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あの頃の、答え合わせを。

人生はタイミングだ、と思う。

「あの時、その言葉を聞きたかったのに」というボタンのかけ違いが、人生にはたびたび起こる。

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初恋ものといえば韓国のイメージがあるけれど、私は台湾映画の淡い色調と、どこにでもありそうな素朴なストーリー展開が好きだ。

最近観た「あの頃、君を追いかけた」はまさにそんな台湾映画の真骨頂で、誰もが自分の「あの頃」と重ねてしまう作品だった。

落ちこぼれで問題児の男の子と、成績優秀で優等生の女の子。

ベタではあるけれど、男の子の幼稚さと女の子の大人びた価値観の対比として、感情移入しやすい設定だった。

優等生の彼女の気をひきたくて一生懸命に勉強したり、なのに彼女からはっきりとした答えを聞くことは拒絶したり、そばにいたいからこそ突き放されない距離を保ちたいという、思春期の男の子特有の青い感性が詰まっている作品だ。

女性は先に大人になり、男はその速さに太刀打ちできない。

青春時代の残酷さを、これほど的確に表す言葉はない気がする。

10代の終わりから20代にかけての成長は、男女で大きな開きがある。
そしてそれによって、ボタンはどんどんかけ違っていく。

「バカ、大バカ!あなたは何も分かってない!」
雨の中泣きながら叫んだヒロインの姿は、きっとあの頃の私たち自身だ。

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「お前が好きだ」
と言う主人公に対して、ヒロインが不安を吐露するシーンがある。

「あなたは私を美化してる。家にいるときはだらしないし、寝起きは不機嫌だし、くだらないことで妹と喧嘩もする。私って、とっても普通なの。あなたが好きになったのは想像の中の私かも。
本当に私のことが好き?もう一度ちゃんと考えて。」

自分も相手のことが好きだからこそ、近づいたら素の自分に対して幻滅されるんじゃないか。だったら、今の距離感のままでいたい。

外できちんと振舞っている人ほど、この不安が常につきまとっているものだと思う。

「好きだ」と言われて素直に胸に飛び込めない頑なさは、そんな不安に根ざしている。

そしてその思いは、数年後にはっきりと言葉にされる。

「よく言うでしょ。恋はつかめないうちが一番美しい。成就するといろんな気持ちを失くしてしまう。だから、もっと追っていてほしかった。」

一緒に時間を重ねるのは幸せだけど、すれ違い続けたからこその幸福もある。
思い出は、いつも美しく結晶化される。

主人公の「もしパラレルワールドがあれば、俺たちもそこでは付き合っているのかもしれない。」という言葉に、ヒロインは「うらやましいな。」と答える。

このやりとりが、この2人の関係性のすべてだと思う。

お互いに好きなら一緒にいられるなんていうことはなくて、どんなに好きでも、好きだからこそ、大切にしているからこそ、私たちはすれ違い続ける。

そして5年、10年の時間が経ってから、「あの頃」の答え合わせをする。

今さら答え合わせをしたところで、もう戻れないことはわかっていても。

戻れないとわかっている。だからこそ、パラレルワールドに生きる私たちには幸せに暮らしていてほしい、と思う。

「過去を振り返っても仕方ない」「たらればを言うより前を向け」と人は言う。

でも、今の幸せを噛み締めながらも、時々宝箱を開けて宝石のような思い出を取り出して眺めるのは後悔なんかじゃない。

「恋してくれて、ありがとう」
「俺も、お前に恋してた自分が好きだ。『俺の大切な人』」

「大切な人」と結ばれるとは限らない。
でも、その人に出会い、たくさんの感情に出会った時間は、関係性に限らず尊いものだと思う。

白黒はっきりしない、微妙なグラデーションの時間。
そんなもどかしい時間を、私たちは「青春時代」と呼ぶのだろう。

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(Photo by Kazuna.H

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