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「美女と野獣」というディズニーの壮大な実験

話題の実写版「美女と野獣」を見てきました。

昔からディズニーのプリンセスシリーズが大好きで、その中でも「本が好き」という共通点からベルが一番の憧れだった私にとってとても感慨深く、大人向けに作られた素晴らしい作品だなと思いました。

コンテンツそのものへの感想も言いたいことはたくさんあるのですが、鑑賞後にこの実写版が作られた背景について考え、こんな一連のツイートをしました。

ツイートにも書いた通り、アニメ版と比べてもディナーのシーンにたっぷり時間を使われていたこと、行きたいところに連れていってくれる魔法の本というオリジナルストーリーが挿入されていたことから、おそらくこの2つはディズニーランドに新しくできる美女と野獣ゾーンのアトラクションになるのだと思います。

参考:東京ディズニーランド/東京ディズニーシー 今後の開発計画について

ちなみに本場ディズニーワールドには美女と野獣のお城をイメージしたレストランがあるようで、だからこそ映画でもディナーシーンがじっくり描かれていたのかもしれません。

参考:待ちに待った!ビー・アワー・ゲスト・レストランでのディナー

ただ、資本関係があるわけでもなく、本国のディズニーワールドに比べても規模の小さい東京ディズニーリゾートのためだけに、莫大な予算をかけてつくる映画のコンテンツを変えるとは思えないので、おそらくディズニー本体としても今回の取り組みは実験的な取り組みなのだろうと思います。

これまでは映画ありきで、そこにあわせてアトラクションを作ってきたはずです。

しかし、今回の実写版「美女と野獣」は、アトラクションありきでコンテンツが考えられているように感じました。

新エリアの創設が発表された時、「なぜ映画の実写化程度で新しいエリアをつくるのか?」という意見をたびたび目にしましたが、おそらく順番が逆で、新エリアありきで映画が作られたのではないかと思います。

つまり、映画単体で稼ぐのではなく、あくまで映画はパークへ誘導するためのプロモーションの一環なのではないか、と。

そしてその試みが本当に期待通りの効果を出せるのかを、東京ディズニーリゾートで実験する気なのではないかと思います。

もしうまくいけば、今後本国でもアトラクションの建設と映画の製作が同時進行になっていくのかもしれません。

ちなみにこの実験に採用されたのが「美女と野獣」であったのも、かなり考え抜かれた戦略のように思います。

まず、プリンセスシリーズは女性から根強い人気があるのでハズレがない。

しかも新しいプリンセスを作るのではなく、ほとんどの人があらすじを知っている馴染み深いプリンセスシリーズをリメイクしています。

そのため、実写版を見ていない人でもアトラクションを楽しむことができます。

そして認知度の高いプリンセス6人(白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫、アリエル、ベル、ジャスミン)の中でもベルを選んだのは、6人の中でもっとも時代にあったヒロインがベルだったからではないかと思います。

ディズニープリンセス第一期の3人(白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫)は、典型的な「受け身型」のプリンセスです。

どれも1937年〜1959年に公開されており、待っていれば王子様が現れる王道ストーリーです。

ロマンチック度は高いものの、現代でリメイクするにはプリンセス側の動きが少ないため共感を得づらい部分はあると思います。

それに対して第二期の3人(アリエル、ベル、ジャスミン)は1989年〜1992年の公開だけあって、自ら主体的に動くシーンがたくさん散りばめられています。

働く女性に届けるためにプリンセスの葛藤や苦労を伝える必要があり、その中でも「美女と野獣」はロマンチック度とヒロインのアクティブさのバランスがよく、バラというアイコンにしやすいアイテムもでてくることからこの作品が選ばれたのだろうと思います。

すべて私の推測ではありますが、たとえこの理由が後付けだとしても、これだけ「失敗しない」要素がつまっているのが美女と野獣という作品なのです。

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ツイートにも書いた通り、ディズニーの強さはコンテンツ単体で収支を考えずにすむ点にあります。

テーマパークはもちろん、ライセンス契約を含むグッズ販売も大きな収益につながります。

映画単体の収支はトントンだったとしても、他のキャッシュポイントで利益を上げることができる目算があるからこそ、映画に先行投資し、クオリティの高いコンテンツを作ることができるのです。

そのコンテンツをきっかけに、テーマパークに大勢の人が訪れ、グッズを買うという好循環を回し続けられるのが、ディズニーという会社の強いところです。

さらに、彼らはコンテンツ製作機能とテーマパークの運営を同資本内に抱えているため、映画とアトラクションをシームレスに開発できる点も強みです。(※ここでいう「テーマパークの運営」は、オリエンタルランドではなく本国のディズニーワールドの話です)

ライセンスを買い付けてアトラクションに反映するのではなく、アトラクションありきで映画をつくることができる、つまり映画をプロモーションの一環として利用することができるのです。

現に、「美女と野獣」を見たことでディズニーランドに行きたくなった人も多いでしょうし、ほとんどの人が美女と野獣ゾーンのオープンを楽しみにしていると思います。

コンテンツ単体で利益を上げるのではなく、コンテンツをフックにしてその先に体験を用意し、そこにキャッシュポイントをつくる。

ディズニーは徐々にそちらの方向に舵を切っているように感じます。

映画館に今後求めらえるものも同様です。

コンテンツはあくまで「入口」であって、言うなれば異世界への入場料です。

入場料を無料にすれば多くの人が足を踏み入れてくれて、そこで過ごすことによってお金を落としてくれる。

後からお金を落としてくれるポイントを作るのが重要で、はじめから入場料だけで儲けようとすると、誰もきてくれない空き地になってしまいます。

こうした考え方は、キングコング西野さんが絵本の無料公開騒動の際に語られていたことと同じです。

無料化が生む格差

『えんとつ町のプペル』を無料公開したらAmazonランキングが1位になった

私も西野さんのブログに書かれていることに同意で、望むと望まざるとに関わらずこれは不可逆的に進行していく変化なので、早めに手を打っていくべきものだと思っています。

そしてそうした変化を敏感に察知し、早めに実験して次の手を淡々と準備しているディズニーは、やはり強く偉大な企業だと思います。

個人的にはあまりディズニーランドが得意ではないのですが、ディズニーワールドの「ビー・アワー・ゲスト・レストラン」や、2020年オープン予定の美女と野獣ゾーンにも足を運んでみたくなりました。

万人の心を動かすディズニー、おそるべし!

※注1:すべて私個人の推測なので、実際と異なる点が多々あると思います。こんな考え方もあるんだな、程度に受け止めていただければ幸いです。

※注2:そういえば西野先生は「ディズニーを倒す!」とおっしゃってた気がするんですが、ディズニーすごいなという結論の記事に引き合いにだしてよかったんだろうか…怒られたらどうしよう…!

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表紙画像出典:美女と野獣公式HP

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