岡崎体育さんのファンクラブから見る「フェア」と「平等」の違い

今日のnoteは、本当は別のテーマで書く予定だったのですが、岡崎体育さんのファンクラブ騒動が自分の中で最近考えていたことを象徴するものだったので、自分の理解の整理のために筆をとってみました。

まず、岡崎体育さんのファンクラブ騒動とは、「bitfan」というサービスを使った新しいファンクラブシステムが発表されたことが発端でした。

参考:ファンの熱量を可視化するサービス「bitfan」第一弾アーティストは岡崎体育!ファンクラブの常識を覆す新サービス

要は、グッズやライブチケットなどに使った金額に応じて、チェキの撮影や握手会などのファンクラブ特典が追加されるという仕組みです。

この新しい試みに対して、「ファンを使った金額で差別するのか!」と批難の声が上がり、想像以上に大きな騒動となりました。

最終的に、岡崎体育さんご本人が「ファンクラブの存在意義について」というブログで経緯を説明し、これもまた大きなニュースとなりました。

この一件への賛否は各々あると思いますが、個人的に一番最初に考えたのは、最近読んだ「日本再興戦略」にでてきた「公平にこだわり、平等にこだわらない日本人」というフレーズです。

平等とは、対象があってその下で権利が一様ということです。何かの権利を一箇所に集めて、それを再分配することによって全員に同じ権利がある状態を指します。それに対して、公平はフェアだということ。システムの中にエラーがないことや、ズルや不正や優遇をしないということです。
(中略)
日本人は、ゲームがフェアであることは意識するけれども、権利が平等であることはあまり意識しないのです。(「日本再興戦略」より)

今回の岡崎体育さんの一件は、「公平にこだわる日本人」の特徴がわかりやすい事例なのではないかと思います。

お金を払えば自分の望むサービスを受ける権利が明示されていることを平等ととるか、お金持ちだけしかよいサービスを受けられないことを公平ではないと思うか。

よく、日本人は機会の平等ではなく結果の平等を求めがちだと言われますが、これは「神の下にみな平等」の概念を持つ西洋と、「ムラとしての調和」を第一義とする東洋の思想の違いではないかと思います。

平等とフラットは意味が違います平等というのは権利を誰かに委譲した後、再分配されるときの考え方です。つまり一神教の考え方にすごく近い。もしくは統治者がいる国の考え方に近い。
一方で、日本の特色として、権利を与えてくれる誰かがいたことがほとんどありません。平等が与えられるという感覚がなじまない。日本人はもっとフラットで自然状態に近いというか、波がザブーンと来るように動いています。(「日本再興戦略」より)

私の愛読書である伊丹十三の「フランス料理を私と」の中に、山本七平と「契約」について対談している章があります。

そこには、ヨーロッパの契約は神との上下契約であって、本人同士の相互契約ではないこと、異なる教義を持つもの同士が社会生活を営みやすいようにパウロが内的規範と外的規範の区別をつくったこと、つまりどんな宗教を信じていようと、外的規範(=シヴィル・ロー)に従う必要があり、これが相互契約のはじまりである、という話がでてきます。

法がタッチするのは行為だけなので、なにを信条とするかまで干渉する権利はなく、どんなに信念が違おうと、宗教が違おうと、外的ルールが同じなら一緒にやってゆきましょう、という考え方が近代のヨーロッパです。

一方で、日本は「日本再興戦略」にも書かれていた通り、象徴としての権力者と実行者としての権力者が別れている時期がほとんどだったため、こうした一神教の感覚がありません。

山本七平は、日本的な相互契約の欠点を「相談しあったことは、また変えちゃうから駄目なんです。」という言い方で表現しました。

神との契約という上下関係であれば、個々人同士が話し合ったところで変更できるものではないため、常にオールオアナッシングです。

しかし、当人同士の約束であれば、相談次第では例外を作ったり中途半端に達成されない契約がでてきてしまいます。

特に面白いのが「日本の契約は唐傘連判からはじまっている」というくだりで、これが「抜け駆けしてはいけない」という集団主義的な意識を日本人に植えつけたのだと言います。

「たとえ公方(将軍)の名なりといえども、一気にはかり、多勢によるべし」の精神は今も受け継がれ、誰が絶対的責任者なのか不明瞭なままに、それでもなぜかことが運ばれていく。

自然であることこそが大事で、不自然なことは公方の命令であっても拒否していいという精神は、たしかに日本的な感覚ではないかと思います。

話を「平等」と「公平」のテーマに戻すと、西洋的な「平等」のもとでは、権利とはそもそも絶対的存在である神から与えられるものであり、教義が異なってもルールさえ明示されていて自分で選択できることが重視されます。

一方で、日本的な「公平」のもとでは、権利は同じ人間が与えるものだからこそ、自分と相手の得る利益が異なる場合に不満を言うことができてしまいます。

これが日本が結果の平等を求めてしまう根本的な原因なのではないかと思います。

しかし、西洋的態度と日本的態度のどちらかに優劣があるわけではありません。

前述の「日本再興戦略」の中でも、どちらがいいという話ではなく今の日本に求められるかたちで「平等と公平」を捉え直すことが重要だと書かれていました。

今日本に求められる平等と公平とは、適材適所をきちんと肯定できるロジックと、それに齟齬が発生した場合に制度自体を変更できるようなフットワークの軽い発想です。(「日本再興戦略」より)

今回の岡崎体育さんの件で言えば、ブログにも書かれていた下記の考え方を、まず受け手である私たち自身がインストールする必要があると思います。

でも僕が1日でできるサービスにも時間などの制限があります。つまりその会員限定グッズの個数も上限を設けないといけない。
つまり、結局ランダムで「選民」しないといけない
だったらせめて、一生懸命働いて稼いだお金をたくさん僕に使ってくれる人に少しだけオマケしてあげたいというのが僕の考えであり、このシステムを採用した理由です。(「ファンクラブの存在意義について」より)

ちなみに、私がこの一件で一番違和感があったのは、「みんな百貨店とか航空会社とかクレジットカード会社からも同じような扱い受けてるやん???」ということです。

百貨店も航空会社もカード会社も、前年の実績に応じて割引率が変動したり、座席のグレードがあからさまに異なったり、ゴールドやプラチナといったステータスが変化します。

むしろ、上記の3つはハイクラスになるとランクアップ条件がわからないことが多いため、ランクがアップの基準がある程度わかっているbitfanの仕組みの方がまだ公明正大なのではないかと思うほどです。

ただ、今回の騒動を受けて思ったのは、「ランキング」は日本人にとって非常にデリケートなものなのかもしれないということ。

「日本三大◯◯」や「トップ10」といったランキングが好きな民族ではありつつも、「個」が評価されることに対してはあまり好ましく思わない人が多いのは、「日本人は、個人として異端にはなりにくいですが、集団として異端になるのは得意」という日本再興戦略内の一節とも合致します。

つまり、「スタンダード」「ゴールド」「プラチナ」といった集団でまとめて評価されることには不満がなくても、個人で評価されることには恐怖を感じてしまうのです。

その恐怖と違和感が「怒り」に転化された結果、今回のような賛否両論の騒動を巻き起こしたのではないかと思います。

私自身、フリーランスとして岡崎体育さんの主張は共感するところが大きかったですし、仕組みとしても個人のランキングを公表するようなものではないようなので、徐々に今回のような取り組みは広がっていくような気がしています。

自分が提供側になったときのためにもこうした感情を理解しておかなければと思いつつ、ひとりの受け手として「機会の平等」と「結果の平等」を分けて考える癖をつけなければと改めて思った一件でもありました。

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最所あさみ

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