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「西垣匠」という沼 2〜薔薇とサムライ2〜

西垣匠くんの初舞台。しかも、自分の地元でスタートするという奇跡。観たい、どうしても観たいとギリギリでチケットを探して観劇。約3ヶ月、66公演という初舞台としては高過ぎるハードルに挑んだ西垣匠くんを、ベルナルドを観て感じた、あくまでも個人的な感想です。(観劇回数は少ないので、日々の細かな変化ではなく、できるだけ大局的に捉えるようにしています)


◇富山公演(9/10ソワレ、9/11マチネ富山千穐楽)

推しの初舞台。それだけで観る側の自分がとんでもなく緊張した。正直言うと、不安もあった。直前のお仕事の『みなと商事コインランドリー』では、繊細な表情や仕草で素晴らしい香月慎太郎を創り上げてくれたが、それは、それらを活かしてくれる効果的な撮り方があってこそ。みなしょーでは、それ以前と比べるととんでもない進化を見せてくれたが(前回のnote参照)、映像作品ならではのものだったので、舞台という全く異なる表現を求められる場でどのように対応するのか、未知だったから。

でも、そんな不安は早々に払拭してくれた。細かな演出をするという劇団☆新感線の強みもあり、板の上で魅せるということに、見事にシフトチェンジしていた。富山千穐楽では、ベルナルドの最初の登場シーンでロザリオが前日とは違う仕掛けをしてきてたが、それにもしっかり対応していて、「いいぞ!」と勝手に心の中で盛り上がった。

常に全身を観客の目に晒される舞台では、台詞のない時の手の置所や動作がしっくりこないと観てる方に違和感を与えてしまうことがあるけれど(彼はスタイルいいから余計に目につきやすい)、手の演技もとてもよかった。

そして、何と言ってもベルナルド・アミスタという役。ベルナルドの初々しさがとても良く、お話を通してベルナルドの成長を感じられるのも良い。そして、そこには西垣匠くんが初舞台ということが、間違いなくプラスに働いていたと思う。
あの役を、初舞台である西垣匠くんに与えてくださったことに心から感謝した。

初舞台は始まったばかりで、沢山の伸びしろが感じられた。必ずもっと良くなる。長い公演期間を通して、どんな風にベルナルドが進化していくのかをどうしても観たい。富山公演後に、他会場へも観に行くことを決めた。


◇新潟公演(9/24マチネ)

富山からそれほど日数も経っていないが、その中でも確実に変化を感じられた。富山ではやはり開幕ということもあり、正直なところ、お稽古で積み上げてきたことをしっかりと誠実に演っているという印象もあった。
新潟では、そこから抜け出そうとしているように見えた。特に台詞のない時の表情がより大きく出ていた。例えば、アンヌの歌や台詞を聞いているときの表情がすごく良くて、思わず「あぁ、いいお顔してるねぇ」とリアルに声に出たほど。

新潟で一番感じたことは、ベルナルドという役は、他の若手の役より難しいということ。他の3人のように、わかりやすく背負っているものがない。置かれた立場も異なる。あの中では言わば「普通の若者」。信じたものに真っ直ぐで、大切に思う人のためにただ一生懸命な。ストーリー全体のことを考えると、色を出しすぎてもいけない。難しいところをいいバランスで演っている、更に探ろうとしていると感じた。


◇大阪公演(10/20千穐楽)

大阪千穐楽のベルナルドは、富山とも新潟とも確実に違った。

まずは殺陣。富山・新潟では、手順を間違えないように、しっかり正しくやっていたという印象で、相手の動きやタイミングを待っている様子が見て取れた。大阪ではそれがなくなり、テンポがとても良くなっていた。

2幕のダンスも同じで、振り付けを追いかけていた富山・新潟とは異なり、だいぶ熟れてきていた。

ベルナルドのシーンには、「可愛い」と「格好いい」の両面があるが、富山・新潟では、それぞれのベルナルドが、それぞれのシーンで別々に独立しているような印象もあった。大阪で観たベルナルドは、それが1本に繋がっていた。台詞のないところでのちょっとした表情や動きの付け方で、ベルナルドという人物の輪郭がより明確になっていた。

何より、観るたびに西垣匠くんが楽しそうで、観る側も幸せになれる。
長丁場の東京で、更にどうなっていくのか俄然楽しみになった。


◇ライブビューイング(11/26マチネ・ソワレ)

ベルナルド、というよりも西垣匠くんの進化に驚かされた。表現が難しいが、以前は「西垣匠くんがベルナルドを外側に纏っている」感じだったのが、もっと内側からベルナルドになった感じを受けた。折れ線グラフのように、少しカクカクしていた感情の流れが、曲線になったようにより自然に滑らかに感じられた。感情の表現もきめ細やかになり、喜怒哀楽のそれぞれが単独ではなく、より複雑に絡み合っているように変化した。母に想いをぶつけるシーンでも、以前は怒りの感情が全面に出ていたが、この頃には、怒りだけではない、悔しさや哀しみ、無力さなど様々な感情が絡み合っているのがみえてきた。

