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それは、「着て行きたい場所」のある服か

そうだ、サンクトペテルブルクに行こう。

華やかさと悲惨さが同居する歴史、壮大な景色とクラシカルな建物によって彩られてきたこの街を訪れると決めたとき、同時に決めたのは『あのワンピースを持って行こう』だった。

どうやって行くか、どこに泊まるかよりも先に、『何を着るか』を決めた旅は今回がはじめてだ。

普通は旅行に行く格好といえば動きやすいジーンズや洗いやすいTシャツ、シワになりづらいカーディガンなのかもしれないけれど、私は動きづらくてかさばって、汚れやすいのに自宅では洗えないそのワンピースを、はるばる日本から持っていった。

『絶対に街に似合うと思うから』。

たったそれだけの理由が、他のすべての『持っていくべきでない理由』をふっとばした。

そして念願かなってそのワンピースを着て撮った写真には、想像以上の反響があった。

写真を褒められたのも嬉しかったけれど、何よりエルミタージュ美術館の中をこのワンピースで歩くのが本当に楽しかった。

豪奢な設えに、たっぷりとスペースのとられた大理石の階段。

どこを歩いても自分の服装とマッチしていて、まるで当時にタイムスリップしてお城に招かれたような気分になった。

それは旅行者らしいTシャツとジーンズの格好では味わえなかった体験だ。

ただ素晴らしい場所を見て回るだけではなく、『そこにいる自分』というその場所との関係性を構築する楽しみには、常にオンラインの関係性に生きる私たちならではの感覚なのかもしれない。

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昔、『洋服を売る上で必要なこと』と題して、『着ていく場所を作る大切さ』について書いたことがある。

だからこれから洋服を売るために必要なのは、"ハレ"の場をどう作っていくかなんじゃないかと思う。
会社帰りにデートするとか、出勤前に素敵な朝ごはんを食べに行くとか、そういうちょっとだけ特別な日をどう演出していくのか。
「ここに行くならちゃんとかわいい格好をしたいな」と思わせる場所づくりは、これからの小売に密接につながっていくような気がしています。

この考え方は今も変わっていないどころか、書いた当時よりもますます自分の中で確信を持っている。

しかし今回の旅で気づいたのは、単にハレ場所があればいいわけではないということだ。

どこかのために着ていく服ではなく、その服を着るために出かける場所を考えたくなる服であるかどうか。

それこそが『名指しされるブランド』をかたちづくる要素なのだと思う。

もちろんこれはかしこまった場だけでなく、アウトドアやライブ、フェスといったイベントごとでも同じことが言える。

『このアイテムを使いたい』『こんなファッションで行きたい』が先にあって、それを使うために行く場所を考えたくなるようなブランドは、ジャンルに限らず強いファンを持ち継続的に成長している。

もちろん人生はハレの日ばかりではないし、日常を彩る服やモノも必要だ。
しかし昔よりも写真や動画で記録に残すことが簡単になったからこそ、特別な体験の記憶には、『特別な自分』を添えたいというニーズが高まっているのではないかと思う。

街を歩くとき、私たちもまた風景の一部になる。

だからこそ、『これ着てあの街を歩きたい』と思える服があることは、とても幸せなことだと思うのだ。

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