フェスという「メディア」の使い方

今年のGWは、はじめて「VIVA LA ROCK」に行ってきました。

普段そんなにフェスやライブに行くタイプではないですが、SHISHAMO、indigo la end、レキシ、サカナクションとちょうど好きなアーティストが一気に見られるタイムテーブルだったので即決即断。

屋内フェスなので暑すぎず寒すぎず、客席でまったりする余裕もあり、私の中で「フェス」のイメージが変わった体験でもありました。

お目当のアーティストはどれも生歌を聞くのははじめてで、一切ハズレのない楽しい時間だったのですが、すべてのアーティストに対して『単独ライブに行きたい』『CDを買いたい』と思ったかというとさすがにそんなことはなく。

自分がアーティストという立場だった場合、フェスというメディアをどう使うだろうかとあれこれ思案していました。

そもそもフェスにくるお客さんというのは自分たちのファンばかりではないため、その場を楽しんでもらうには自分たちの持ち歌の中でもメジャーな曲を選ぶ必要があります。

一番理想なのは、その曲をきっかけに自分たち自体に興味をもってもらい、単独ライブに足を運んでもらったり、CDを買うなどしてお金を落としてもらうことですが、大半の人はメジャー曲を聞いたら満足してしまうのが現実な気もします。

実際、フェスでは入場制限がかかるほど人気でも、単独ライブでは集客に苦戦するバンドも少なからずあると聞きました。

たった1回の体験では、1つのバンドに数千円のお金を出していいと思えるほどエンゲージメントを高めるのは難しいのかもしれません。

とはいえ、フェスをメディアとして捉えれば、新しいお客さんにアピールする絶好の機会であることは間違いありません。

ただ、興味レベルが10の人を急に100まで高めるのは難しい。

だからこそスモールステップを用意することが重要なのではないかと思います。

例えば自分がアーティストだったとしたら、単独ライブの案内もしつつ、SpotifyやYoutubeで聴くことを想起させるようなMCをいれると思います。

Spotifyの再生回数がどのくらいいったとか、最新曲のMVはここにこだわった、とか。

今やCDを買ったところでそれを再生する機器をもっていない人も多いでしょうし(私もそうです)、一番手っ取り早く曲を聞いてもらうにはストリーミングサービスを使ってもらうことのはず。

曲を聞いてもらわないことには何もはじまらないので、私ならライトファンの人たちでも自分たちの音楽に触れてもらいやすい方法は何かを考えてMCするだろうなと思いました。

あとは自分がSNSをやっていれば、『今日のこの景色をあとでSNSにアップするね!』というMCもすると思います。
それでライトファンの人たちがSNSを見てフォローし、継続的に情報を追ってくれることが重要だと思うので(これを考えていたら実際にサカナクションの山口一郎さんがやっててさすがだなと思いました。どこまで戦略的にやってるかはわかりませんが)。

私は考え方が小売的なのですべてにおいて『見せ筋』と『売り筋』を分けて考える傾向があるのですが、ほとんどのバンドにとってフェスは『見せ筋』のはず。

いかにライトファンにリーチし、ファンになってもらい、継続的に応援してくれる人を増やすかというきっかけの場なのではないかと思います。

しかし、ここでの問題はこれまで『売り筋』の代表であったCDが売れなくなっていること。

こればっかりはどう足掻いてもV字回復は難しく、レコードやカセットと同じように懐かしいアイテムとしてニッチな市場を形成する未来しかないように思います。

じゃあ単独ライブで稼げばいいじゃないかという意見もあると思いますが、ビジネス的にみるとライブの収入はあくまでフローであり、自分たちが動かなければお金にはなりません。

