「FRONT LINE」を聴いて

この度はM.S.S Project 2nd mini Album『FRONT LINE』発売おめでとうございます。

今回は珍しくライブ前のCD発売(本来はその形式のアーティストさんが多いことを、これまた彼らの口から知りました。)ということで。
公演中に新曲お披露目という手法のほうがむしろ馴染みのある私にとって、先に楽曲を聴くことができるというのは不思議な感覚でした。

今回もせっかくなので一通り聴いてみての感想を残しておこうと思います。
例に漏れず私の感性のみでのお話ですので、ご承知置きくださいませ。

1. FRONT LINE

まず第一に、この楽曲をライブで聴くことが出来るのだという実感に胸が詰まってしまいました。先に聴けるというのは嬉しくもあり、この後を考えると怖くもありますね。勿論とても楽しみという意味で!

疾走感があるイントロを聴きジャケットからの連想ではありますが、このフロントラインは夜景の中を走り抜けるようなネオンにも似た強い光で出来た線なのだというイメージを抱きました。
繊細に響く高音が印象的であり、歌声から滲む感情の機微に聴き手の心も揺さぶられます。

また、歌詞においては「Utopia」「Celestial」という最前線へ向かう曲ではありますが、始まりの歌詞はとても冷静であり現実的でもあります。
それでも走り抜くこの楽曲の中に登場する少年は、もしかしたらM.S.S.Planetの「俺」なのかもしれないと考えました。

絶望から逃げるために目指した理想郷

M.S.S.Planet/M.S.S.Planet

この理想郷こそが今歌う最前線ではないのかな、と。

表題曲において何度か「僕」と「君」の関係について触れてはいますが今回は「少年」と違った語り口で綴られており(キーワード自体はM.S.S Phoenixにも登場しておりますが……)、15周年を迎えて今一「十四の時」の姿を歌い直している可能性もゼロではないのではないでしょうか。

2.嘆きの華

パン工場の秘密に通じるような重たく響くメロディーが印象的な楽曲であり、作曲はM.S.S Project表記ではありますが、きっくんさんが先導で制作されたのだろうか、と考えてしまいます。(もしくはあろまさん、えおえおさんのハモりパートを含めての表記でしょうか?)

また、今回は少し珍しく表題曲やFBさんのソロ楽曲において「宇宙」を歌う詞がない中で、「宇宙(ソラ)の彼方へ」というソロパートがあります。
以前のお便り生放送にて歌詞割は音程を加味しつつ作曲者が提案しているというお話をされていましたが、これもそうだったらなんだか嬉しいなあ、という個人的な感想を抱きました。

この無慈悲でひどく鮮やかな世界で
ただキミの名を叫んだ

嘆きの華/FRONT LINE

ここの本当に叫んでいるようなきっくんさんの高音に胸が締め付けられますし、曲全体を通して儚く消えてしまいそうな中で藻掻いているような必死さも感じられる歌声が大好きです。お二人の声が重なって糸を紡ぐように緻密で流麗なユニゾンを奏でられており、感情が飲み込まれてしまいそうなほど聴き手を歌の世界観に引き込んでくれると感じました。

3.Shooting Star Ship

始まりの一音目を耳に入れた刹那、左から右へと流れる光に脳髄ごと焼かれてしまった。煌めきの中に飛び込んで、まるで今から宇宙を旅する大冒険が始まるかのような心踊るイントロにあっという間に魅了されていきます。

走るプラズマの如く華やかな音色は先ほどの「嘆きの華」とは対象的ではありますが、細やかな音運びからはきっくんさんの音楽性を余すこと無く感じられます。
シンプルに考えるのなら、きっとこれがツアーのOP曲にあたるのでしょう。難解なリズムにペンライトを振るのは下手になってしまうだろうけれど、こんなに明るく美しい星々の瞬きから始まるライブに想いを馳せると、初日が待ち遠しくて仕方がないです。

2:28~ ここからのポップでどことなく無敵感の感じられるような、底抜けに明るいシンセサイザーの音が好きです。
2:56~ 火花が散るような、流星のきらめきの余韻にも感じられるピアノの旋律からの、まだ終わらないと言いたげにもう一段階の盛り上がりを見せてくれるところに撃ち抜かれてしまった。

4.ドッペルゲンガー

宇宙へ飛び出したり、ここではないずっと高くを見上げていることの多いFBさんのソロ歌唱曲の中、今回は足元に在る影に目を向けた一曲。
FBさんらしいチップチューンテイストの旋律を感じられながらも、これまでとは異なった世界観から描かれる「僕と君(ボクとキミ)」の物語はどこかあたたかさのようなものを感じました。

