無題3

無形資産が支配する経済"Capitalism Without Capital"紹介パート2

パート2:無形資産経済の隆盛がもたらすもの(The Consequences of the Rise of the Intangible Economy)
5. 無形資産、投資、生産性、長期停滞(Intangibles, Investment, Productivity, and Secular Stagnation)
6. 無形資産と進行する不平等(Intangibles and the Rise of Inequality)
7. 無形資産のためのインフラ、そして無形のインフラ(Infrastructure for Intangibles, and Intangible Infrastructure)
8. 無形資産経済をファイナンスする試練(The Challenge of Financing an Intangible Economy)
9. 無形資産経済における競争、マネジメント、投資(Competing, Managing, and Investing in the Intangible Economy)
10. 無形資産経済における公共政策:5つの難問(Public Policy in an Intangible Economy: Five Hard Questions)
11. サマリー、結論、そしてその先(Summary, Conclusion and the Way Ahead)

続きでパート2部分のメモ。
パート2は「無形資産が増えたことは分かったけど、それが経済や社会をどう変えるの?」というお話です。
最初に断っておくと、こちらのパートは定性的な説明や「~かも知れない」という話が多く、それは原書の中でも注意書きがされています。

長期停滞の原因?

・2000年代終盤の金融危機以後、世界各国で経済の長期停滞が指摘されるようになっている。
ここで言われる長期停滞とは、
低金利→だけれど投資低迷→しかし、トップ企業群では利益&資本リターンは好調→でも経済全体では全要素生産性は低成長
という、整合的な説明の難しい状況のことだ。

・金融危機前後から無形資産投資の成長が鈍化していることが、この長期停滞の一因かも知れない。

・なぜ鈍化しているか?それは無形資産の4つのSにあるスピルオーバーが2つの方向から影響している。

・1つ目は、既に述べたように会社はスピルオーバーのリスクがある無形資産投資には及び腰になりがちということだ。仮に(GAFAのような)超巨大企業は巨額の投資を続けても、他の大多数の会社は(最初から諦めて?)投資を控えるようになる。その結果、合計してみると投資が減ってしまうのだ。

・2つ目は、むしろスピルオーバーが減っていることだ。その要因として、(やっぱりGAFAのような)超巨大企業が政府にロビーイングを行うようになった状況が挙げられる。

不平等の原因?

・無形資産経済において、当然ながら求められる人材像も変わってきている。

・例えば4つのSのうち、シナジーを深め、逆にスピルオーバーを防ぐ人材は企業から強く求められるようになっている。

・逆に、(無形資産に関与しない)単純タスクはアウトソースされるなど、不平等を招くような動きが起きている。

・不平等への指摘と言えばトマ・ピケティだが、彼の著作における資産の不平等についてのコメントとして、その不平等の主要因は(株式などではなく)都市の土地価格の上昇なのではないかとの指摘が見受けられる。

・無形資産はこの都市における土地価格の上昇に対しても大きな関連性がある。なぜなら、無形資産のシナジーを深めるには、人間同士の交流が欠かせないからだ。(Skypeなど)ツールの発達はあるにせよ、現代でも依然として対面コミュニケーションが最も効果的な交流方法であることは言うまでもない。すると、対面コミュニケーションを容易にし、シナジーを深め、無形資産を活用するためには都市への集住が更に求められるようになるのだ。
その結果、都市における土地価格が上昇している。

・もう1つ不平等に関して。
有形資産は国家によって捕捉されやすく、つまり課税もされやすい。一方で無形資産、特にアイデアは捕捉されにくい。このために「税逃れ」が発生しやすいと言えるだろう。

無形資産時代に必要なインフラとは?

・上記のように無形資産時代には一旦都市への集住が必要になってくる。よって、特に産業クラスタを意識した都市開発が政府には求められるだろう。

・また、スピルオーバーを適正化するための社会ルール、社会全体の「信頼性」や「開放性」も重要になるだろう。

無形資産時代のファイナンス?

・すでに述べたように、無形資産は「売りにくい」ために負債による資金調達に活用しづらい。そのため、無形資産をコアにする会社の資金調達は、必然的にエクイティ調達がメインとなる。
しかし、エクイティ調達は金利を損金にできる負債調達と比べると税制上不利になっている。必要性が増加するエクイティ調達についても税制上の優遇措置があってしかるべきだろう。

・そのような優遇措置が広まれば、将来的に中小企業向けにエクイティファイナンスを行う組織が増えていくと考えられる。

・また、投資家について考えれば、ベンチャーキャピタルが無形資産をコアにする会社には相性が良いだろう。
毎年の業績が大きく変動するPEなど他の種類のファンドに比べて、VCは「強者が長く強者である」傾向がある。これは、投資先に対して関連業界での人脈を提供するなど、無形資産のシナジーに貢献できるファンドは長期的に優位性を持っているからではないか。言わば日本企業のケイレツのような、Informal Networkである。

・もう1つ、良く指摘されることに、投資家のショートターミズムに影響されてR&Dなど無形資産投資が増減しやすいことがある。
確かに、たとえばストックオプションの満期直前にはR&Dはカットされがち、という研究は見受けられる。
一方で、主要株主に持分割合が集中していたり、機関投資家が大きな割合を保有しているような会社については、投資家側も会社の投資について「勉強する」ために、安定して投資が行われるとの研究もある。

無形資産時代のマネジメントとは?

