「疲れさせない」ことの価値

『パンとスープとネコ日和』というドラマの中に、こんなセリフがでてくる。

住職:昔からの植木職人の方が見てくれているんですけど、その人面白い人で。いつも相談しながら、『楽な庭にしましょう』って話してるんです。
アキコ:楽な、庭?
住職:ええ。見惚れるより、見て楽な気分になれる庭っていうか。
アキコ:ああ、なるほど
住職:庭を見惚れるくらい完璧にしてしまうと、植物とか、土とか、本来自然で楽にしてくれるはずのものがそこに住むものや来るものを逆に疲れさせてしまうかもしれませんから。

このシーンを観たとき、今求められているのはこういう『疲れさせない』場所やモノなのかもしれない、とふと思った。

いくらでも飾り立てることができ、実際とは違う虚像を演じることができる時代だからこそ、無理せず自然に成り立っているものの価値が上がっていくのではないか、と。

美しいものは人の心を癒すけれど、無理して作られたものは受け手にまでどっしりと重たい疲れをもたらしてしまう。

最近アメリカを中心に、インスタグラマーが『素の』投稿をしはじめているのもこうした疲れの作用が大きいのではないかと思う。

しかし、これはよりよくなろうとする成長意欲と矛盾するものではない。

他者から押し付けられたロールモデルを目指すのではなく、自分自身が心から快適さを感じられる方向に成長し、成熟していくことなのだろうと思う。

つまりまずは自分自身の幸福があり、そこに惹きつけられた人々が結果として集まってくるという流れこそが、これから王道になっていくのではないだろうかと思うのだ。

この考えに確信をもったのは、島根の石見銀山にある『他郷阿部家』を訪ねたのがきっかけだった。

最近はコンセプトのあるホテルも増え、SNSや雑誌でも素敵なホテルの情報が溢れている。

もちろんどのホテルも素敵な空間だし、また泊まりに行きたいと思う場所もたくさんある。

ただ、空間として完成されすぎていると、人は無意識に『私の不要性』を感じてしまう。

そしてそれが結果的に『疲れ』につながってしまうようにも思うのだ。

宿泊した翌日、朝食を食べながら群言堂社長であり他郷阿部家を作った登美さんとお話していたとき、『口ではごまかせても暮らしはごまかせない』という話を聞いた。

そのとき、『ああ、ここには嘘も脚色もないから人を疲れさせないのだな』と理解した。

ここではまず暮らしが先にあって、宿泊者はそのおすそわけをもらっているような感覚なのだ。

だからどこを切り取っても気負いがなく、写真でみたときと実際に足を運んだときの印象に大きな差異がない。

(ちなみにこれらの写真はすべてノンフィルター。iPhoneでササッと撮ったものです)

ちょうど他郷阿部家に宿泊する直前に『消費文化総研』の関西メンバーと集まっていたのだけど、そのとき『続けるためのコツは無理をしないこと』という話になった。

自分ではあまり意識していなかったけれど、『最所さん自身が無理せず楽しんでいるのが伝わってくる』と言われて、たしかに私自身がコミュニティの活動を一番楽しんでいるかもしれない、と気づいたのだ。

もちろん集まってくれた人たちに楽しんでもらえるようにあれこれ考えているけれど、たしかにまず自分自身が面白いと思ったこと、楽しそうなことを発端にして『この指とまれ』をやっているような感覚がある。

そして無理なく続けていると、その『続いている』という事実だけで勝手に価値が増幅していく。

よく好きを仕事にすべきかの議論があるけれど、好きかどうかはさておき、自分にとって無理のないこと、自分も相手も疲れさせない自然な営みを自分の暮らしの中心に据えた方がいいのかもしれない。

人生は、自分らしさに回帰していく旅だ、と私は思う。

だからこそ自分も相手も疲れさせない、自然な姿で価値を発揮していくことを考える時代がもうすぐそこまできているように思うのだ。

何かができるということは素晴らしい。
でもそれ以上に、あなたがあなたらしく生きていることを、私は祝福したいと思う。

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最所あさみ

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