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映画『珈琲哲学』と、「いいものは人を動かす」ということ

11/3の夜、東京国際映画祭で上映された『珈琲哲学』という映画を観てきました。

根がミーハーなもので、お恥ずかしながら動機が「東京国際映画祭に行きたい!」だった私。
インドネシア映画というもの、そしてこの映画を撮ったサソンコ監督やインドネシアの政治的・文化的背景など全く知らずに「ちょうど行きたい時間に上映しているから」「Twitterでも評判よさそうだったから」という軽いノリで鑑賞しました。

結論から言うと、ここ数年で一番心に残る映画でした。

事前に見ていたあらすじはざっくり「珈琲哲学というコーヒーショップを営む青年2人が、店の借金を返すためにある実業家から持ちかけられた"完璧なコーヒー"づくりに挑む」というもの。

見る前はこのあらすじだけ読んで、ハッピーエンドそうだしいいかなーという程度の期待値だったのですが、いい意味でがっつり裏切られました。

中盤まではあらすじの通り、借金返済のために"完璧なコーヒー"をつくることを中心に話が進んでいくのですが、実はこの映画の肝はその後。

普通の商業映画であれば賭けに勝って万々歳、めでたしめでたし…となると思いますが、『珈琲哲学』はある意味そこからが物語の本番といっても過言ではありません。

このストーリー構成はある意味「人生の本質はビジネスのその先にある」というメッセージが込められているような気がします。(劇中で彼らがこの賭けのことを"ビジネス"と表現していたこともあり)

『珈琲哲学』の中で表現されている本質的なメッセージはあくまでシンプルで、「許容すること」を丹念に描いた作品だと思うのですが、その本流のメッセージ以外にも考えさせられるポイントがちりばめられているのが面白さのポイントです。

"心"と"頭"、"愛情"と"技術"の対立とコンビネーション、インドネシアにおけるコーヒーというアイコンが示すもの、宗教・人種・文化の多様性など、後から反芻する時間も楽しめるつくりになっています。

そして何より、上映が終わった後に監督自身が語っていたように根底には「パームオイルをつくる大企業が、伝統的なコーヒー畑を荒らし農業従事者を虐げていること」への問題提起があります。

また映画を観た後に「映画「珈琲哲學」」というレビューブログを読んで、さらにこの作品に込められた深い想いやメッセージに触れることができました。

スハルト政権について、インドネシアの多様性についてなどの背景を全く知らずに見ても楽しめる映画だけれど、知らないが故に興味をもって調べる機会になるというのはいい映画のいい映画たる所以だなと改めて思った次第です。

いいものには、人を動かす力がある。

映画に出てくる「珈琲哲学」というお店は実際にジャカルタにあるそうで、なんと撮影に使ったセットをそのままお店として開店させたのだそうです。

今ではジャカルタの人気コーヒーショップになっているということで、インドネシアに行く機会があったらぜひとも立ち寄りたいと思っています。

昨日までまったくインドネシアに興味がなかった私が「インドネシアにいってみたい!」と思うようになったこと、そのきっかけがたった一本の映画だったというのは改めて映画や芸術というものの力の大きさを感じさせます。

そして家に帰って前述のレビューを読んでからインドネシアという国自体に興味をもち、スハルト政権時代はどんな国だったのか、そして彼の時代に起きた100万人とも言われる大虐殺はなぜ起きたのか、その時の国連を含めた諸外国がどう関与したのかという点についてもはじめて自分で調べて学びました。(「アクト・オブ・キリング」が観てみたくなった)

またインドネシアという国の多様性と歴史的背景、憲法で宗教を信じることが求められているというユニークさ、インドネシア語は人造語であり、多くの人は自分の民族固有の言語とインドネシア語のバイリンガルであることなどのユニークな点も知りました。

これまで心理的に遠い、どこかにある海の彼方の島国という認識だったインドネシアが、一気に身近で興味のある対象になった瞬間です。

今は誰でも手軽に発信することができるようになりましたが、やはり本当にいいもの、魂が入っているものは人の"行動"を促すのだと思います。

人に何かを伝える仕事というのは、「いいね」と言われるだけに満足せず「人の行動をどう変えるか」を考えることなのかもしれません。

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ベンが"パーフェクト"を作った時に足りなかったものと、最高の豆"ティウス"に出会って変わったこと。

私たちは"完璧"を技術や理論に求めがちだけれど、完璧なものに必要な最後の1ピースは、もっと根源的なところにある。

映画の最後に出てくる「それでも、人生は美しい」という言葉に、じんわりと温かい涙がでてくる作品です。

(photo by 東京国際映画祭HP

【追記】2017年に一般公開も予定されているとのこと!
まだ公開日は決定していないもよう?なので配給会社からの情報をチェックしていきたいと思います!

参考:ココロヲ・動かす・映画社〇

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