中島卓也が、私たちに教えてくれたこと。

プロ野球選手たるもの、人生で一度はホームランを打ったことがあるはず。

その常識を覆してきたのが、我らが中島卓也さんである。

そんな彼が、プロに入ってから人生初のホームランを打ったこと。

このニュースまでの道のりは、ニュースそのもの以上に私たちに勇気と自信を与えるものだと思う。

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そもそも、プロ野球選手になるような子供というのは、総じて身体能力が高い。

さらに180cm超えは当たり前、190overもゴロゴロいる恵体スポーツエリートが集まるのがプロ野球界なのであり、現在投手として活躍している選手ですらも、高校時代にはガンガンホームランを打っていたということも珍しくない。

では、やはり人生で一度もホームランを打ったことがない選手はいないのか?

その疑問をもとに「水曜日のダウンタウン」が調査した結果、唯一人生でホームランを打ったことがないことが判明したのが、中島卓也その人だったのである。

このとき、やきう民たちが「中島wwwwwwwwww」と大いに盛り上がったのは言うまでもない。さすファウル打ちの名人、イメージを裏切らない。

そもそも、中島卓也はいわゆる野球エリートではない。

福岡工業高校時代に現在横浜で投げている三嶋(※1)と一緒に九州大会で優勝するなどしているが、当時はまったく注目されていない選手だった。

今でこそがっちりしてきた体も、高校時代は心配になるほどのヒョロヒョロで、ドラフト5位とはいえ少数精鋭を基本戦略とする日ハムが、なぜこんな無名な選手をとったのか不思議がったものである。

本人もまさかプロ野球選手になる道があるとは思わず、勉強もきっちりこなして工業生らしく危険物取扱者などの国家資格を5つ取得したエピソードも面白い。

しかしこのコツコツ努力できる能力が、プロに入ってから開花する。

相変わらず非力でバッティングでは貢献できないものの、堅実な守備であっというまに不動のショートへ登りつめ、一気に人気選手になった。

もともとショートというポジションはそこまで打力を求められないので、まずは守備力を上げることがスタメンへの近道なのだが、派手なビッグプレーは少なくても、中島はミスが圧倒的に少ない(※2)。投手陣からの信頼も厚いだろうと思う。

とはいえ、スタメンであれば打席も1日3回はまわってくる。

そこでの彼の戦い方は、まずバントをきっちり決めること。そしてランナーなしであればとにかくファウルを打って球数を稼ぎ、イライラした投手がボールをコントロールしきれなくなり、フォアボールを誘発して塁にでることである。

狙ってファウルボールを打つことを「カット」と呼ぶが、このカット打法と守備能力の高さでプロの第一線で活躍する中島の戦い方は、賛否両論がありつつも小柄で非力な野球少年たちには夢を与えてきたと思う。

野球は適材適所のスポーツなので、全員がホームランを打たなくてもいいし、ピッチャーも先発・中継ぎ・抑えとそれぞれ別の能力が求められる。スタメン以外にも代走・守備固め・敗戦処理と様々な役割があり、自分の得意なことを伸ばせば活躍できるのがプロ野球の世界なのである。

だから、自分の得意な部分に集中すれば、体が小さくてもホームランが打てなくても、憧れの舞台で活躍できる。それを体現してきたのが中島卓也なのだ。

「1回でいいから、ゆっくりベースを回ってみたい。」

そこまで振り切った戦略をとっていた彼が、まさかホームランを打ちたいと思っているとは想像もしていなかった。

北海道の番組で2017年の抱負を聞かれたとき、「ホームラン1本」と書かれたフリップボードに誰もが驚いた。

僕は今まで、ベースの上を全力疾走したことしかありません。だから、ホームランを打ってゆっくりベースを回る気持ちを、1回でいいから味わってみたいんです。」

全中島卓也ファンが泣いた瞬間である。

そして実際、2016年は2ベースヒットを含め「あわや」と思わせる長打が増えていたなとふと気づいた。彼は相変わらずコツコツ努力を重ねていたのである。

とはいえ、20年近くの野球人生の中で一度もホームランを打ったことがない選手の言うこと。

みんな半分ネタだと思っていたし、むしろ自分のスタイルを崩してこれ以上打率を下げないでくれ(※3)という思いもあった。ファンにとってはあくまで「中島卓也のホームラン」は夢物語でしかなかったのだ。

しかし、全員の予想に反して彼は打った。

地元である福岡で、人生初のホームランを放ったのである。

「中島卓也 ホームラン」という生涯見ることはないだろうと思っていた字面に同様するファンが続出し、野球クラスタは揺れに揺れた。

早実の予選敗退すらスルーしてしまうレベル(※4)で、衝撃的な事件であった。

あきらめずに努力すれば、私たちの可能性に年齢なんて関係ない

いち中島卓也ファンとしても非常に感慨深かったのだけれど、一人の社会人としても彼のホームランには感動させられた。

世の中には、どう抗っても勝てない天才というものがいる。

努力によって上にいけばいくほど、幼少期からのエリートとの差を痛いほど感じることになる。

それでも自分なりの戦い方を身につけてなんとか生き残っていけたとして、そこからさらに化け物たちと同じ土俵に立とうとはなかなか思えないものではないだろうか。

私が彼の立場だったら、ホームランを打ちたいなんて微塵も思わない気がする。自分には自分の戦い方があるから、と言い訳をして。

アマチュアの世界ですら打てなかったのに、プロの世界でホームランを打とうなんて、そこまで自分の力を信じきれない人の方が多いと思う。

でも今回の中島卓也の人生初ホームランを目の当たりにして、挑戦に年齢なんて関係ないことを改めて教わった。

「環境」を「制約」に変えているのは、私たち自身なのだ。

彼が「ホームランを打ちたい」と言ったとき、誰もが笑ったけれど、本人はその裏で目標に向かって淡々と努力を重ねていた。

なんて格好いい人なのか、と思う。

年を重ねるほど「分相応」を隠れ蓑にして、傷つかないように、笑われないように過ごそうとしてしまうけれど、その「分」は自分が勝手に設定した枠でしかない。

その枠を超えていくことこそが人生の面白さであり、いくつになっても「分相応」に収まらない人間でありたいと改めて思わされた事件であった。

プロ野球選手というのは、人に夢を与える仕事だ。

でもそれはホームランを何本打って記録を残すとか、多額の年俸をもらうということではなくて、誰もが自分の枠を超える可能性をもっているのだと、身を以て体現することなのではないかと思う。

私はこれからも、彼らを通して人間の可能性に夢を見たい。

そして、自分自身の挑戦が、いつもこうして夢を与えてくれる彼らに回り回って恩返しとして届けばいいなと思っている。

みんな!野球見ようぜ!!!!!!!!

***

(表紙画像出典:北海道日本ハムファイターズTwitter

※1...そういえば三嶋は昨年の遺紺試合ファイナル以来話題にのぼっていないがどこでどうしているのか!と思って調べたら2017年の防御率がすごいことになっていて閉口した

※2...守備指標の代表である守備率でいえば、2016年は今宮に次いで2位。これは個人の趣味の問題だが、プレースタイルでいえば守備好きからの評価は今宮より中島の方が評価が高い気がしている(私調べ)

※3...一方でだいたい打率が2割切ってるので、これより下がることはないという見方もある

※4...このせいでTwitterのトレンド入りできなかったのは非常に無念なことであった

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最所あさみ

白球を追いかけて。

"野球"の面白さについて、女子的なきゃっきゃした視点とか突然ビジネスっぽい視点とかちょっとななめな感じからおとどけします
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