オケージョン消費の可能性

2年ほど前に『これから洋服を売るために必要なのは、"ハレ"の場をどう作っていくかなんじゃないか』という話を書いたのだけど、年々この仮説への確信が深まっている。

そして当時想定していた『ハレの日』はちょっといいレストランやバーなどデート向きのものがメインだったけれど、最近はもっと幅広くカジュアルなオケージョンで消費が起きていることを感じている。

この流れを顕著に表しているのが最近注目して毎月読んでいるminaで、今年に入ってから『週末』をメインテーマに据え、おでかけ先とそこで着たい服をセットで提案している。

だいぶ前に個人的にやっていた『私のおでかけ帖』もまさに同じような発想でやっていたので、考え方自体は間違っていなかったのかもしれないなと思っている(コンテンツクオリティが違いすぎて比べるのも差し出がましいとは思いつつ)。

SNSの台頭によって自己顕示のフィールドがファッションから他のものに分散するようになったとよく言われる。

しかしファッション自体を趣味としている人は減っているとしても、趣味から派生してファッションを楽しむ人はむしろ増えているのではないかと思う。

個人的にはそれを『オタクのオケージョン消費』と呼んでいる。

オタク・エコノミーの今

私のオタク遍歴はジャニオタからはじまっている。

ジャニオタといえばキラキラのうちわやペンライトのイメージが強いかもしれないが、多くのジャニオタにとってコンサートは担当(※)に会うという一大イベントであり、美容・ファッションともに気合を入れて準備をする。
※ジャニーズでは推しのことを『担当』と呼びます

私の時代は109ブランドの中でもっとも女の子らしいLIZLISAが勝負服のような扱いだったし、その日に向けてダイエットをしたり前日には高級パックを使い、コンサートに向けて自分史上最高に仕上げてくる人も少なくない。

ジャニオタにとってコンサートは担当とのデートなのである。

そしてもうひとつ特徴的なのが、ジャニーズにはメンバーカラーがあるということ。

メンバーカラーが特に有名なのは関ジャニ∞で、コンサート内で毎回披露していた『エイトレンジャー』によって一気に広まった。

これによってネイルやシャドウ、ヘアアクセサリー、カーディガンなどありとあらゆるものを自担(※)のカラーに揃えるメンバーカラー文化が定着した。
※自分の担当を略して自担と呼びます。時短のタイポじゃないよ!

現在ではほぼすべてのグループがメンバーカラーを取り入れており、コンサート会場近くの雑貨屋さんではメンバーカラーでキュレーションした売場が作られることもあるほど。

最近もボトルの名前とカラーをカスタマイズできるコーヒーショップがジャニオタに占拠されていたことが話題になっていたが、オタクとメンバーカラーは切っても切り離せないものである。

※ちなみにこのモニターを見る限り、残りの1割はK-POPオタですね…(震え)

そして最近私の周りで話題なのが、『メゾンドフルール大流行問題』だ。

Sexy Zoneファン(通称:セクガル)の子たちの間でメゾンドフルールのバッグが『うちわがちょうど入る大きさなのに女の子らしくてかわいい!』と話題になり、コンサート会場に行くと大抵の子がこのバッグを持っている(らしい)。

もはや街中でこのバッグを持っている子をみたらだいたいジャニオタだと思えと言えるくらい普及している(いやそれは言い過ぎかも)。

セクガルちゃんたちはさらに前述のメンバーカラーにあわせたチャームをつけたり、友達と色違いにして双子コーデを楽しんだりしている。

以前はライブグッズのトートバッグを使っている人が多かったが、普段の生活でも使えるものの中から『コンサートの文脈に合う』ものを選ぶようになってきているのだ。

さらに私はK-POPオタだった時代もあるのだけど、こちらもジャニオタとは違う文化が広がっている。

まず前提として、ガールズグループファンにおける女子比率が日本より圧倒的に高い。

この件についてはだいぶ前にnoteも書いたことがあるのだけど、K-POPにおけるガールズアイドルは女の子たちにとっての憧れであり、ファッションリーダーの意味合いが強い。

もちろん日本のアイドルにも女子ウケがよく女性誌にたびたび登場している子たちも多いけれど、韓国アイドルは明確に女子をターゲットにしており、アイドルが身につけたものは飛ぶように売れる。

そのあたりの文化は昨年韓国視察に行った際のレポートにも書いたのであわせてどうぞ。

そして女子からの人気が高いがゆえに、ライブではアイドルの衣装の真似をする子たちも多かった。

K-POPの衣装は日本に比べると真似しやすいものが多く、さらにメンバーのキャラクターによって微妙に衣装を変えていることが多い。

なので、ファン同士で『私は◯◯をやるからあなたは△△ね』と決めて集まれば、全員でそのグループを再現することができる。

さらにK-POPの一番の特徴は『活動期』と呼ばれるオン/オフをはっきりさせる制度があることだ。

韓国ではアルバムごとに活動期が分かれており、アイドルたちはそこに向けて体を絞ったりヘアスタイルを変えたりしてガチガチに仕上げてくる。

そして活動期間中はそのアルバムの世界観から外れないように雑誌などの露出も厳しくコントロールされているため、そのアルバム名を関したライブでMV衣装を真似する人が続出するのだ。

しかも通称『空港ファッション』と呼ばれる私服チェックの文化もあるため、アイドルが身につけたものはすぐに特定され小物などは一瞬で売り切れることもある。

憧れの存在でありつつも真似したくなる要素を散りばめるのがうまく、ファンの参加意欲をそそりやすい仕組みこそがK-POPの強さの本質だ。

こうしてK-POPは単なる音楽のいちジャンルの枠を超え、スタイルにも影響を与えるカルチャーとして全世界に広がっていった。

オタクは何がほしいのか?