・前述のように、有形資産は基本的に標準化されたものを購入するために、企業間で差別化が難しい。一方で、無形資産は差別化の源泉となる。その中でも一番価値がある無形資産は「会社組織」そのものだろう。
では、価値ある「会社組織」をマネジメントする方法はどういうものか?

・会社だけでなく社内組織においてもマネジメント手法は異なってくる。
例えば、アマゾンの倉庫やスターバックス店舗など、各社の無形資産を「使う」部門においては、その使い方を最適化する手順を厳格に行わせるような、細かいマネジメントが良いだろう。
一方で、無形資産を「生み出す」部門においては、シナジーを促すためにも自律的でオープンなマネジメントが求められる。

無形資産時代の会計とは?

※ここでは主に『会計の再生』に言及して、その内容が繰り返されています。

・IFRSとUSGAAPの両方でレポートしているイスラエル企業180社について調査したところ、R&Dのうち開発費の一部を資産計上できるIFRSの方が株価を良く説明できたという研究がある。
Chen, Ester, Ilanit Gavious, and Baruch Lev. 2015. “The Positive Externalities of IFRS R& D Rule: Enhanced Voluntary Disclosure.”)

無形資産時代の政府の役割は?

・前述の通り、スピルオーバーのために企業は無形資産投資を手控える傾向がある。一方で、無形資産が経済を左右する時代において、政府は投資を促進するべきである。

・その結果、政府が研究開発により介入すべきである、との結論が導かれる。これは目新しいことではなく、世界各国で基礎研究については政府補助が行われてきた。
しかし、この結論は最近数十年間の規制緩和・自由化の流れからの変化を意味するだろう。

・更に、単純な研究補助だけではなく、例えば自動運転については自動車製造・道路設計・保険制度などといった様々な関連で同時に研究を促進させる対応が必要になってくる。

・また、無形資産投資を促進するためには、特許や商標のように法的に保護する無形資産の範囲をより(広範な)デザインなどにも広げ、また従業員訓練のインセンティブを企業に与えるために退職後の競業避止義務を使いやすい形にすることが考えられる。

・更には、直接的な立法だけではなく(インフラ関連でも述べたように)市場や慣行といった社会ルールのレベルでの安定性が求められる。

・ファイナンス関連で述べたように、主要株主に持分割合が集中している会社は安定して投資が行われやすい。このために、大株主への規制を緩和することが有効かもしれない。
また、ショートターミズムへの対抗としてLong Term Stock Exchangeは注目すべき試みだろう。

・ただし、以上のような改善策は提案できるが、一方で国家の産業政策が歴史的に失敗続きであったこと、超巨大企業の独占の問題、更には民主主義との整合性について検討が必要。

・そして何よりも、無形資産時代の不平等への対応は最大の課題となるだろう。

本書をまとめてみた感想

パート2はカバーする範囲が幅広く刺激的な反面、やはり「ちょっと言いすぎじゃないの?」という話も多い印象でした。

とはいえ、特にパート1で説明される無形資産の増大と、その特徴である
「4つのS」は直観的にも納得できるし、フレームワークとして優れている
と感じました。
そんなフレームワークを使ってちょっと考えてみたのが以下:

無形資産時代の働き方

・企業の業績を左右するのは無形資産
・無形資産時代は寡占・独占が発生しやすく格差が大きくなる
・無形資産は保有する組織と切り離せないケースが多い
ということから考えれば、個人がこの時代に対応するためには
無形資産を豊富に持つ会社に所属する(フリーランスならお客さんにする)
ことが重要になる。とはいえ、
無形資産は会計に表れにくいため、今ある大企業や業績好調なベンチャー企業が必ずしも豊富に持っているとは限らない

誰でも無形資産は作れる

本書でも指摘されるように、無形資産は必ずしもITやR&Dに関わるわけではない。ということは、どんな職種であっても無形資産を作ることができるのでは。
例えばバックオフィス部門でも、より良い管理会計プログラムを作ったり、営業や開発のベストプラクティスを共有しやすい仕組みを整えたり、社内人材の交流を促してシナジーを生み出したり、などなど。
実際に「優秀な会社」の事例を調べたりヒアリングすると、バックオフィス部門からの仕掛けが上手くフロント部門と噛み合って組織内の継続的な改善に結びついていることを発見することも多いと思います。
また自分の仕事を「無形資産を作れているか?」という目線で捉えなおしても良いかも知れません。

とにかく今後の経済、社会、個人の生き方を考えるにあたって参考になる本書"Capitalism Without Capital"。
どこでも良いから出版社さん、そろそろ翻訳出してくれませんか!?

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