無機質でありながらも穏やかであり、眠れない夜に飲む砂糖を溶かし混ぜたホットミルクのように、甘やかに伸びる歌声には切なげな感情を孕んでいるようにも思えます。心のやわらかいところをそっとくすぐられるような、子守唄のような声色がとても好きです。

また、ドッペルゲンガーというモチーフは対立や優劣を決める対象として描かれることが多い印象でしたが、下記に引用する歌詞の通り共存を選ぶというのはFBさんの感性が滲みでているなあ、と。自分なのだからほっとけない、というやさしい自己愛がきれいだと思いました。

じゃあ 僕は死ぬ? それはいやだ
どうすればいいの?

一緒に歩こう キミはボクだし
ボクはキミを 消せないハズさ

ドッペルゲンガー/FRONT LINE

じゃあ キミが死ぬ とボクもまた
消えてしまうんだ

一緒に歩こう 僕は君だし
君も僕と 生きたいハズさ

ドッペルゲンガー/FRONT LINE

そして、クロスフェード部分で聴いていた歌詞が物語の結末だと誰が予想できたでしょうか。

10年後 僕はふと気が付いたんだ
君の声いつの間にか聞えない

ドッペルゲンガー/FRONT LINE

「僕」と「ボク」はそれぞれ明確に使い分けられているため、消えてしまった声についても予測は出来ますが、果たして。

5.V

クロスフェードがアップされるよりも前、概要欄のみを拝見して「ブイ」なのか「ファイブ」なのかと考えていたら「ボルト」とは。

余計な音のない、洗練されて透き通るようなメロディーが耳元に残ります。
ボルト、という単語から雷の激しいイメージも思い浮かべましたが尖った印象よりはむしろ、しっとりとした静謐さのようなものを楽曲に感じました。
弾ける落雷ではなく、回路を規則正しく進んでいく電流のような印象です。

パルス信号を送るように左耳で鳴る装飾音が鼓動とリンクして、とても心地が良い。軽やかではありつつも胸を打つ音でずっと聴いていたいと思える一曲でした。

6.World Eater

直訳すると世界を喰らう者。サンドボックスゲームを歌うにこれ以上の適任者はいないと思わせてくれる初音ミクさんのボーカル曲。FBさんやきっくんさんが扱うミクさんは癖が無くポップで可愛らしい、パッケージそのままの電子の歌姫のような調教に感じられるところが好きです。

バグのように雪崩れ込んでくるピアノの旋律が崩壊の色を装いますが、それに抗うかのように「誰もわたしを止められない」と歌うミクさんの強い歌声に、彼女も一緒に最前線を走るMSSPの中の一つなのだと再認識しました。

あの日の約束噛み締めすぎて
泡沫に解け還ってった

World Eater/FRONT LINE

口語調の跳ねるようなリズムがミクさんの歌声と調和し聴いていて耳が楽しい。歌詞やメロディーのキャッチーな質感が、Team MSSPで制作した楽曲だからこそを感じられてすごく素敵だなあと思います。

出会えた奇跡の旅で
かけがえのない望みも愛も余さずに
Swallow it all

World Eater/FRONT LINE

出会えた奇跡。マイクラ実況の新テーマとして発表された楽曲ではありますが、4人の活動の軌跡そのものにも触れているのかな?という印象も受けました。表題曲と同じように、これからも走り抜けていこう!という感情が伝わってくるなあ、と。

7.無駄トーク11

最早お決まりの「あぁ~」から始まる無駄トーク。先陣を切ってくださるきっくんさんからタケルさんの登場。そして傀儡と化す「アニバーサリーキング」のえおえおさん。
そして「M.S.S.P Project」で思わず吹き出してしまいました。ご自身のユニット名を間違えてしまうゆるさが大好きです。

15年。当たり前のようにも感じてしまいますが、きっくんさんが仰るようにこれだけ長く続くものは世の中にそう多くはありません。
音楽性の不一致から始まるユニットなんて前代未聞ですが、だからこそ続いたのだなあということをしみじみ考えてしまいました。

なんだか音楽ライブが終わってしまった後の余韻に似たものを感じてしまいますが、むしろこれから周年に向けて加速していくであろうことに驚きつつ楽しみな気持ちでいっぱいです。
ひとまずは取り急ぎの感想として。