と、私のオタク遍歴をたどりながら最近のオタク・エコノミーについて考察してきたが、ここからは具体的にオタクに売れるものは何かを考えていく。

個人的に、今のオタクに売れるアイテムのポイントは下記の3つに集約されるのではないかと思っている。

①自分を主張できるカスタマイズ性
②日常に溶け込む秘匿性
③わかる人にはわかる共通言語性

前段で紹介したのオリジナルラベルのコーヒーもメゾンドフルールのバッグもK-POPのライブでのコーディネートも、まさにこの3つすべてを満たしている。

逆に一般的なオフィシャルグッズは目立つところにロゴが入っており、ファンがクリエイティビティを発揮する余白がないため3つ全てを満たせていないものが多い。

まずオタク向けアイテムの基本となるのは、前述のメンバーカラー文化だ。

メンバカラーによって自分の推しをアピールできる上に、パッと見て普通のアクセサリーや小物でも同じオタク同士ならわかるという共通言語性もある。

メゾンドフルールのバッグがヒットしたのは、普段使いしやすいデザインである上にチャームやリボンをつけて自担アピールがしやすく、オタ同士であればそれが定番アイテムであるという認識が広がっていったからだろう。

この『普段使いしやすい』という視点は今後のオタク消費を考える上で重要なポイントで、これだけ熱狂的なファンを抱えているアイドルたちは、メディアとしてライフスタイル全般を提案できる立場にいる。

だからこそライブなどの特別なときにだけしか使えないグッズではなく、日常使いができる『普通に見てもかわいい』ものが今後求められていくはずなのだ。

ベイスターズの+Bはまさにその発想で出来たブランドだと思うのだけど、青い星のモチーフがついた商品だけを集めたセレクトショップとかにするのも面白いんじゃないかと個人的には思っている。

また、最近タイガースが立ち上げた野球女子向けのタウンユースを意識した新ブランドも、前述の3要素に照らし合わせると商品開発の根底にグッズの意識が根強く残っているように思う。

野球の場合は背番号という最強のカスタマイズ要素があるので、0〜9のかわいい(※)チャームを販売するだけでも普通に売れると思う。
※「かわいい」ことが大事です!

あと最近サコッシュやボディバッグが流行ってるので、球団カラーのシンプルな(※)バッグを出したら売れるんじゃないかと個人的には踏んでいる。
※球団ロゴは入れないor同色刺繍とかで控えめにするのが大事な気がする

↓イメージはこんな感じ

海外では数年前からアーティストがファッションブランドを立ち上げる事例も増えてきており、コンテンツへのファンがそのままライフスタイル全般を支持し、カルチャーとして定着する事例はこれからも増えていくだろう。

K-POPも音楽から入ったファンたちがそのファッション性に感化された結果、一大カルチャーになっていった。

また、近年のフェス人気やアウトドア人気も、コンテンツ自体の魅力から入って、そこで身につけるアイテムを日常使いするようになったことでファッションとして浸透し、新規ファンを劇的に増やした。

これまで『オタク』という言葉には非ファッションのニュアンスが含まれていたが、人の購買行動が体験に紐づいていくにつれて、グッズとしての価値だけではなくライフスタイル全般を提案していく必要が出てくるのではないかと思う。

つまりこれまでのようにツアー名やバンドロゴを入れればとりあえず売れていた時代から、日常使いできるものをオケージョンを機に購入してもらうという流れになっていくのではないかと私は考えている。

オケージョン消費とソーシャルグッド

一方で、オケージョン消費にはどうしても無駄がつきまとう。

どんなに普段使いしやすいものを作ったとしても、ディズニーの耳をディズニーランド外で付けている人がいないように、その世界に浸っている時間だからこそ使いたいもののニーズは確実にある。

ライブであればペンライト、スポーツ観戦であればユニフォームといったアイテムだ。

これらはハロウィンの仮装のようなもので、普段はできない格好だからこそ、その瞬間に価値があるものでもある。

そういう意味では、オケージョン消費の高まりはミニマリズムやエシカルといった最近のトレンドと矛盾するものでもある。

そこでこの2つの潮流を対立させずに解消するために、オケージョン消費の分野からシェアエコノミーはどんどん広まっていくのではないかと思う。

実際、すでにメルカリではオケージョンに紐づくアイテムも多数販売されている。

しかもシェアサービスのボトルネックである貸借りの手間の大きさも、オケージョン消費であればその場で貸借りが完結しやすいのでかなり解消できる。

そう考えると、観光地の着物レンタルのような仕組みが、今後様々なオケージョンに紐付いて増えていくのではないだろうか。

LTVを考えても、1つ1万円のものを販売するよりも、1,000円で10人に使ってもらう方がハードルが低く、結果的にLTVが大きくなる可能性もある。

これから確実にシェアエコノミーが発達していく中で、頑なに販売をメインに考えるよりもレンタルを含めたビジネスモデル設計が求められるのではないかと思うのだ。

今後オケージョン消費が増えていく中で、いかにパイを広げながら収益を作っていくか。

従来の作って売るモデルではない、新しい取り組みが今求められている。

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