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コンビを組むなら、こんな風に。

結婚でも、ビジネスでも、友人関係でも。
人と人とのつながりの最小単位は「二人組」だ。

一人と一人が手を取り合うことで、それぞれのパワーが足し算ではなく掛け算となって、何倍にも膨れ上がっていく。
そして少しずつ仲間が増えていき、家族になったり会社になったり、仲間になったりする。

早く行きたければ、ひとりで行け。
遠くまで行きたければ、みんなで行け。

その「みんな」のはじまりは、いつだって一人と一人が出会うことにある。

では、「理想のパートナー」とは何だろう。
古今東西さまざまな賢人によって語られてきたテーマではあるけれど、人によって性格が異ればパートナーに求めるものも変わる。

万人に共通する理想的なパートナーの条件があるわけではない。
人の数だけ、理想のパートナーも存在する。

ただ、理想の「関係性」はある程度普遍性があるような気がしている。

私にとって、一番理想の関係性は球史に残る二遊間のレジェンド「アライバ」こと、井端さんと荒木さんのコンビだ。

この2人のコンビ復活動画への野球ファン視点の感想は以前もnoteに書いたのだけど、シリーズの終盤で語られた思い出エピソードやお互いへの思いから、ベストコンビは技術だけではなく精神的な結びつきも大事なのだと改めて感じた。

特に印象的だったのは、サムネイルにもなっている「二遊間が会話しているうちはまだまだ」という話。

セカンドとショートは常に連携プレーが求められるポジションであり、ダブルプレーの機会も多い。
試合を見ていると簡単にこなしているように見えるけれど、0.1秒でセーフかアウトかが決まってしまうギリギリの戦いをしている。

だからこそ彼らは、ピッチャーが投げる一球一球に対して、毎回ボールカウントを念頭に置きながらバッターの癖やキャッチャーのサイン、ピッチャーの決め球、他の野手の守備位置などあらゆる要素を確認しながら複数の打球パターンを脳内でシミュレーションし、守備位置につく。

その中でも二遊間を守るセカンドとショートは、どちらかが捕球した際にもう片方がベースカバーに入ってアウトにしたり、こぼした球をフォローしたりとランナーのあるなしに関わらず連携機会が多い。

にも関わらず一球ごとにサインを使ったりベース上で話し合ったりしていたら、投手のペースも乱してしまうし相手に作戦がバレてしまうこともある。

だからこそ二遊間は何も言わなくてもお互いの意思疎通ができている状態が望ましいのだ。

さらに井端さんは動画の中で、「何も言わなくてもお互いに意思疎通ができていれば、キャッチャーのサインやバッターの動きに集中できる」と話していた。

コンビを組む相手に全幅の信頼を寄せ、背中を預けられるからこそ本当に戦うべき相手に集中することができる。

これはビジネスパートナーとしてもっとも理想のかたちなのではないだろうか。

実際にアライバのファインプレー集を見ていると、まるで2人で1つの生き物に見えるほど、流れるようにアウトが積み重ねられていく。

一方がギリギリのところでボールを捕れば、どこからかもう一方が走ってきてボールを受け取り、セカンドでアウトにしてファーストへ送球する。
一方が走ってきた勢いで捕球したと思ったら、グラブトスでもう一方にボールを渡してアウトにする。

「息がぴったり」なんて月並みな言葉では表せないほど、2人の守備ははじめからそうなることが決まっていたように、寸分の狂いもなくランナーをアウトにしていく。

アライバの守備は、ため息がでるほど美しい。

昔からこの2人の守備は大好きだったけれど、これができるのは2人が出会った奇跡ゆえであって、他の人やコンビには真似できないものだとずっと思っていた。

しかしイバTVで井端さんが語る守備理論を学び、それに対して自分なりの解釈で言語化する荒木さんの姿を見たとき、この2人だってはじめから最強だったわけではなく、原理原則とそれを遂行する努力こそが名コンビを作り上げてきたのだと気づいた。

