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百貨店化する雑誌と、雑誌化する百貨店

百貨店の中の人だった時代から「百貨店の最大のライバルは雑誌である」と主張して「はぁ?」と言われていたけれども、ここ数年で一気に両者の領域が近づいてきているように思います。

これからもっと必要とされる、"バイヤー"という仕事。」でも、バイヤーの仕事は編集者兼営業職であると書きましたが、編集者はそのまま雑誌の作り手の仕事だし、彼らも新しいトレンドを探すために熱心に足を使って営業しています。

つまり両者の違いは、その主戦場がリアルの場であるか、紙面であるかの違いだけなのではないかと思うのです。

InstagramerやYoutuberの台頭で個人単位での発信ができるようになったとはいえ、衣・食・住すべてのカテゴリで世界トップレベルの商品を選別し、彼らのフィルターを通して世の中に発信するという価値はそう簡単になくなるものではありません。

百貨店も雑誌も、斜陽産業と言われて久しい中で未だに影響力を持ち続けているのはそれぞれのフィルターにそれだけの価値があるからです。

そしてこれまでは百貨店と雑誌は協力しあうものであり、タイアップによって相互送客をはかってきました。

しかしO2Oを含めデジタルとリアル、メディアとコマースの境目がシームレス化しつつある今、百貨店が雑誌化し、雑誌が百貨店化していくことはとめられない流れのように感じます。

まず"雑誌が百貨店化すること"の方がわかりやすいと思うのですが、今40代以上の女性誌は各社ともにかなり誌上通販に力をいれています。

昔からこうした通販ページはありましたが、より洗練されておしゃれな雰囲気になり、看板モデルも複数起用しているところからその力の入れ方が伝わってきます。

また出版社によってはオリジナルブランドを立ち上げているところもあり、多少在庫リスクをとってでも利益をとれる体制をつくっていきたいという気概を感じます。

これは今まだ雑誌やWebというメディア上だけで起こっている変化ですが、こうした動きがリアルの場に移行してくるのも時間の問題のように思います。

例えば二子玉川に「VERY SHOP」ができたとしたら、周辺のセレクトショップや百貨店は根こそぎ顧客を奪われる可能性が高い。

業界的なしがらみや投資金額の大きさもあるので実現性はさておき、そうしたショップが期間限定というかたちでできてもおかしくはないと個人的に考えています。

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逆に"百貨店が雑誌化すること"についてですが、そもそも現在の販売手数料モデルをいつまで続けられるか、という点が重要になってきます。

百貨店はもともと独特の商慣習をもっていて、ブランドから"一時的に"商品を預かり、売れた時点で在庫として計上され、販売金額の一部を手数料としてもらうという仕組みになっています。

個人的にはこの仕組みがあるからこそエッジの立った商品展開が可能になり、結果としてブランドにもメリットが還元されているように感じていますが、そもそもこの販売手数料モデル自体がそう遠くない未来に限界がくるのではないかと考えています。

販売手数料というのはWebでいうとアフィリエイトと同じで、そこを通して買ったと証明されることが重要になります。

しかしショールーミングという言葉が注目され始めているように、見てその場で買うお客様ばかりとは限りません。

特に若い世代であればあるほどその傾向が強いように思います。

だからといって「自社ECに誘導するな」という締め付けは魅力あるブランドであればあるほど嫌うでしょうし、何よりお客様にとっての利便性を無視した行為です。

つまり魅力的な箱であればあるほど、徐々にアフィリエイト的な発想ではなく、純広告的な発想になっていくのではないかと思うのです。

雑誌的な発想で言えば、百貨店に入店するためにお客様からもお金をとればいいし、その上でスポンサー(この場合各ブランド)の商品を魅力的に演出し、世界観を体験してもらうといった役割に徐々に変わっていくのではないかと。

あと個人的には、百貨店は今各社が出している折り込みチラシとは別に、年1回でもいいので雑誌的なコンセプチュアルな紙媒体をだせばいいのになあと思っているのですが、このへんも業界のしがらみと費用の大きさがネックなのかなという気もします。

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百貨店と雑誌の役割が近づきつつある今、「リアルの場で雑誌を体現する」をどちらが先に実現するのか、それがここ数年で個人的に最も興味のあるテーマです。

私自身は小売の世界から離れて数年経つのですでに現場の肌感はわかりませんし、メディアに至っては所属した経験がないので、機会があればいろんな人にこのテーマをぶつけてみて意見をもらいたいなーと思う今日この頃です。

(Photo by tomoko morishige)

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