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言葉をつむぎ、文章を編むということ

4月からNewsPicksアカデミアで新しくはじまったゼミ制度。

私は佐々木さんの「メディア人2.0」を受け持っているのですが、今回谷崎潤一郎の『文章読本』を読み、普遍的な教えと時代性を失っている箇所について1,000字以内で論じよという課題がでたので、私も試しに書いてみたいと思います。

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「言語は思想を伝える機関であると同時に、思想に一つの形態を与える」
と谷崎は言う。

言葉は思想の容れ物であり、さればこそ彼は同時に「最適な言葉はただ一つしかない」とも言った。

どれだけ時代によって言語が変化しようとも、自らの思想をもっとも正しく体現する容れ物を選ぶことに対して、書き手は常に神経質であらねばならない。

なぜならば、谷崎も説いた通り「話す」ではなくあえて「書く」ことの意味は、読んだ瞬間の感銘をできるだけ長く読者の中に留めておくことにあり、情報や思想をいかに正確に伝え残すかに主眼がおかれるべきだからである。

現代は彼の生きた時代に比べてはるかに言文一致が進み、Web記事の中にはまるで会話をしているかのようなレイアウトも増えてきた。

しかし、声の調子や間の置き方、さらには身振り手振りといった言葉以外の情報が多分に入る口頭のコミュケーションに対して、文章が伝えうる情報は言葉のみである。

つまり、どれだけ時代が進んだとしても、書き手には常に思想を正しく伝え残すための言葉選びのセンスが問われることは不変であると思われる。

一方で、言語は次第に変化し、言葉のもつ意味も変わっていく。

一千年前の「おかし」「かなし」は現在使われているニュアンスとは大きく異なり、さらに外来語や造語など新しい言葉が生まれ、逆に使われなくなっていく言葉もある。

実際、本書の中にあった振り仮名や送り仮名の解説はすでに当たり前に定着しているものも多く、こうした細かいルールは時代によって変動していくものだろう。

しかしここで思い出すべきは、谷崎の「人間が言葉を使うと同時に、言葉も人間を使うことがある」という言葉である。

例えば、「春はあけぼの」といえば、白々と明ける春の夜明けが心に浮かぶ。

そのものの意味を知らずとも、読むだけで共通のイメージを連想させる思想のビークルとしても機能するのが言葉という容れ物の特徴ではないだろうか。
よい文章とは、単に正しい文法や流麗な単語選びが評価されるのではない。

その言葉に思想が込められた結果、時代を超えて言葉と思想が融合していると感じられるほどに昇華していることが、「書く」ことの本来の目的であるより多くの読者の中に長く感銘を残すという役割を果たす。

思想を突き詰めることで最適な言葉を生み出し、思想と密着した言葉が読み手の世界を変えていく。
この連鎖こそが文章を書く意味なのではないだろうか。

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998文字!文字数制限ギリギリいっぱい使って書いてみました!

私は書きながら考えるタイプなので、昔読んだこの本の中でも、私は細かいテクニックより谷崎の中での「言葉」の位置付けに興味をもったのだなと自分自身も学びになりました。

特に上記でも引用した「最適な言葉はただ一つしかない」という言葉は、改めて読み返して胸にズシンときた一言。

曲がりなりにも何かを書いている以上、常に言葉とは真摯に向き合い続けなければならない、適当に言葉を使うと思考が適当になる、ということを痛感しました。

日頃私が書いているコラムは2,000字前後なので1,000字に圧縮するのは至難の技でしたが、単に書籍をまとめるだけではなくそこから考えられることを自分の思考として論じるのはインプット効率が5倍くらい上がるのでおすすめです!

そして文章読本も言い回しが古いのでやや読みにくさはありますが、名著なのでぜひ。

個人的には遠藤周作の『十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。』も好きでよく勧めているのでぜひ。

ちなみに、この時代文章の書き方について論じるのが流行っていたのか、『文章読本』で探すといろんな作家のバージョンがでてくるので、読み比べるのもおもしろいかもしれません。

みなさまもよい読書ライフを!

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今日は海外ニュースを2本取り上げて、その要約をご紹介したいと思います。
今回の話題はこちら。

1.アパレルの製造タームを短くするために必要なこと
2.Nordstromがブランドに望む「サイズの範囲」

海外の小売業界で起きている変化やトレンドをお伝えしていきます。

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