「服育」の重要性

先週から大きな話題になっている泰明小学校のアルマーニ制服の一件。

個人的には、ここまでバッシングされることに驚きが隠せませんでした。

今回の一件に関しては様々な立場から多様な意見はあると思いますが、ラグジュアリーブランドのフロアからキャリアをスタートさせた私としては、日本人にとってラグジュアリーブランドのロゴはいまだに「自分の権威を誇示するためのツール」であり、「享楽的軽薄なもの」というイメージなのだな、とがっかりした気持ちになりました。

もちろん、そもそも今回は泰明小学校が公立校であること、さらに「応募制」というかたちで実質的には裕福な家庭の子だけが通うフィルターとしての高級な制服なのではないかという憶測など、複数の要因が絡みあったことによる賛否両論であったように思います。

しかし、これが例えば
「日本の伝統工芸品である陶磁器を身近に学ぶため、給食の器をすべて有田焼にします」
「一流の芸術に触れてもらうため、毎年一流のアートを校内に展示するために買い足します」
という理由で同じように7、8万円の出費を迫られた場合に、今回ほどバッシングされただろうか、と思うのです。

個人的には、公立だろうが私立だろうが、ある程度選択の自由があるのであれば、各校の特色を出すのはこれからの教育を考える上で重要なことだと思っています。

むしろ、進路選択においてどちらにせよ親の嗜好が反映されるのならば、ただ偏差値だけで受験校を考える画一的な教育よりは、どの分野に力を入れるかを明確にした学校の中から個人の興味にあわせて選べる方が、ユニークな人材が育ちやすいのではないでしょうか。

もちろん、そのためのお金を払える人・払えない人はでてくるでしょうが、だからといってお金を払ってでもよい教育を受けたいと思っている人の権利を阻害する必要はないのではないかと思います。

私立ならばどこまでも青天井にお金をかけて一流の教育を施せるでしょうし、公立であってもその自治体によって税収が異なる以上、全国でまったく同じ教育をしていることは稀でしょう。

修学旅行や課外活動など、学費と別にかかるお金にばらつきがでるのは当然のことです。
(ちなみに私は県立高校出身ですが、修学旅行先はオーストラリアで、ほぼ県内唯一の海外修学旅行がある学校でした。)

やりたいことと、実際にやれることのバランスを見極めて、ちょうどいい選択をする。

これは大人になっても当たり前のことであり、すべての人の「やりたいこと」を叶えるのは不可能なことです。

こうした前提の上で、「服育」をひとつの教育分野として据えること。

私自身、ファッションと小売を専門分野としていることもあり、こうした動きが銀座から始まったことはむしろ素晴らしいことだと感じています。

そうした国際色の強いエリアに立つ小学校として、地域に根差し、さらには国際的な視野を持つ人材を育てていきたいという思いをもってまいりました。標準服とは児童が毎日着るものです。そうした身近なアイテムだからこそ、それを通してきちんと装う事の大切さを感じることも、国際感覚の醸成に繫がると思います。
また視覚から受ける刺激による「ビジュアルアイデンティティー」の育成は、これからの人材を育てることに不可欠である「服育」という重要な教育の一環であると考えます。さらに、遊びのと時に無造作に脱ぎ捨てられていることが多いのですが、きちんと折りたたんでから遊びに行くとか、背もたれに掛けておくといった一手間の大切さも教えたいと考えております。(なぜアルマーニ監修の標準服に? 泰明小校長は、こう保護者に説明した(全文)より)

報道では「アルマーニ」というブランド名だけが一人歩きしていた印象ですが、私は制服としてアルマーニを選んだということは、非常に意義のあることだと思っています。(実際は他のブランドとは折り合いがつかなかったと言う理由もあるようですが)

アルマーニといえば、スーツのトップブランド。

通常、プレタポルテでも30万円は下りません。

しかし、それだけの金額に見合う素材、仕立て、シルエット、そして何より文化的な歴史を持っています。

アルマーニのスーツはイタリアの至宝であり、時代にフィットする「現代のエレガンス」を追求するアイコンでもあるのです。

スーツの印象が強いためメンズブランドとして認識されがちなアルマーニですが、レディースラインもマニッシュでありつつも女性らしさを引き立てるデザインで、強くしなやかなキャリアウーマンを彷彿とさせます。

こうしたアルマーニの背景、ブランド哲学ごと、そのブランドの洋服を日々身にまとうこと。

それは今すぐ効果が現れるものではなくても、その人の美意識をゆっくりと、でも確実に変えていくものです。

考え抜かれたデザインは、袖を通すたびに着る人の存在を肯定する。

「私はこの素晴らしいプロダクトを身にまとうに値する存在なのだ」と感じる機会を与えることは、大げさでなくその人の一生を左右するものだと思います。

ラグジュアリーブランドが高価なのは、そのブランドに蓄積されてきた「美の歴史」があるからです。

何十年もの間、人体の構造を研究し、社会の変化を体現し、その根底にある哲学を磨き上げてきた歴史。

以前「『ラグジュアリー』の定義が変わる瞬間に、私たちは立ち会っている」という記事を書きましたが、ラグジュアリーの本質は「深い思想と豊かな物語があること」です。

しかし、これまではそれぞれのブランドが積み上げてきた思想や物語よりも、そのブランドアイコンの権威性によって購入されてきたという点は否めません。

その結果が、今回のアルマーニ制服騒動への反応に顕著に現れているように感じるのです。

日本に豊かな歴史と文化があるように、他国にも誇りあるプロダクトが数多くあり、それを感受性が豊かなうちに日常の中で体験することは、これからのよい「買い手」を育成する上で欠かすことのできない教育だと私は思っています。

とはいえ、全員がこうした教育に価値を感じるわけではないでしょうし、洋服以外にも食やインテリア、アートなど学ぶべき分野は多岐に渡ります。

だからこそ、分野という横の広がり、そして価格という縦の広がりが重要で、選択肢が増えれば増えるほど「平等」の機会は広がっていくはずです。

今回の騒動を「ただ校長がブランド好きなだけ」と一刀両断することは簡単です。

しかし、それは同時にその人にとっての「ブランドとは何か」「アルマーニはどんなブランドか」「銀座とはどういう街か」という知識と美意識があぶり出される発言でもあると思います。

誰かを評価する時、自分もまた評価されている。

そのことを忘れずにいたいなと思った一連の騒動でした。

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今回ピックしたのは「中国のファストファッションブランドが、ロンドンに出店する理由」という話題です。

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最所あさみ

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最所あさみ

Retail Futurist / curator。「知性ある消費を作る」をミッションに掲げています。 将来は世界一の店舗メディアを作る予定。noteの有料マガジン「余談的小売文化論」とコミュニティマガジン「消費文化総研」もよろしくどうぞ!

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