見出し画像

プラットフォームの戦略は、コンテンツに依存する

消費文化総研の定例雑誌読書会中、『そういえば"マルイブランド"ってもうほとんど雑誌に載っていないよね』という話になった。

マルイブランドとは、花柄スカートやパステルカラーのアンサンブル、Aラインのワンピースなど『ザ・女の子』色の強いアイテムを扱うブランドの総称で、ほとんどがマルイに入っているため勝手に作り出した造語である。

えびもえ全盛期のCanCamがその人気を牽引し、一時期は大学生からOLまで制服のように身にまとっていた。
しかし気づけばその姿は街から消え、代わりにモードやカジュアルが女子のマストレンドになった。
現在ではCanCamもカジュアル化し、10年前に人気が高かったブランドはほとんど誌面に現れなくなった。

この変化を機に台頭してきたのがルミネで、今や人気ブランドはほぼすべて新宿ルミネに入っているといっても過言ではない。
雑誌を読んでいても、ルミネが取扱店としてでてくる確率は異様に高い。

しかし、いまだにマルイブランドを積極的に扱っている雑誌もいくつかある。
それが『Ray』と『美人百花』だ。
この2誌は『モテる女子』こそが最上級であり、一般職で働きながら将来はお嫁さんになりたい、という価値観をベースにしている。
10年前のCanCamが体現していた世界観を、いまだに強固に守り続ける存在なのだ。

つまりマルイの現在の主要顧客はこうしたコンサバな価値観を持つ層であり、ある意味ニッチなターゲットとも言える。
保守的な価値観を持つ層だからこそ簡単にブランドスイッチは起こらず、支持基盤は堅い。
全盛期の勢いを保つのは難しいとしても、そう簡単に大崩れはしないだけの根強いファンがいるはずだ。

一方で、マルイはデジタルトランスメーションを推し進めており、店舗のメディア化にも積極的に取り組んでいる。
それ自体は素晴らしく、今後デジタルネイティブ層が主要顧客になっていくことを考えれば不可避な施策ではあるが、現時点での顧客層とマッチしているかと言われるとやや疑問が残る。

もちろん保守的な価値観を持つ層とはいえ全員スマホを持っているし、キャッシュレスツールも使いこなしているだろう。
買い物体験だって、便利になるに越したことはない。

ただ何かをドラスティックに変えた際に、新たに試してみようと思う人の割合は、アーリー層に比べると格段に少ないはずだ。
つまり最新のテクノロジーや買い物体験を提案しても、それを定着させるには多大なコストがかかる。

マルイが『デジタル・ネイティブ・ストア』を掲げ、D2Cブランドの取り込みに方針転換したのは、こうしたギャップが根底にあるのではないかと思う。

商業施設を含め、プラットフォームとしての役割をもつ事業体は機能や使い心地で差別化をはかろうと努力する。
しかし機能や使い方が変われば、狙うべきターゲットが変わる場合もある。
そのとき、ターゲットに合う中身、つまりコンテンツがなければどんなに入れ物が魅力的でも意味がなくなってしまう。

Netflixの急激な成長が、アプリの使い心地以上にオリジナルコンテンツのクオリティの高さに依拠する部分が大きかったことからも同じことがみてとれる。

つまりプラットフォームの戦略は常にコンテンツに依存するものであり、その体験を大きく変える際にはコンテンツを変化させることも考えなければならない。
その両輪を回していくことこそが、本当の意味での『戦略』なのではないかと思うのだ。

★noteの記事にする前のネタを、Twitterでつぶやいたりしています。


サポートからコメントをいただくのがいちばんの励みです。いつもありがとうございます!