コンビを組む以上、お互いへの信頼は必要不可欠だ。
では信頼がどのように育まれるかというと、「期待に応えること」を積み重ねるしかないのではないかと私は思う。

この2人の場合、井端さんが独自の守備理論によってお互いの期待値をコントロールし、「Aの場合はB」という原理原則を作り上げてきた。
その原理原則を荒木さんが深く理解し、お互いに忠実に再現してきたからこそ、何も言わずとも次のお互いのアクションが手に取るように理解できたのだ。

自分で走りながらボールを投げてみるとわかるけれど、捕球のために走った勢いのまま正確にボールを投げることはとても難しく、的となる相手も動いている場合はその難易度はさらに上がる。

プロの場合は相手が捕球位置につくまで待っていては間に合わないので、必然的に「相手がそこにいるであろうと予測できる場所」に投げなければならないシーンが増える。

そこで自信を持って投げられるかどうか、そして受け手も相手がそこに投げると確信をもって突っ込めるかどうか。

迷ったり考えたりすることなく、お互いが一瞬で動ける状況を作ってきたのは、明確な原理原則とそれを遂行できる能力への信頼である。

これが逆の作用を及ぼすと、衝突したりお見合いになってしまったり、アウトがとれないどころか進塁や得点を許してしまうことすらある。

同じようなことが、私たちの生活にも言えるのではないだろうか。

仕事で急に決断を求められたとき、判断基準さえ明確に決まっていればパートナーがどう判断するかが予測でき、自分の行動もすぐに決めることができる。

以心伝心とは相手に甘えることではなく、常に判断基準をすり合わせながらお互いに切磋琢磨しつづける努力によってのみ得られるものなのだ。

球界最強のレジェンド二遊間が生まれたのは、単なる偶然ではなく二人の努力の賜物だった。

理想のパートナーは、運命的に出会うものではなく何年も何十年もかけて理想に近づいていくことをいうのかもしれない。

そして何より、この2人の関係で一番好きなのは、これだけ長い間コンビを組んでいるにも関わらず、絶対にお互いのことを貶さず、むしろいいところを積極的に発信している点だ。

前述のアライバ復活シリーズでも、ことあるごとにお互いの動きを褒め、「相手がいかにすごいか」を語り合っていた。

日本では仲良くなると少し貶すくらいの方が親愛の証という風潮もある中で、十何年経ってもお互いへのリスペクトを忘れない2人の関係はとても理想的だ。

後輩である荒木さんが先輩を立てる発言をするのは当たり前に見えるかもしれないけれど、十何年も付き合ってきていまだにここまで律儀に接しているケースは珍しいと思う。
動画の中での「これが井端さんのすごいところ」「僕には真似できないんです」といった発言も、お世辞ではなく心の底から言っていることが伝わってきた。
気心が知れた仲になっても、そのリスペクトの心は薄れるどころか強まっていったことがわかる。

そして井端さんも荒木さんに対して居丈高になることなく、たまに冗談を交えながらも荒木さんの動きひとつひとつを称賛していた。
2人の守備理論は井端さんの考えが強く反映されているとはいえ、それを忠実に再現できる人はそう多くなかったのだろう。
誰よりも自分の考えを理解し、信頼し、共に築き上げてきた絆が2人の会話の端々から伝わってきた。

他のインタビューでも、2人はお互いへの愛を公言して憚らない。

「相手の好きなところは?」
という質問に対しては2人とも「すべて」。

「相手の嫌いなところは?」
に対しては井端さんが「強いていえば僕より早く結婚したこと」と笑いを誘う回答をしていたけれど、2人の回答は「なし」だった。

場を沸かせるために相手の変なところを暴露したり、ポーズとして悪口を言ったりするのは私たちの日常生活でもよくあることだ。

しかし2人はそんな空気をものともせず、「相手を誰より信頼している」と一貫して言いつづけてきた。

その実直な関係性もまた、2人の堅実な守備スタイルを表しているようで微笑ましくなってしまう。

いつか私がコンビを組むなら、アライバの2人のように。
何十年もつづく誠実で温かな関係を作る努力をできる2人であり続けたいと思う。

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