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人の心を深く揺さぶるもの

数年ぶりにディズニー映画『ポカホンタス』を観た。

小さい頃からテープが擦り切れるまで何度も観てきたこのポカホンタスのストーリーは、空でも言えるくらいに頭に刷り込まれているはずなのに、それでもいつもどおり感動して、久しぶりに映画をみて泣いた。

せっかく有限な人生の時間を使うならもっと新しい作品を見るべきなのではないかと思わないでもないけれど、いい作品は何回みても新たな発見がある。

自分の人生と重ね合わせて何度も何度も繰り返しみることができる作品との出会いは、人生を豊かにする。

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ポカホンタスのストーリーは知らなくても、『Color of the Wind』を聞いたことがある人は多いかもしれない。

オリジナルのサビは『Can you paint with all the colors of the wind?』なので直訳すると『あなたは風の色すべてを使って絵を描ける?』なのだけど、日本語版の歌詞『風の絵の具は何色?』という言葉が私は好きだ。

今でも、風を頬にうけるたびに自分自身に問う。

『この風の絵の具は何色か?』と。

世の中は素晴らしいコンテンツで溢れているけれど、長く人の心に残るコンテンツは強いワンメッセージを持っている。

例えばポカホンタスの場合は、物語の根底に流れている『赦し』というテーマが子供心にもわかるほどはっきりと描かれていた。

今はストーリーが大事だと言われているけれど、そこで必要なのはサプライズや奇をてらった物語ではない。

安心して見られる王道のストーリーの中で、伝えたいメッセージをひとつに集約できているかどうか、そして物語のすべてがそのテーマに向かって収束しているかどうかだ。

さらに言えば、設定がどれだけ自分とかけ離れていようと、一瞬一瞬の感情の揺れに共感できるとき、人は物語の中に入り込む。

設定とは、その感情を強調するための舞台装置でしかない。

深く人の魂を揺さぶるものは、激しさよりも静寂の中にある。

DINING OUTもまさに、そうした静けさから感動を生む舞台だった。

千三百年の歴史をもつ天台宗のお寺・文殊仙寺。

原生林に囲まれた境内は、自然と手を合わせなくなる神聖な空気に包まれていた。

(画像:文殊仙寺HP

そして神秘的な三百段の石段を登りきると現れる、一晩だけのレストラン。


『茶禅華』の川田シェフが作る中国料理は、日本料理の修行経験もあってどこか日本的な、それでいて中国の雄大さはそのままに表現されたジャンルレスなコースだった。







まさに『和魂漢才』がそのまま体現された料理たち。

『神仏習合』の原点である国東にこれほどぴったりなシェフがいるだろうか、とその奇跡に深い感動を覚えた時間だった。

都会に生きている私たちは、刺激に慣れすぎたことによって驚きや衝撃によってしか心は揺さぶられないと思ってしまいがちだ。

しかし、一瞬の楽しさや感動ではなく、何度も反芻したり自分の人生の節目に重ね合わせて思い出すような深く心に残る体験は、静けさの中で自分の心に耳を傾けることで得られるものなのかもしれない。

私たちは、心に自分だけの風景をもつ。
そして風が吹くたび、その景色を重出す。

飛行機から降りて1日ぶりに東京の風を髪に受けながら、ひとつとして同じ色のない緑が織りなしていた景色を心に浮かべ、『国東の風は果たして何色だっただろうか』と思い返すのだった。

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