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「美容誌化するファッション誌」の裏で起きていること

最近、女性ファッション誌が急激に『美容誌化』している。
もともと、ファッション誌と美容誌は完全に住み分けられてきた。

美容誌といえば、MAQUIA、VOCE、美的の御三家に加え、『美魔女』という言葉を生み出した美STや&ROSYなどアラフォー世代向けの美容誌も元気がいい。
書店の雑誌コーナーにいくと5、6年前には考えられなかったほど美容誌の面積が大きくなり、いい位置に棚が移動してきている。

こうした変化を感じ始めたのはこの2年ほどのこと。
さらに昨年からは、ファッション雑が美容誌に近づき始めたように感じている。

たとえば、大学生を主なターゲットとするViViがアンチエイジングを第一特集に持ってきたのは象徴的な変化だろう。この号は美容誌かと見紛うほどの美容推しだった。

さらに最新号のCanCamもファッションではなく『エモ顔の作り方』を特集。これまでの女性誌は洋服を見せるために全身かバストアップのショットが多かったが、美容を取り上げるようになってから顔のアップが増えたようにも感じる。

同じく20代向け雑誌であるminaも『スキンケア』を特集している。

こうした変化は若い世代だけではなく、アラサー・アラフォー世代にも及んでいる。特に顕著なのが大人MUSEで、『オトナミューズ美容部』と題したビューティー特集は昨年9月に続き2回目。半年で再度特集を組むくらい反響があったということだろう。

さらに美容旋風は付録の面にも現れている。
コスメパレットやネイルなど美容アイテムを付録にする雑誌が徐々に増えつつあるのだ。
特にGinaはほぼ毎号美容アイテムが付録なのではないかと思うくらいに付録を美容に特化させている。

こうしたファッション誌の変化は、消費者マインドの変化の現れでもある。

実際に、美容はこのモノが売れない時代に唯一といっていいほど伸びている市場なのだ。

富士経済の調査によれば、2015年から化粧品業界は年率3%前後で成長している。インバウンド需要も大きいとはいえ、小売でこれだけ成長している分野は珍しい。

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(出典:富士経済HP

さらに資生堂の調査で面白かったのは、スキンケアの市場が拡大し、購入先としてはデパートが市場を拡大していることである。

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(ともに出典:資生堂 annual report

雑誌やInstagramを見ても、年齢に関わらずスキンケア関連のコンテンツが多く、インナーケアや筋トレなど効果が出るまでに時間のかかる分野も人気だ。

私はこの数年ずっとなぜ美容がこれほど人気になったのかわからずにいたが、スキンケアの人気を目にしてやっと『これは達成欲と変身願望の合体による変化なのだ』と理解できた。

スキンケアやインナーケア、ワークアウトといったアプローチはすぐには効果が現れない。
一見するとこれはデメリットのように見えるが、実は即効性がないからこそ自分の努力として変換され、その努力による変化を自信に変えているのではないだろうか。

人の根底には、常に変身願望がある。
今よりよくなりたいという思いだけでなく、普段の自分とは違う姿になりたいとか、あのキャラクターになりきってみたいという欲求もある。
それが発露されているのがハロウィンといったイベントやディズニーといった空間である。

一昔前はその欲求をすぐに満たすアイテムとしてファッションがあり、ステータスとしてのバッグや靴といった小物があった。

しかし今やファッションはユニクロやGUで事足りるようになり、メルカリを使えば安くいいものを手に入れられるようになった。

さらに大きな変化は、未来が見通せなくなったこと、自分がこれから生きていくことに自信を失い始めていることにあるのではないかと思う。

だからこそ『これを使うだけで簡単に変身できる』ではなく、『自分の努力で変わる』ことに意味を見出し始めているのではないか、と。

つまりスキンケアをはじめとする長期の投資が必要となる美容活動は、就職難の時代に資格取得者が増えるのと似たような構図のように思われるのだ。

ビジネスの世界ではコスメが売れ始めると不況がはじまると言われているが、今の美容人気が未来への不安の現れなのであればその2つは無関係ではないのかもしれない。

そして今美容業界が盛り上がっている背景にこうした達成欲や変身欲があるとすれば、他の業界でも同じ欲望にフォーカスすることで業界自体が盛り上がる可能性もある。

たとえばファッションならアイテム自体よりも顧客のクローゼット全体の設計を一緒に考え、半年後、1年後に理想のクローゼットの中身を作るために伴走する。さらにシミラールックやイベントにあわせたファッションコーディネートを考えるためのTIPSを共有する…など。

インテリアや書籍、食関連でも同じことが言えるだろう。

単に『美容が盛り上がっているから美容関連の事業をやろう』と考えるのではなく、その背景にある顧客心理の変化や時代の変遷を考えることこそが、自分たちのやりたいことと市場の変化をマッチさせる上で重要なのではないだろうか。

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