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やること全無視旅行記240520

懺悔

<やること全無視旅行>をしたかった。
結果、できなかった。

遠出はできた。新幹線と電車を使って福島県の郡山に行ってみた。時間にしてみれば、仙台から郡山までたった2時間ほどなのだけれど、漠然とした一人旅の経験がほとんどなかった自分にとっては一世一代とも言えなくもない遠出なのだった。

近況

吾輩のことを少し話す。卑屈で雑然とした頭の持ち主で、他者の100倍反復練習しないとものを覚えられないバカなのに理想だけはどこまでも高いから、実力との乖離を考えるたびに喉がつかえ、チャンスを目の前にするとそれはそれでプレッシャーに押し潰されて身体がだめになってしまう。身体中にセロハンテープを巻いてmacを立ち上げてお得意の過集中でタスクをキルしていく。これが日常だ。

計画

「せや、全部終わらせて明日どっか行こ」と決めたのはつい先日、日曜の深夜。次の月曜と火曜に締切の提出物はあらかた終わっている。この時点で、行き先はまだ決めていない。郡山に行こうかなと決めたのは次の日、月曜の朝10時くらいだった。ルートはこうだ。家からバスで仙台駅へ向かう。そこから新幹線に乗って福島駅までショートカット。後にそのまま在来線で郡山駅まで行く。以前、道中で失敗したものの福島駅には行ったことがあるからなんとかなると思った。特に観光地とか行かなくていい。いつも決めてばかりなので、何も決めたくないと思った。

決行

月曜の朝、張り切って仙台駅構内にあるパン屋でデカいサンドイッチを買って、仙台駅発の新幹線にちゃんと乗って、福島駅に着いたらちゃんと切符を2枚改札に通して、ちゃんと切符を2枚とも取り出して、在来線のホームにちゃんと降り立つ。やっぱり福島駅の東口通路は10年前くらいの仙台駅東西自由通路に似ている。そんなことをぼんやり考えていた。

ふと見上げた先にぶら下がる電光掲示板の案内には<次の電車は14:39>と表示されている。今は13:35だからちょうどいいな。ただ、10分経っても電車は来ない。アナウンスもない。当たり前である、なぜなら現在時刻13:45なのだから。次に来る電車は約1時間後。

「吾輩は福島に、ブルアカをしにきたのか?」とすら思った。『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』はいわゆるスマホで遊べるゲームで、透き通るような世界観で送る学園RPG。世間知らずは恐ろしい。普段だいたいなんでも知っているような顔をしているのに、福島から郡山行きの電車が1時間に1本くらいしか無いことを31年間で、つい昨日知った。知ったの。ホームの待合室で美少女と透き通るような世界でドンパチするのも悪くないが、今回は「せっかくだから」と中学生以来なかなか読み返すことのなかった『人間失格』を読み始めた。14:39ぴったりに来た電車の中で、読み終えた。

道中

本を大体読み終える頃にはたしか二本松のあたりまで来ていて、窓の外は緑と田園まみれで、あとは山がやたらデカい。雄大だとかおおらかな大自然~とかじゃなく、一種の畏れみたいなものを感じるデカさだった。

伝わりにくい写真


その畏れから目を背けるようにイヤホンをした。The pillowsとか、パスピエとか、学生の頃に聴いていたアーティストのアルバムをひたすら流すことで山の畏れを遮断して「早く着け、早く着け」と願っていた。小学生の頃、教師が図工の時間中「絵の具セットの中にあるビリジアン(扱いの難しい緑色)だけは絵に使ってはダメだ」としきりに言っていたのを思い出した。ビリジアンはだめだ、ビリジアンはだめだ……。窓の外には美しいビリジアンの景色が広がっている。なんでビリジアンはダメだったんだろう。

旅路

やっとの思いで到着した郡山駅は要塞みたいだった。時間も時間だったので、特別温泉とか観光地には行かず、郡山のラウンドワンでACゲームのスコア詰めと洒落込もうと思っていたのだけど(クソ・音ゲーマーの宿命)、しばらく駅を脱出するのは不可能だった。駅前のバス乗り場やロータリーのレイアウトがよく分からなかったためだ。Googleマップは「とにかく右へ行け」って言ってる。多分それを純粋に信じていたらバスに轢かれて死んでいた。時には叡知を裏切って遠回りをすることも必要。15分くらいロスしたと思う。

ちなみに郡山駅から徒歩15分ほどの距離にある郡山ラウンドワンでは早々にゲームが処理落ちして「メンテナンス頑張ってね乙」といった具合で予想より10倍早く切り上げることとなった。夕方になっても福島県はすごく暑い。まだ5月だっていうのに。スコアはあんまり上がらない。

郡山駅前の道

旅路2

友達というべきか、先輩というべきか、変人というか自由人というのか、なんなのか。その自由人は郡山から数駅離れた場所に住んでいる。

「電車というものはよく分からんやれやれ、早く殺して欲しい」みたいなメッセージを自由人に送ったら「二本松に激渋ドライブインがある。そこで一緒に夕飯を食おう」と誘ってくれた。本宮から車に乗せてもらうと、道中で「あそこはウチ、あそこがこの前登った山」「ここの店のカツ丼は超人気でいつも並んでる」と楽しそうに教えてくれる。おそらく誰もが地元の話題になると饒舌になる、それが負の感情であったとしても。「このへんは空前のカツ丼ブームなんですね」と助手席から適当に相槌を打つと、「うん。30年間、ずっとブームだね」とハンドルを握る自由人は笑ってみせた。

件の二本松にある小汚いドライブインは素晴らしかった。恐ろしく古い建物で、出てくる定食のごはんも恐ろしくデカい。「今日は踏んだり蹴ったりのようで、かわいそうなので」とニラレバ定食をご馳走になった。ありがとう自由人。ドライブインの中には殺人級に熱いサウナと古びたゲームコーナーが同居していて、なんとも不思議なつくりになっている。寂れたゲームコーナーに置かれたUFOキャッチャーの中で、『Re:ゼロ』のレムのフィギュアが可愛く微笑んでいたし、ドライブインの看板はギリギリなんとか輝いている感じがして、愛おしかった。

総括

これが今回の旅のアウトライン。長い人生をめちゃくちゃ引き伸ばしたうちのちょっとした一節。小旅行はできたけど、やること全無視旅行はできなかった。

いい加減な頭をしていてプレッシャーに弱いくせに、謎にクソ真面目な責任感だけはあって、少し遠方にきても横目でiphoneの通知を確認する。ふとした瞬間にここ最近やってしまった失敗を回顧する。全部放棄できない。ゆえに、「とりあえず」の責務を果たさないと火をつけられないし、今も目の前にデカい山みたいな書類がある。やること全無視旅行はすごく難しい。

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