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水先案内人としての「販売員」という仕事

最近着付けを習い、やっと自分で着られるようになりました。
そこではたと気づいたのが『着物を1年通して楽しむには最低限何と何を揃えたらいいのかわからない』ということ。

とりあえず自分の着物が1枚と祖母から譲り受けた着物が何枚かあるものの、これから夏に向けてどれなら着れて、冬には何が必要になるのかさっぱりわからなかったのです。

結果的に私の場合は着付けの先生から丁寧に教えてもらったのですが、もしちょっと興味があるくらいの気持ちで呉服屋さんに行っていたとしたら、トータルでいくらかかるのか予想がつかない怖さから、何も買えなかったかもしれません。

そしてこの経験を通して、販売する人の仕事はこれから『入門者に道筋を示してあげること』になるだろうなと思ったのです。

着物は洋服に比べて1点1点の単価が高いこともあり、今目の前の商品のよさにどんなに納得しても、つい他のシーズンのために買わなければならないものを含めた試算をしてしまいます。

そのとき、結局全体でいくらくらいかかるのかがわからないと、比較検討のしようがないため『一旦保留』のまま結果的に買わないという決断になってしまうのです。

例えば着物の例で言うと、秋〜冬用の袷、春〜初夏用の単衣、真夏用の着物とそれぞれの季節にあわせた長襦袢があれば最低限1年間楽しめる、と先生が教えてくれました(細かくいうとそれぞれにあわせた帯揚げとか帯締めもあった方がいいけど一旦それは割愛)。

この全体像さえわかれば、それぞれにどのくらいの予算をかければいいかがなんとなくイメージできるようになります。すると具体的に比較検討に入れるので、頭のスイッチが『何を買うか』に切り替わりやすいのです。

同じことが他のジャンルにも言えて、例えば大学生になってはじめてメイクをする子は最低限何が必要でどのくらい予算がかかるものかわからなくてコスメに迷いがちだし、山登りや自転車といった趣味も最低限の設備を揃えるのにいくら必要なのかわからないと、買い物をつい先延ばしにしてしまいます。

つまり人が何か新しいことをはじめ、そこに付随して買い物をするには、全体像を示してあげる『水先案内人』が必要なのです。

これは趣味に限った話ではなく、日々の生活でも同じこと。

例えば菅野さんの『#はじめてのうつわえらび』はまさにうつわの水先案内人の役割を果たしています。

特に『まずはこの5つだけ揃えればOK!』と考え方の枠組みを教えてくれるこの記事や、

『でもうつわって揃えだすとけっこう高くつくんでしょ…?』と不安をもつ人にあてた下記の記事は、私もとても参考にしています。

世の中の多くの人は『なんとなくいい感じにしたいけど何から手をつけていいかわからない』状態であり、さらに情報が氾濫している現代だからこそ調べるうちによくわからなくなってしまって結局買わない、という状況がよく起きているように思います。

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私は月に4、5冊読むほど雑誌が好きなのですが、雑誌のほとんどは実は中級以上向けにおり、ある程度の知識があった上でさらにうまく着こなす・使いこなすためのTIPSがほとんどなので、初心者が読むと逆に混乱することが多いものです。

以前うつわを勉強したくてライフスタイル系雑誌の特集やムック本を読んでみたものの、1つ1つの商品やブランドのよさはわかっても、全体のコーディネートをする自信がなく結局きちんと揃えられないまま時間だけが過ぎていったことがあります。

それでも雑誌はまだキュレーションされているだけましな方で、Webで情報探すのは上級者でなければ砂浜で砂金を探すようなもの。

さらにおしゃれなインスタグラマーさんの真似をしようと思っても、ベースがわかっていないので『マネキン買い』しかできません。しかも情報を発信する人が増えた今、そもそも『誰を真似したらいいのか』から自分で考え、判断しなければならなくなっているのです。

つまり私たちは地図もコンパスも持たないまま大海原を航海しているようなもの。

だからこそ、これから『水先案内人』となる人が必要になってくるのです。

それは単にパーソナライズされた情報を提供するだけではなく、全体像を見せた上で選択肢を提示し、まずベースを作り、お客様自身が自分で選ぶ楽しみをもてるように育てるところまでやる必要があります。

例えば前述の菅野さんのnoteでいえば、テーブルの色によってうつわ選びも異なる、という話が出てきます。

これはテーブルだけでなく、壁の色や素材など家の空間全体にも通じる話であり、さらに個々人の好みの問題もあるので、ベーシックアイテムといえど最適な1枚はその人によって異なるはず。

つまり万人に『これさえ買っておけばOK!』と具体的な商品を勧められるわけではなく、環境や予算、好みによってベーシックそのものも変わり得るのです。

だからこそまず最低限必要なものと予算、将来的にさらに楽しむための道筋を示した後、ベースも相手にあわせてパーソナライズし、楽しむ基礎づくりをしてあげる必要があります。

これはうつわに限らず、洋服でもコスメでもインテリアでも趣味のアイテムでも、何にでも言えることなのではないでしょうか。

そして今後『販売員』と呼ばれる人たちの仕事は、こうした水先案内人としての役割にシフトチェンジしていくのではないかと私は考えています。

特に、インフルエンサーが販売員化していく中で、この流れは顕著になっていくはずです。

今はインスタグラマーをはじめとするインフルエンサーの仕事は万人に向けて商品を紹介したり使い方を説明するものが大半ですが、多くの人はそれを見ただけでは自分で再現することができません。

さらに前述の通り人によってスタイルや好みも異なるため、『インスタグラマーの○○ちゃんに私に合うものを選んでほしい』という需要が発生してくるはず。

例えばファッションでも、商業施設や百貨店がインスタグラマーと契約して『1日買い物同行します』をスポンサードした方が、いつ来るとも知れないお客様を待つ販売員を抱えるより売上に直結するのではないでしょうか(百貨店には昔からコンシェルジュサービス自体はありますが)。

商品やブランドには語るべきストーリーと信念が必要ですが、そもそもそのストーリーを面白がれるだけの前提知識がないフェーズでそれを聞いても、『素敵』という感情が『買う(お金を払う)』につながることはありません。

だからこそ、まずは面白がってもらうための下地づくりができる水先案内人としての『販売員」という仕事が、これからますます必要とされていくのではないだろうか。最近は、そんなことを考えています。

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最所あさみ

Retail Futurist / curator。「知性ある消費を作る」をミッションに掲げています。 将来は世界一の店舗メディアを作る予定。noteの有料マガジン「余談的小売文化論」とコミュニティマガジン「消費文化総研」もよろしくどうぞ!

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