地方の百貨店に見る新たな商機

おととい、ずっと楽しみにしていたストライプインターナショナルの石川さんとのトークイベントを開催しました。

石川さんのお話は最新の中国の動向や決済サービス、AI、残業のない組織を作るための具体的なステップ、ホテルやライブハウスといった「体験」を重視する理由まで幅広く、私自身とても楽しみながらお話を伺いました。

どのテーマもひとつひとつ記事が書けるくらい学びの多い、濃い時間だったのですが、個人的に一番印象に残ったのは、地方の百貨店の話でした。

私が百貨店出身ということもあって、「なんで人は百貨店に行かなくなったと思う?」と石川さんから逆に質問を受けたのですが、その際「今、地方の百貨店に可能性を感じている」というお話をされていました。

時間の制限もあってあまり深くはお伺いできなかったものの、私も最近地方の百貨店にこそ新たな商機があるのでは?と思っていたところだったので、私の見立てもそう外れていないのかも、と自信をもつきっかけになりました。

石川さんの目から見た地方の百貨店がどう映っているかはまた別の機会に伺うとして、私が思う地方の百貨店の強みは「人を滞在させる吸引力と物語があること」、それによって事実上の街の中心となり得るということです。

私は地方出身なので身にしみて思うのですが、地方においてもっとも集客力がある場所はイオンです。

駅前よりもイオンの周りの方が地価が高い、というのが冗談ではないくらい、地方におけるイオンの影響力は大きく、週末はごろごろするかイオンにでかけるか、というのが地方の実情です。

イオンには洋服屋さんもホームセンターもカフェもレストランもあって、映画館やボウリング、カラオケなど1日潰せる場所。

まさに"可処分時間を、いかに「まとめて」とるかの時代へ"で書いたように、地方に住む人々の「週末」という可処分時間をまとめてとっている存在なのです。

こうしたイオンの躍進によって、駅前を中心に広がっていた地方の百貨店は不振に喘ぎ、次々と閉店していきました。

しかし、私は閉店を含め、底打ち体験をした場所だからこそ、次に面白いことを仕掛ける場所として最適なのではないかと思っています。

まず、地方の消費を促進する上でネックになるのは「コミュニティが蜜すぎる」ということ。

地元のイオンに行けば必ず知り合いに会うし、いつも同じ顔ぶれで遊ぶことになるので、「おしゃれをしよう!」というモチベーションをもつ機会が東京に比べて極端に少なくなります。

さらに、車社会なのでドアtoドアで移動ができますし、「おしゃれな人をまちで見かける」という機会もほとんどありません。

だからといって、田舎町の人口を急に数万人単位で増やすのは現実的ではありません。

であるならば、せめてそのまちに短期で行き交う人の総数を増やすことが重要なのではないかと私は思っています。

旅より長く、移住より短く。

数週間〜数ヶ月のスパンでその土地に滞在する人が入れ替わり立ち代わりで増えていけば、常に新しい目が入ることになり、おしゃれをする意義や動機が生まれます。

ただし、そこで外部の人が足を向けるのはどこにでもあるロードサイド店舗ではなく、その土地にしかないもの、歴史や文化を感じさせる場所です。

そして、"「ラグジュアリー」の定義が変わる瞬間に、私たちは立ち会っている"でも書いた通り、その土地に根付く文化や歴史をベースにした「深い思想と豊かな物語」という宝は、地方にこそごろごろ眠っているのです。

特に、地方の百貨店は古い時代の建物も多く、活気あふれていた時代の面影を感じることもできる、象徴的な存在なのではないかと私は思っています。

今、実店舗の役割が「購買」から「体験」に移行している中で、館全体の使い方を見直す時期がきています。

しかし、都心の百貨店はなまじ売上が立ってしまっている分、なかなか抜本的に改革するのは難しいものです。

だからこそ、百貨店という箱をもう一度根本から捉え直して新しいチャレンジをするには、底打ち体験のある「地方の」百貨店に強みがあると思うのです。

さらに、その多くは駅前だったり、交通の便がいい場所にあることが多いのも、旅行者にアプローチしやすい強みです。

これから確実に人口が減っていく時代の中で、地元の人に向けた小売業は沈没間近の斜陽産業でしかありません。

しかし、その土地の精神性を体現し、文化を発信する体験場所、一種のミュージアムやアミューズメントパークとしての百貨店には、大きな商機があるのではないかと思います。

いまだに百貨店が大好きな元・百貨店マンとして、地方の百貨店という素晴らしい資産を有効活用する方法を、もう一段階深めて考えていきたいなと思う今日この頃です。

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