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これからは「世界観」が商品になる

WarbyParkerやEverlane、CasperといったD2Cブランドの台頭と店舗のメディア化、PBブランドの隆盛。

こうした小売業界における変化の根源は、すべてひとつの要素に集約されると思う。

それは『世界観こそが最大の資産である』ということだ。

以前「ブランドとメディアの境目がなくなっていく時代に」というnoteを書いたのだけど、境目がなくなっていくのはもはや小売とメディアだけの話ではない。あらゆる業界の壁が溶けてなくなっていき、これまでライバルではなかったものがライバルになる。

Webサービスがリアルプロダクトに進出し、メーカーはテクノロジーを駆使してサブスクリプションモデルを築こうとする。インフルエンサーは自分のブランドを立ち上げるし、ブランドは作ってから届けるまでのUXすべてをデザインしなおさなければならない。

そうやってあらゆるものの垣根がなくなり、すべてが横並びに比較される世界では、思想と哲学、そしてそこから導き出された世界観こそが最大の差別化要因になる。

これまで大きな価値だった『早くて便利』はテクノロジーの進化によってその実現コストが大幅に下がり、もはや過当競争に陥りつつある。

「Move Fast and Break Things」の時代は、もうすぐ終わる。

一方で、実際に自分が買い物をしたりWebサービスを使うときに作り手の思想を意識しているかというと、よっぽど興味がある人以外はほぼ無意識に選択をしていると思う。

むしろインスタ映え全盛の今、ぱっと見のデザインが目を引くものの方が引きが強いと思う。

ミレニアルピンクを使って、人気インスタグラマーの構図を真似する方が、成功を手にする上では早いし簡単だろう。

『作る』に関するあらゆるコストが下がりつつある今、すでに世に出たものを真似すること自体はそう難しいことではない。

しかし、簡単に真似できるものは参入障壁が低いということでもあるので、後発で真似しようとしているうちにライバルが増え、苦しい戦いを強いられることになる。

だからこそ、簡単に真似できないという意味で『オリジナルの世界観』の価値が高まるのだ。

ここで言う世界観は、単に空間やアプリデザインの美しさや雰囲気の話ではない。

世界観とは、そのプロダクトやサービスを構成する上で選択されてきた無数の分岐の中で、意識的にせよ無意識的にせよ、何を正義とし、自分たちらしさとして選んできたかの結果である。

そしてその選択を下支えするのが思想と哲学であり、自分たちの美意識を言語化するという作業だ。

人は成功事例を見るとき『何をやったか』をもとに話したがるけれど、本当は『何をしなかったか』もあわせて見るべきだと私は思う。

彼らは何を選ばなかったから成功できたのか。

ビジネスモデルやキャンペーンのようなわかりやすい施策ではなく、彼ら自身にも言語化できていない『やらなかったこと』の方に、成功の秘密が隠れていることは多い。

なぜならば、選んだことの裏にある選ばなかったことと比較してはじめて、彼らの本当の優先順位がわかるからだ。

『顧客を大切にする』という言葉は、言うだけなら誰でもできる。

しかし本当に顧客の体験を重視するならば、彼らが自分たちにもっとも求めているものは何かを明確にし、求めていないことはやらない、という決断をする必要がある。たとえそれが、短期的に自分たちが儲かることだったとしても。

成熟しきってモノも情報も溢れる社会では、売るために他社がやったキャンペーンを模倣する時代は終わり、『自分たちの顧客にとって大切なこと』だけをやる企業が選ばれるようになる。

すでにおなかいっぱいのところにごはんやスイーツを押し付けてくる人が嫌われるのと同じで、おなかがいっぱいなら『じゃあ一緒に散歩でも行こうか』と別の提案ができる人の方が好まれるだろう。

これまではみんなが腹ペコだったから、自分の店を選んでさえもらえれば必ず注文してもらえた。だから『どのお店で食べるか』の選択肢の競争で勝ちあがればよかった。

でもこれからは、お腹いっぱいの人たちは何を欲しているのかをそれぞれが考えなければならない。

そして一緒に歩いているうちにまたお腹がすいてきたタイミングで食べものや飲み物を差し出したり、歩くのに必要なものを渡したりする必要がある。

つまり、『この人と一緒に歩きたい』と思ってもらうことさえできれば、何でも売れるし、それ以外の支え方は無数にある。

こないだ読んだ記事で「D2Cの価値の半分は『サービス』だ」という話が出てきたのだけど、モノを売るということは単にモノの価値をあげればいいわけではなくて、体験全体の価値を上げていかなければならない時代になりつつあるように思う。

そのブランドの世界観に出会った瞬間から、何かを欲しいと思って買って、そしてボロボロになるほど使いきり、ゴミ箱に捨てられる瞬間まで、すべての体験に思想は宿る。

だから最高の体験を作るためにブランドは店舗を作るし、自分たちの世界観にとどまってもらうためにサブスクリプション型のサービスだったり会員プランを作る。

それはもはや『どこに住むか』を選ぶのに近いかもしれない。バーチャルであれば現実複数拠点を持つコストが低いというだけの話だ。

つまり、これから究極的な商品は『世界観』になる。

自分たちが何を大切にし、どんな社会を目指し、何のために存在しているのか。

その問いを考え続けることの価値がますます高まっていくのではないかという思いが、日増しに強くなっている。

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今日のおまけは、Everlaneの哲学から考える『思想を押し付けない』という姿勢について。

ちょうど先日読んだEverlaneのCEOインタビューで、こんな話がでてきました。

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