基本的に、受けのお芝居が多いベルナルドが、テンションを上げて牽引しないといけないシーンが幾つかある。最初の頃は「えいっ」と、そこで上げてる感じもしたが、そこに至るまでの感情がすごく滑らかに繋がってるのが見ててもわかり、また、わかるように細く仕掛けているので、とてもスムーズにシーンを牽引していた。この変化は、本当に素晴らしかった。

(ベルナルドの殺陣が大阪よりもドンドン良くなってるのは言わずもがな。ダンスも然り。ダンスに至っては、目の前の観客にターゲットを絞って、仕留めに掛かっていて、その位置にいたお客様は幸せだなと思っていた。)


◇東京公演(12/2マチネ)

ライブビューイングでも感じたが、生で聞いてもなおさら、発声が良くなってるのを感じた。感情が乗りすぎると、コントロールが外れてしまうところもややあるが、その分、感情が押せているからしっかり伝わっている。公演期間終盤に来てもまだまだ進化してることが本当にすごい。

決め台詞「ベルナルド・アミスタ!コルドニアの騎士だ!」の声もとても良かった。深いところから出ているような、いつもより太くて重い声で、前は若さや勢いを感じさせるような名乗りだったが、たくましさや覚悟を感じる名乗りになっていてとても素敵だった。

殺陣は動きが完全に自分のものになっており、タイミングや相手の動きに合わせることなく動き出しているので、より臨場感があった。元々、構えや動いたときの形が綺麗なので、そこに速さが加わってより美しい殺陣になっていた。

何より感動したのは、ラスト近く、アンヌが記憶を取り戻し、海賊女王アンヌとしてみんなの前に現れたシーン。ベルナルドは、右腕を胸の前におき、小さくお辞儀をしたのだ。これまでの公演では、この動きはしていなかった。それは、考えて意図的にやったようには見えなくて、頭で考えるより先に体が自然に動いたというように見えた。アンヌ陛下が帰って来たという歓び。そして、彼女への敬愛の念。それが滲み出たようだった。

そのお辞儀をみて、「彼は西垣匠が演じているベルナルドではない。コルドニアの騎士、ベルナルド・アミスタなのだ」そう思った。嬉しくて、感動して涙が出た。いろんな台詞の表現や殺陣、ダンスなど見どころは数え切れないほどあったけれど、私には、あの小さなお辞儀が一番だった。あれを観られただけで、観劇やSNS等でベルナルドと西垣匠くんの変化を追い続けたこの3ヶ月の価値があったと思った。それほどまでに印象的で、衝撃的だった。


全体として感じた大きな変化は、「舞台作品」へのアプローチ

公演期間初期は、シーン毎に「可愛いベルナルド」と「格好いいベルナルド」が存在していたのが、やがて一つに繋がり、とても魅力的なベルナルド・アミスタになっていったが、その過程で感じたのは、舞台としての魅せ方の中に、徐々に西垣匠くんが映像作品で培ってきた細やかな表現を上手くフィットさせていったのではないかということ。最初の頃は、舞台の演り方を学び、それを一生懸命実践していたが、ベルナルドを重ねるうちにその舞台の演り方で演じながらも、その中に彼の繊細な感情表現の機微も上手く取り込めるようになってきたのではないだろうか。

また、公演期間前半では、ベルナルド自身をより良くする、ベルナルド自身を確立するための変化だったのが、後半へいくにつれて、『薔薇とサムライ2』という作品の中での、作品をより良くするためのピースとしてのベルナルドの変化という風に変遷していったようにも感じた。この変化によって、初期に感じていたベルナルドという役の難しさを克服し、作品の中での彼の意味合いが明確になっていったような気がする。
(個人的には、ガラスの仮面/月影千草先生の名言「役者は石垣の石のひとつ」を思い出した。懐かしい!)


富山から東京までの長い公演を通してのベルナルドの、西垣匠くんの変化と進化はとても大きく、元来、彼の進化の過程に魅了されて沼に堕ちた私は、益々深い沼にはまることになった。

初舞台、劇団☆新感線、66公演。とんでもなく大きなハードルで、いろいろなことを考えてしまうこともあったはずだけれど、それでも楽しそうに舞台上で生きてくれて、その上、とんでもない成長と進化を見せ続けてくれた強さ。尊敬と愛おしさと、いろんな感情がないまぜになって抱えきれないほどに、西垣匠 くんを推せる幸せを改めて噛み締めた。

そして、最初の『西垣匠という沼』を書いた頃の自分に言ってやりたい。「これから、どこまで進化して行くのか、その過程を追いかけ続けるのが本当に楽しみです」とか、言ってる場合じゃない!とんでもないよ、西垣匠という役者は!!と。