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「うつわ」は変わる。でも、必要とされる「役割」は変わらない。

普段ニュースを見ていると、やれ小売業の不振だ、出版不況だという暗いニュースがたくさん目に飛び込んできます。

他にも、大企業の給与カットや早期退職、業績不振による事業譲渡などの話題も度々目にします。

しかし、かたや私が日頃仕事をしているコミュニティ内では、誰かが起業したり、新しいブランドを立ち上げたり、Webメディアを軸に新しい雑誌を創刊したり、というニュースもよく見聞きします。

つまり、世の中全体がネガティブに見えている人は、単にネガティブなニュースを好んで摂取しているだけなのではないかと思うのです。

個人的に気になって調べてみたのですが、東京都立図書館のデータによれば、2017年に創刊された雑誌は101媒体にものぼります。

一方で、内外切抜通信社の調べによれば、2017年に休刊・廃刊になった新聞・雑誌は41媒体。

データ元が異なるので単純比較はできませんが、休刊・廃刊と同じくらい、新しい雑誌が創刊されているということがわかります。

これは小売業界でも同じことで、百貨店や長く愛されてきたショッピングセンターが閉館するニュースは記憶に残りやすいですが、それと同じくらい、特にオリンピックを控えて再開発が進む東京では、新しい施設が次々とオープンしています。

こうしたデータを見るにつけ、私たちがニュースを見て一喜一憂しているのは、単に「うつわ」の変化にすぎないのではないか、と私は思うのです。

たしかに、時代によって「うつわ」に求められる機能や届けるべき価値は変化します。

しかし、本質的な「役割」は時代が変わってもそう大きく変わるものではありません。

例えば、前述の雑誌で言えば、「世の中に散らばった情報を集めた上で、ひとつの軸を通して編み直し、世界観を醸成すること」が本質的な役割です。

それはつまり現代において「キュレーションメディア」と呼ばれるものと役割としては非常に近く、リアルのモノである雑誌の方が、無限にページがあって更新性の高いWebに比べて、より情報を削ぎ落として世界観を作り込む必要があるのが異なる点かと思います。

自由度の高いWebではなく、あえて制限の多いリアルプロダクトである雑誌だからこそ醸成できる世界観がある。

だからこそ、支持を集めているWebメディアが紙の雑誌を作る流れが一般的になりつつあるのだと思います。

さらに店舗の場合は、こうした雑誌のキュレーション的な役割に加えて「実際に体験できる場を提供し、三次元のビジュアルで商品を訴求すること」にあります。

その中でも百貨店の場合は、「ラグジュアリーな商品をキュレーションし、顧客のパーソナルな要望に応えること」が本質的な価値だと言えるでしょう。

つまり、私たちが「雑誌」と呼んでいるもの、「百貨店」と呼んでいるものはあくまで今現時点でその役割を担っている「うつわ」でしかなく、より時代に合った「うつわ」が現れれば、そちらに人の関心が移っていくのは当たり前の話です。

それは単に機能としての話だけではなく、カルチャーや流行の発信地としての役割も同様です。

これまで「non-no」や「ViVi」を読んでいた層を一気に取り込んだのが「MERY」だったし、今はまた「ポストMERY」と呼ばれるメディアがしのぎを削っている時代です。

さらに、日本ではまだ百貨店をリプレイスするような企業は頭角を表していませんが、アメリカではFarfetch、Net-A-Porte、Trunk Clubがオンライン上の百貨店としての役割をほぼ牛耳っており、彼らがリアル店舗に進出して本格的に百貨店を目指す日もそう遠くはないでしょう。

私はメディアや小売が専門なので、例として雑誌と百貨店を挙げましたが、これはどの分野でも同じことが言えます。

ピーター・ティールが著書「ZERO to ONE」の中で「独占せよ」というメッセージを掲げていましたが、自分たちが本質的に何を独占しているのかを考えるときに分野や「うつわ」に惑わされず、「役割」で見ることが、競合や市場を見誤らないポイントなのではないかと思います。

そして、未来永劫変わらない本質的な役割を抑えるには、人間というもの、そして世界全体への深い理解と洞察が重要になります。

だからこそ、昔から愛読されてきた古典、人の心の機微や世界の摂理を描き出している歴史や小説、自然科学の基礎を学び、「つまりこの本質は何なのか」を大きな視野で考える癖をつける必要があるのです。

「うつわ」に拘泥せず、「役割」を全うする。

その精神性を受け継ぐためなら、古くから守られてきた "のれん"さえも、泣いて手放す覚悟を持つ。

危機に面したときこそ、今自分が必死で守ろうとしているもの、成し遂げようとしているものが「うつわ」なのか「役割」なのかを省みることが需要なのかもしれません。

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