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多様性を育むための『隔絶』を『断絶』にしてしまわないために

今期のNewsPicksアカデミアゼミでは高橋祥子さんの『生命科学から読み解く未来』を担当しているのですが、その中で「多様性を育んだのは『隔絶』」という話がでてきました。

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簡単にいうと、人類は単一集団から始まったという定説を覆し、実は同時期に複数の集団がアフリカ全土に広がっていた可能性があり、しかもそれぞれの集団が1000年以上交流しなかったことによって多様性が生まれたという話でした。

『多様性』というと異なるもの同士が相互作用しあって新しいものを生み出すイメージがありますが、実は多様性を生み出すにはまず同一集団の『隔絶』が必要だという話は、あらゆる組織に応用できることなのではないかと思います。

以前「"多様性"というマジックワード」という記事にも書いたのですが、異質なもの同士が交わるということはそれだけコミュニケーションコストがかかり、さらに尖ったものが丸くなっていくということでもあります。

ダイバーシティの重要性が叫ばれている現代においては、つい『多様であることはいいことだ』と鵜呑みにしてしまいがちなもの。しかし本当の意味で多様性を作るにはフェーズを意識する必要があるのではないかとずっと考えていたので、この『隔絶』と『多様性』の関係性は個人的にもしっくりくるものでした。

私はよく、自分のアイデンティティや軸を確立することの重要性についてnoteやTwitterで書いているのですが、個人であれ組織であれ、人に揺るがされない軸があってはじめて彼我の違いを平和的に受け止められるのではないかと思っています。

まずは自分(たち)の軸を育むために、意図的に隔絶状態を作ること。小林秀雄の『本当に信ずるものがあるなら、わざわざ徒党を組まずとも己の中で信ずればよいのだ』という言葉にも通じるものがあるのではないかと思います。

とはいえ、単に『隔絶』を作っただけではともすると『断絶』を生んでしまうことにもなりかねません。

すでにフィルターバブルや世代間闘争といった問題が表面化しており、他者を許容することなく自分だけが正しいという思想に陥ってしまう危険もあります。

ゼミでこの疑問を高橋さんにぶつけたところ、返ってきたのは『そのために全員をつなぐストーリーが必要なのだと思います』という回答でした。

ミッションやビジョンの重要性はいたるところで語られていますが、その理由は多様なグループを一本の軸でつなぐためである。

つまりそれぞれが自由に自分らしさを発揮するためには、根底に同じストーリーと共通言語を持つことで、『同じだけど違うし、違うけど同じ』という状況を作ることが必要不可欠だということ。

今いろんなところで起きている『断絶』は、お互いがお互いの違う部分にしか目を向けておらず、共有する大きなストーリーがなくなってしまっていることが大きな問題なのかもしれません。

そしてバックグラウンドや価値観が違う人たちが同じものを信じるために必要なのは、合理的な説明や理論だった提案ではなく、心を動かし魂を揺るがすような『大いなる物語』であるということ。

個々人の幸福の尺度が多様になっていく時代だからこそ、その違いを『断絶』によって争いのタネにしてしまわないように、丁寧に物語を編んでいく力がこれから求められていくのだと改めて感じたここ最近の学びでした。

★noteの記事にする前のネタを、Twitterでつぶやいたりしています。

今日の余談は、先週末見にいった『豊饒の海』の舞台の感想をば。特に役に立つような話ではありません。

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