『複製可能である』ということは、つまりストックビジネスができるということ。

一度曲を作って録音してしまえば、あとは多少の原価と流通コストがかかるとはいえ、ほとんどコストをかけずに売れば売るだけ利益になるということです。

こうした収入の安定こそがコンテンツメーカーを支え、次の作品への投資がしやすくなるため、ストックになりえるキャッシュポイントづくりが必要不可欠。

つまりCDに替わる複製可能なコンテンツパッケージを『売り筋』として作る必要がある、ということです。

ひとつはストリーミングサービスの再生回数を増やすというやり方もあると思います。

やや古いデータですが、2013年時点のSpotifyのアーティストへの支払いは再生1回あたり$0.006〜$0.0084。

つまり100万再生されれば60万円強のお金が入ってくることになります。

一方で、「音楽アーティストが得る収入は、1再生あたり0.16円。Apple Music、AWA、LINE Music、Spotify……定額制ストリーミング配信時代に突入」という記事中で比較されていたCDとの比較によれば、ストリーミング1再生で得られる利益は雀の涙。

CDアルバム :110円(1曲あたり8.48円)
ダウンロード1曲: 16.6円
ストリーミング1再生: 0.16円

今後よりストリーミングが広がることで金額が上がったり再生回数が伸びる可能性はあるとはいえ、それだけに頼るのは心もとないように思います。

音楽以外の売り方として、最近はアメリカを中心にアーティストがファッションブランドを立ち上げる流れも加速しています。

Kanye West、Justin Bieber、Drakeなど、著名アーティストがこぞって単なるライブグッズとは一線を画すファッショナブルなアイテムを販売しています。

日本でもサカナクションがNFというプロジェクトの中でファッションアイテムを販売していますし、Perfumeがファッションプロジェクトをはじめて話題になったのも記憶に新しいところ。

昔からアーティストとブランドのコラボは多々ありましたが、自分たちの世界観を音楽以外の方法で表現したものをCDの代替として販売するというアーティスト主導のブランドが増えていく可能性も高いように思います。

こうした流れとは別に、個人的にもうひとつの可能性として考えたのは、個人が特定アーティストの曲を用いたイベントを開催し、その使用料をもらうというやり方。

例えば「サカナクションナイト」や「Perfumeナイト」のように、本人が不在でも仲間同士で好きなアーティストの曲をかけて楽しみたいという需要はあるのではないかと思います。

現時点でもこうしたイベントを開催することは可能ですが、調べてみるとJASRACに支払う著作権料は一律で、どのアーティストのどの曲を使っているかまでは申告不要のよう。

つまり、自分の好きなアーティストに使用料がどのくらい分配されているのかが不透明ということでもあります。

であれば、例えばSpotifyなどのアップグレードサービスとして別料金をとり、大音量にも耐えられる高音質の曲を配信するというやり方もありなのかなと思います。

もちろん、このやり方はともすると著作権の抜け道になる可能性もあるので細かい部分の整備は必要ですが、これからはどの分野でも消費者自身が作り手として楽しめるしかけが重要になる時代。

音楽の聞き手を受け身のままにせず、『音楽を楽しむ場』を誰でも簡単に作れるようにし、そこでの使用料をとるというやり方を考えてみるのもありなのではないかと素人目線で考えたりしていました。

こうしたコンテンツメーカーへの還元は、音楽にかぎらず出版業界やファッション業界でも似たような問題が起きていますが、『作って売る』に固執しすぎず、シェアやストリーミングが当たり前の時代にどうフィットしていくかを考えることが重要なのではないかと思います。

ジャンルは違えど、私もいいものを作る人たちにきちんと還元できるモデルづくりをしていかねばと改めて考えさせられた体験でした。

***

記事の本筋とは関係ないのですが、VIVA LA ROCKでトリのサカナクションが終わった後、MUSICAの鹿野さんが何度も「気をつけて帰ってくださいね」「外は寒いので体調には気をつけてくださいね」とお客さんを気遣う言葉を発されていて、本当にこのフェスを大切に思っているんだなあ、すごい人だなあと思いました。
きちんと経済を回しつつ、こうやって来場者に心から感謝して1人1人のことを想えるような、そういう場を私も作りたいなと思った次第。
いいフェスでした!!!

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