「価格」へのプライド

私が好んで読む雑誌のひとつに、「自遊人」があります。

特に今月の「これからのリゾート。」という特集は、私自身「地方発のラグジュアリー」や「知性ある消費」への関心が高いこともあって、非常に学びの多い号でした。

個人的に特に面白かったのは、トラベルジャーナリストの寺田直子さんに、編集長の岩佐さんが「これからのリゾート」について聞くロングインタビュー。

「 "リゾート"と "バケーション"の違いは何か?」というところから紐解きつつ、沖縄とニセコの開発状況を比較しながら今のリゾートを取り巻く環境について解説した骨太な内容でした。

「リゾートとは"リ(re)ソート(sort)"ですから、『何度も通う』といった意味合いがあると思っています。人生一回きりのものではなくて、何度も通ってエンジョイする。そういう意味を含んだ言葉だと思いますね。」

その中でも、一番心に刺さったのは下記の箇所でした。

次世代こそ、自分たちの土地をリゾートとして磨き上げていくんだという意識をもっていただきたいと願っています。両者(※)がリゾートに対して前向きに考え、同じ方向を目指すことで、その結果、健全でヘルシーなリゾート文化が生まれてくると思いますし、またそういう意識の中からしか生まれないリゾート文化もあると思いますから。」
(※注…ここでの「両者」とは、開発会社と地元住民のこと)

「リゾート開発」というと、反発を憶える人もいるのではないかと思います。

豊かな自然を壊して、人間のエゴでゴルフ場やビーチを作るようなイメージがつきまとうものだからです。

しかし、「日本再興戦略」の中でも「日本は "東洋のパリ"を目指せ」と書かれていたように、今後において観光産業に力をいれるのは重要な国家戦略です。

特に東京や大阪以外の都市圏以外は急激な人口減が避けられない中で、いかに国内外問わず観光客を呼び込かは死活問題と言っても過言ではありません。

現に、インタビューの中でも2020年に向けて沖縄とニセコのリゾート開発がいかに進んでいるかが解説されており、日本にはまだまだ観光資源がたくさん眠っていることを痛感しました。

前述のリゾートの定義に照らし合わせるならば、これからのリゾートは単にビーチやゲレンデでアクティビティを楽しむだけではなく、その土地でしか味わえない感動、「その土地らしさ」を感じるために何度も訪れたくなる仕掛けをつくることが重要なのではないかと思います。

そのためには、自然は可能な限りもとのまま残しておくべきですし、ここ数年の間にグランピングがブームからカルチャーとして定着してきたように、自然やその土地の文化と一体になる体験こそが評価される時代になりつつあります。

自然や文化を残しながらその土地をより深く知って愛してもらう、ヘルシーでサスティナブルなリゾートが求められる時代でもあるということです。

しかし、そこで何より重要なのは、自分たちの自然や文化的な資産を安売りせず、価格にプライドを持つこと。

「こんな何もない土地に」と引け目を感じたりせず、上質な空間を保ち続けるための正当な金額を支払ってもらう覚悟をもつことだと思います。

「自遊人」の同じ号の中に、スノーピークが白馬で開催した12万円もの価格のグランピング体験のレポートが掲載されていたのですが、そこでも地元の人に「12万円支払ってでも来たいとこの土地に価値を感じる人がいる」と感じてもらうことの意義について語られていました。

私は以前から「DINING OUT」の大ファンなのですが、佐賀県庁の職員さんによれば、このラグジュアリーな野外レストランイベントの意義は、上記のグランピングと同様、地元の人たちがプライドを取り戻すことにあるのだとか。

昨年取材させていただいた嬉野茶時でも、同じことを言われました。

私自身も佐賀という田舎出身なので、「こんな片田舎に…?」と思う気持ちはよくわかるのですが、地方こそラグジュアリー市場に挑戦しなければならないと思っています。

小売では「見せ筋」と「売り筋」という基本的な区分があり、「見せ筋」、つまりファッションでいえばオートクチュールやコレクションラインのクオリティによって、プレタポルテやセカンドラインの実売が左右されるからです。

つまり、その地域で最高に憧れられる存在をひとつ作らなければ、それよりカジュアルなラインもジリ貧になってしまう。

ラグジュアリーなアイコンを作るということは、単にそこで儲けるという以上の影響をその地域にもたらすのです。

例えば、「自遊人」でも巻頭で紹介されていた瀬戸内の「動く旅館」と言われるほど上質な客船・ガンツウ

2泊3日で40万という金額は一握りの人しか体験できないものですが、この「憧れ」は、瀬戸内全体のブランディングにつながります。

他にも、JR九州が誇るクルーズトレイン「ななつ星」など、一生に一度は体験したいという憧れのものを作るということは、その土地のレベル全体を引き上げることにつながるのです。

もちろん、目の肥えたお客様を相手にするラグジュアリー市場で戦うことは、並大抵の努力では太刀打ちできるものではありません。

しかし、日本特有の細やかなサービスやホスピタリティ、過不足のないシンプルで上質な空間づくりは、もっと価格帯を上げることでより磨き上げられ、地方のビジネスをサスティナブルなものにする可能性を秘めていると私は思います。

そのためにも、価格へのプライドをもち、高価格帯の値付けに臆することなく胸を張って自分たちらしい価値を提供すること。

それこそが今後の地方を盛り上げていく鍵になるのではないでしょうか。

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