに面する端には、ホテルが密集しています。中心部に進んでいくと、寿司屋・中華・焼肉屋・ラーメン屋が多く見られます。もう少し軽めのものが食べられるお店はないかとうろついていると、地下に続く階段の前にタイ料理屋「マラコー」の看板を見つけました。さっそく階段を下りて店に入ります。紫色の照明の中、タイ語のカラオケの音楽と映像が流れる独特な空間でした。料理を頼み、各々好きな曲を一曲ずつ歌います。頼んだガパオご飯とタイ風やきそばが届いたタイミングで、ホール担当の若い男性に「新宿は好きですか?」と聞いてみました。すると新宿も日本も好きだという答えが返ってきました。このお店はもう30年やっている老舗だといいます。20時の今はほとんど客がいないが、24時からは混みはじめる、とのことでした。気がつくともう時間がありません。2時間はあっという間でした。急いでQWSに戻ります。

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▲歌舞伎町のホテル街。飲食店はまた別の場所に密集している。

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▲タイ料理店「マラコー」のきらびやかな店内。

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▲料理は1500円均一。計算を楽にしたかったのだろうか…


居場所としての新宿、通り道としての渋谷


 受講生のグループも三々五々QWSに戻りはじめました。前回の合同フィールドワークで会得したビジュアルランゲージの技法も活用しつつ、各グループで「小学生でもわかるように」調査内容を模造紙にまとめていきます。文字を中心にまとめるグループもあれば、イラスト中心にまとめるグループもありました。全グループがまとめ終わったタイミングで、一か所に模造紙を集め、まずは回遊してそれぞれの内容を眺めます。続けて、清水さんと中村、このタイミングから参加となったナビゲーター臼井隆志さんから各グループ毎に模造紙を眺めながら質問を投げかけ、受講生とディスカッションを行いました。

 清水さんから紹介があった「THE FOUR-EYED」や「マリエール」を訪れたグループは数多く、「THE FOUR-EYED」では個性的な品揃えや、清水さんの即興スタイリングに惹かれて服や帽子を買った参加者もいました。インタビューの内容は多様ながら、新宿のコミュニティの特徴が色濃く出たものとなりました。店で何もすることがないので新宿の街中をうろついているチェーン居酒屋の店長、明日初ライブだというバンド「地獄フレンズ」のメンバー、二丁目のゲイバーに飽きて今は三丁目で楽しんでいるという一見客引きのようなバーの客(清水さんからはさくらではないか?との指摘がありました)。28年前に韓国からやってきたという大久保の居酒屋の店長は、もともと植木屋の修行で日本に来たが、今は家が小さくなり庭がなくなったので、商売が成り立たなくなり転身したのだと言います。

 清水さんから、「新宿の人はみな、知らない人の質問に楽しんで答えている」との指摘がありました。歌舞伎町には怖いというイメージがどうしても付きまといますが、質問をすると皆きちんと答えてくれます。コミュニティに応じた住み分けがはっきりしており、お互いに距離感をもって存在しているのです。様々な「居場所」が新宿には存在していました。一方で、渋谷は次の目的地に急ぐ人が多い「通り道」という意見もありました。ここでどういうコミュニティを立ち上げていけるのでしょうか?

 最後にあらためて「渋谷と新宿どっちが好き?」という清水さんからの問いがあり、その答えを帰り道で録音することが、このフィールドワークの締めくくりとなりました。その街が「居場所」なのか、「通り道」なのか、それは人によって無論異なります。わたしにとって「居場所」・「通り道」の街はそれぞれどこなのだろうか?二つの街の生態系の調査からは、こんな問いが浮かび上がります。このフィールドワークの後、渋谷はそもそもどういう場所なのか、について興味を持った受講生による自発的なフィールドワークも行われています。街の具体的な面白さを知り、それをより掘り下げるきっかけとなりました。


これまでの『リ/クリエーション』活動記録はドリフターズ・インターナショナルのnoteからチェックしてみてください!
▶︎https://note.com/qwsdrifters


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▲発表のためには色鉛筆・クレヨン・絵具・マーカーなど多様な画材が用意され、受講生たちは質感も大切にしながら模造紙に報告を描き込んでいく。

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▲清水と受講生のディスカッション。あくまで同じ目線で、各発表のユニークさを掘り下げていく。

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▲模造紙の多様性からわかるように、新宿における様々な人々の「居場所」を観察・調査・報告するフィールドワークとなった。



写真:リ/クリエーション事務局
文:朴建雄

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