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6.クドリャフカの後悔 【#一週間クドリャフカ】

辛くても、悲しくても…。
僕たちは忘れちゃいけない。
そんなことしかできないんだ、無力な僕たちは。
苦い後悔を抱えて、それでも誰かに手を伸ばし、支えようと想うこころ。
そんなことすら、僕たちにはひどく難しい。

リトルバスターズ! クドルートより

とうとう来てしまいました。
一番書きたかったけど一番書きたくなかった内容。
辛い話だとわかっていて辛い話を読み返すのには、勇気が要りますよね。


前提知識として、クドリャフカのルートには2つのエンディングがある事、そして2つ目は本編を終える+クドリャフカのバッドエンドを見る(最後の選択を誤る)ことで解放される事を押さえておきます。
万が一、エンディングが2つあることなんて知らなかったよ、という方が居たら、悪いことは言わないので今すぐ見てきてください。
ちなみに、既に見ているかどうかはギャラリーのクドのとあるCGが3/4になっているかどうかで確認可能です。
15年前のゲームのエンド回収を必死に迫る意味があるのかはともかく
以降、それぞれのエンディングを本エンド/別エンドと表記します。


さて、前回見てきた本エンドですが、現実に向き合っているようでその向き合い方は現実的じゃないというか、最終的にはデウス・エクス・マキナ的な力を借りてハッピーエンドに持って行ってしまう話なんですよ。
ここでいうデウス・エクス・マキナは理樹、そして理樹に何故か付与された超能力みたいなものを指すと思ってください。

過程はどうあれ、最終的に理樹はヒーローになるし、結末もなんだかスカッとした気分で見る事が出来ます。
対して、別エンドの内容はどうでしょうか。


正直、これでスカッとする人はいないでしょう。
理樹が良かれと思って「自分で選択する」ことをクドリャフカに説いてしまったせいで、かつて現実で起きた悲劇が繰り返され、彼女は笑顔を失い、ずっと保留してきた「後悔の塊」を自らの手で捨ててしまい、挙句自らの意志でこの世界から立ち去ろうとする。
自分で選択する、という事を、彼女は悪い方向に捉えてしまっています。彼女を遠ざけるために言った訳でも、逃げる口実を与える為に言った訳でもないのに、結果的には最悪のシチュエーションが生まれてしまいました。

本屋のシーンとか本当に見ていて辛いですよね。
「宇宙のことは忘れて、学校の先生になる」なんて、あのクドリャフカがそんな簡単に宇宙の夢を諦められる筈がないのに。わかり切っているのに、早口で自分の「選択」について嘘を並べ立てる彼女の姿は、どこか空虚で、悲痛です。
読者は未来に期待の持てそうな選択肢を選んだ筈なのに、なんなら本エンドより状況が悪くなっているんですよね。

何より、ラストシーン。
「なんとなく」で携帯を解約する人はいませんし、「なんとなく」で母親の形見の恰好をする人はいません。クドリャフカには、人との繋がりを絶ち、明確に「この世界を立ち去る」意志があったと考えるべきで、ここで引き止められなかったら恐らく次回から彼女はもういません。
ちなみに、ここで流れているBGMの曲名は「少年たちとの別れ」です。お分かりいただけたでしょうか…(本エンドの終盤でも流れているのは内緒です


さて、状況説明はこれぐらいにして、本当に言いたかった事を言っていきます。

奇跡も魔法もないこの別エンド、それでも理樹はクドリャフカを引き止めなくてはいけません。
この状況を引き起こしたのも、彼女に逃げる口実を与えたのも自分自身。そんなことは百も承知で。
大好きな彼女に、真正面から正論をぶつけます。


逃げているだけだ、と。
何かを選んで何かを切り捨てたようなふりをして、その結果とは全く向き合っていない、と。
クドは家族も夢も切り捨てたつもりでいるけれど、それらを切り捨てることは、人との繋がりを完全に断つことに等しい。そんな決意ができているのか?と。

クドリャフカからしたら、最大限の保身を、自分の心を何とか押し込める為に必死に考えた嘘を真正面から否定されるわけで、こんなにも辛いことはありません。
でも、その特殊な生い立ち故に友達が出来なかったこと、故郷ですら言葉の壁を越えられず独りだったこと、母親の期待から逃げ、繋がりを絶ってしまったような気持ちでいたことを。
いつも独りだったということを理樹に突き付けられてこんなにも胸が痛むのなら、やはり彼女は逃げきれないのです。


母との繋がりから逃げてきた後悔、それと「こすもなーふとになる」という夢。
合わせて捨てられるのであれば、クドリャフカにとっての後ろめたさなんて何にもなくなります。そして、あらゆる繋がりを絶って、楽になることができます。
でも、その先に彼女の幸せがあるとは思えないし、何より彼女と2人きりで繋がった理樹としては「そんなことをして欲しくない」。
ずっと孤独だった事実を突きつけられて泣きじゃくる彼女にこの選択を耐えられる筈がないし、そんなものを耐えてはいけないと分かっていたんですね。

捨て去れない後悔というものがあり、向き合わなければならない現実というものがあります。「逃げる」ことを認めない理樹の言葉は、一見残酷に聞こえます。
でも、独りで向き合う必要はないのだと。むしろ、同じように苦い後悔を抱えた誰かと支え合って乗り越えていくべきなのだと、彼はそう信じ、気持ちを伝えます。
苦い後悔を忘れてはいけない。それを抱えたまま、それでも誰かに手を差し伸べ、手を繋ぐ。そうして生まれた温もりが、僕たちを救ってくれるんだ、と。
そして、クドリャフカにとっての「後悔の塊」であり、同時に「夢の欠片」でもあるドッグタグと機械部品を手渡し、物語は幕を閉じます。

本エンドのドラマチックな終わり方も好きなのですが、別エンドの何とも言えない読後感もまた好きなんですよね。
考えようによっては何でも出来た筈のこの世界で、それでも極端に現実的な道を歩むことになって。
本当に何の希望もない物語だったけれど、それでも「救い」らしき何かを見出し、歩んでいく姿を見せようとしてくれた所が最高に好きです。

結局クドリャフカは「最期まで母と向き合えなかった」後悔をずっと抱えて生きていかなければならないし、たった今理樹と繋いだ手もいつか解かなくてはならないとわかってはいるけれど。
それでも、この1周は確かに「救い」だったのです。
本編クリア後の追加シナリオ(かつ、時系列としては本編の最中)という立ち位置をうまく生かしていたこと、本エンドを存分に活かしてお互いを引き立て合うような内容だったこと、何よりラストシーンが胸に突き刺さりすぎたこと。
全部ひっくるめて、この別エンドが大好きです。


さて。
この別エンド、よりによってクリア後に解放される、ということがとても重大な意味を持っています。

まず、「クドリャフカは現実に帰ってこられないこと」。
そして、「理樹は最終的に鈴と結ばれること」。
この2点が物語の前提である、ということに、読者は否が応でも気づいてしまいます。

前者は色々あって覆りますが、このシナリオの時点ではまだ覆りようのない事実です。そして後者は、きっとこの先も覆らないでしょう。
このことについて、明日の記事でじっくりと、それはもうじっくりと見ていくつもりです。


5日目、6日目と、どちらかと言えばシナリオの何が好きかという話を書いてきたつもりです。
対して7日目は、ついにキャラクターの何が好きかという話を書くことになりそうです。緊張しますね。

1週間続いてしまった事に驚きつつ、この記事を終わります。
次回、ついに最終回。

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