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頑固に、でもしなやかに。そしていつも穏やかに。

たまに、「憧れの女性はいますか?」と質問を受けることがある。

そのときどきで答えは変わるけれど、私が憧れるのは幸田文、森田たま、沢村貞子のような、大変な時代を自らの力で強く、でもしなやかに美しく生き抜いていった人たちだ。

宇野千代や岡本かの子のように情熱的に生きた人たちも素敵だけど、燃えるような恋よりも日々の移ろいの美しさを穏やかに見つめて、それを切り取ってきた人たち。

そんな人たちが私の憧れだ。

普段文学作品ばかり読んでいるように思われがちな私だが、好きな人たちのエッセイは好んで読む。

最近でいうと、小泉今日子さん、小林聡美さん、小川洋子さん。

柔らかく日常を書きながら、ときどきハッとするような真理を突きつけてくるようなエッセイを書く人たちだ。

そしてついこないだはじめて、石田ゆり子さんの「Lily」を読んで、この人の文章をもっと読んでいたい、と思った。

どうやら彼女も相当な読書家のようで、きっと読んできた本が近いのだろうなと思う。

まるで生理食塩水のように、すうっと言葉が自分の中に入ってくる。

なんだかおこがましい話だが、私も彼女の年齢になったら、同じような文章を書くのかもしれない、と思った。

***

最後の一問一答で、「『石田ゆり子は◯◯』。友だちになんと言われますか?」という問いに、彼女はこう答えていた。

「頑固。よく言われます。否定はしません(笑)。でも、わたしは『しなやかな頑固者』というのを心がけているんです。頑固というと聞こえが悪いけど、信念を持たないとダメでしょう?人の意見をいったん聞いて、違えば自分の意見を言うというのは必要だと思います。」

この箇所を読んだ時、ごく自然に「私もそうありたい」と思った。

しなやかでありたいけれど、流されたくはない。
信念は持っていたいけれど、ずっと変わらないのは嫌。

自分の軸を持ちつつ、でも軽やかに生きることを「しなやかな頑固者」と名付けた彼女の言語センスは、本を通して世界と自分自身に真正面から向かい合い続けてきた人ならではだと思う。

そして、自分にとって何より大切なのは「精神的衛生」だと言い切る強さもまた、しなやかな頑固者らしいところだ。

私もいかに気分の上下を少なくするか、常にフラットな気分を保つことを重視している。

これは好みの問題で、気分の上下こそが人生の楽しみだという人もいるし、そういう人たちの話を聞くのは面白い。

心が穏やかに、そして健やかであることは、現状維持を望むのとはまた別の話だ。

どんどん面白いこと、新しいこと、まだ知らないことに挑戦はしたいけれど、そのためには自分自身の軸をもち、どんな嵐がきても受け止められるだけの穏やかな城を自分の中に持たなければならない。
私はそういうタイプの人間だというだけだ。

そして、きっと彼女もそういうタイプの人なのだろうと思う。

「私もこういう大人になりたい」

素直に、心からそう思った。

***

「憧れ」というとき、そこには2つのタイプがある。

自分が選ばない道だからこその憧れと、自分の道の延長にある「こうなりたい」という憧れだ。

10代、20代は、まだ自分が確立していない分、両者を分けて考えるのが難しい。

みんながいいというものが自分にとってもいいもので、だからみんなの価値観に無理にあわせて、途中で苦しくなっていく。

でも、少しずつ自分の価値観の軸ができていけば、本当に自然に、「人は人、自分は自分」と思えるようになる。

そのためには、自分にとって何が心地よい状態で、何が好きで、どの瞬間に幸せを感じるのかをよくよく観察しなければならない。

ただ、自分ひとりの想像力には限界があるから、たくさんの本を読んで、人の話を聞いて、「これは好き」「それはちょっと違う」とひとつひとつ選ぶ作業が必要なのだ。

30までに結婚する。40までに子供を産む。子供を産んでも、自分らしい仕事をして社会から評価され続ける。

それは、本当にあなたがやりたいことではなくて、社会から押し付けられた「あるべき姿」でしかない。

今は幸いなことに、未婚でも、バツイチでも、子供がいなくても、逆に社会にでることなく子育てをがんばる人も、それぞれの立場で楽しく生きている先輩たちがたくさんいる。

「結婚しなきゃ、子供を産まなきゃ」と焦るのは、それを手に入れなくても幸せに暮らしている事例を知らないだけに他ならない。

だから、こうあらねばと勝手に自分を追い込まずに、自分の快適な状態をよく知って、そこから逆算して人生を設計すればいいのだと思う。
(と言いつつ、設計なんてしたって大抵は思惑通りにはいかないのだけど。)

私はいつだって、自分を、自分の人生を、誰よりも深く愛していたい。

正解はひとつじゃないからこそ、私もいつか誰かにとって「こんな生き方もひとつの幸せなんだ」という赦しになれるような、私にしかできない道を切り開いていきたい。

そのために私にとって必要なのは、頑固にしなやかに、そして穏やかであることなんじゃなのかもしれないと気づいた、三連休初日の読書時間だった。

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