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たとえ、あなたが世界を敵に回しても

自分の好きな人が悪く言われているのを見るのはつらい。私はその何倍も応援しているのに、数が質を凌駕してしまう様を見るのもつらい。簡単に世界中が敵になる時代に、私たちは生きている。

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菅野は、誤解を受けやすい星のもとに生まれついているような気がする。

現監督の甥であり、巨人入団にこだわって一年浪人した経緯も、エースと呼ばれながらなかなか勝ち星に恵まれなかった時期も、ポスティングを使ってメジャー挑戦したものの交渉決裂したことも、彼のキャリアに紐づく話題は批判とセットであることが多い。

そして今年は開幕から不調に見舞われ、何度か登録抹消を繰り返した末にオリンピックの日本代表も辞退してしまった。日本球界最高峰の投手であり、ほんの数ヶ月前にメジャー挑戦の交渉をしていただけに、「コンディション不良」による辞退のニュースには厳しい声も見られた。

調子の波はどの選手にもあるものだが、今回は時期が悪かった。「メジャーにうつつを抜かしているから開幕にあわせて調整ができなかったんだ」と責められても仕方のないタイミングではある。批判する人の気持ちもわかる。だから余計につらいのだ。

菅野に勝ちがつくと、「嬉しい」よりも「ほっとした」が先にくる。エースである彼にとってチームを負けさせないことは義務であり、敗戦投手にならないことは必ずクリアしなければならない条件だ。勝ちがつくのは当たり前であり、負けは世界を敵に回すことを意味する。

だから菅野が勝つと、「今日は悪く言われることはない」とほっとする。彼は、たった一球でファンという味方が一気に敵になってしまうかもしれない世界で孤独に戦っている。

自分の好きな選手には、なるべく世界を敵に回すことなく、祝福と応援に包まれて過ごしてほしい。たとえ世界中が敵になっても、私は絶対に味方だからと伝えたい。あなたの努力は間違っていない、今の苦しみには絶対に意味があるから、と。

私がどれだけ声を張り上げたところで、所詮はインターネットの大海に紛れてしまう程度のものだ。でも、私が菅野について語り続けることで、彼にとって「敵じゃない範囲」が少しずつ広がればいいと思う。世論に流されず、センセーショナルな見出しに踊らされず、菅野のことだから彼なりの考えがあるのだと受け止めてくれる人たちの範囲を広げていくために、私は菅野について何記事も何記事も書いてきた。

上にいけばいくほど、話題になる機会も増えるし誤解が一人歩きして思いもかけない批判を浴びたりもする。影響力が高まるほど、批判の絶対数が増えて世界中が敵になったような孤独を味わうことになる。

だから、「私は何があっても敵にはならないから」と伝え続けていきたい。マウンドで孤独に飲み込まれそうになったとき、敵じゃない存在もいることを思い出してほしい。

菅野は努力の人だから、応援にも批判にも左右されることなく自分の力を最大限に発揮するために試行錯誤していることも知っている。私が応援してもしなくても、今日も明日も菅野がよりよい球を投げるために努力しつづけることは変わらない。
ただ、もし努力ではどうにもできないことに出会ったとき、それでも私たちは絶対に味方でいる、ちゃんと菅野を理解しよう、菅野の選択を受け止めようと思っている人たちがいることだけ知っておいてほしいと思う。結果がすべての世界にも、結果よりプロセスに価値を感じる人たちもいるということを。

これからも菅野はマウンドに立ち続けるし、私はそんな彼の味方であり続ける。
たとえ、あなたが世界を敵に回しても。

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