無題

無形資産が支配する経済"Capitalism Without Capital"紹介パート1

ようやくちゃんと読み終えたので
"Capitalism Without Capital: The Rise of the Intangible Economy"
の内容を紹介してまいります。

目次はこちら

1. イントロダクション(Introduction)

パート1:無形資産経済の隆盛(The Rise of the Intangible Economy)
2. 資本の消滅(Capital's Vanishing Act)
3. 無形資産の測定方法(How to Measure Intangible Investment)
4. 無形資産投資は何が違う?4つのS(What's Different about Intangible Investment? The Four S's of Intangibles)

パート2:無形資産経済の隆盛がもたらすもの(The Consequences of the Rise of the Intangible Economy)
5. 無形資産、投資、生産性、長期停滞(Intangibles, Investment, Productivity, and Secular Stagnation)
6. 無形資産と進行する不平等(Intangibles and the Rise of Inequality)
7. 無形資産のためのインフラ、そして無形のインフラ(Infrastructure for Intangibles, and Intangible Infrastructure)
8. 無形資産経済をファイナンスする試練(The Challenge of Financing an Intangible Economy)
9. 無形資産経済における競争、マネジメント、投資(Competing, Managing, and Investing in the Intangible Economy)
10. 無形資産経済における公共政策:5つの難問(Public Policy in an Intangible Economy: Five Hard Questions)
11. サマリー、結論、そしてその先(Summary, Conclusion and the Way Ahead)

今回はパート1部分のメモ。

無形資産の隆盛

・何世紀もの間、価値を測るにはモノを数えていれば良かった。その結果が企業のバランスシートや国家統計に反映されてきた。投資とは、それらモノへの投資を意味していた。

・しかし、今や目に見えない資産が大きな価値を持つようになっている。それはIT産業に限らない。例えば空港。巨大なターミナルビルはモノであるが、空港を成り立たせるためにはソフトウェア、航空会社との契約、複雑なオペレーションのためのノウハウが欠かせない。これらは目に見えないが、ターミナルビルと同じように長期に渡って価値をもたらす無形の資産である。

・2006年時点のマイクロソフトの時価総額は2500億ドルだったが、BSに載っていたキャッシュは600億ドル、建物は30億ドルに過ぎなかった。この差額を埋めていたのは同社のR&D、デザイン、ブランド、サプライチェーン、組織開発、人的資源である。これら無形資産によって企業の基盤が強化され、同社の競争力を高めていた。
(注:何で2006年なんて昔の話かといえば、この箇所で紹介されている研究を引いているから)

・これまで会計も国家統計も有形資産をベースに投資や資産ストックを考えてきた。近年、R&Dを資産計上したりGDP測定でソフトウェアを投資対象としてカウントするようになったが、まだ全ての無形資産投資を網羅してはいない。

・例えば、マーケティング活動、組織開発、教育訓練はいずれも会計や国家統計で資産投資に含まれない。
しかし、トヨタのカイゼンを達成する組織文化や、アップルのグローバルな部品調達を実現するサプライチェーン、Uberのドライバーと客を繋ぐネットワークのような無形資産は長期的に大きな価値を作り出すし、そのために多額の投資が行われている。

・またテレビ局についても考えてみよう。テレビ局が制作するコンテンツのうち、日々のニュース番組は翌日には価値が無くなってしまう。しかし、長期に渡って放映されるドラマシリーズならどうだろうか?

・生活に身近なスーパーマーケットも例外ではない。最近40年間で、レジの電子化が進み、サプライチェーン管理やプライシングシステムは高度化され、プライベートブランド増加のためにマーケティング投資が増加し、従業員向けの教育プログラムも充実した。これらは全て無形資産だ。

・以上の状況は、無形資産投資が有形資産投資を上回る状況にあって、会計も国家統計も経済の実態を十分に反映できていないことを意味する。

無形資産の特徴:4つのS

・とはいえ、測定の可否に問題が留まれば大した影響はないかも知れない。しかし、無形資産の増加はより深い影響を経済社会に及ぼすのだ。
なぜなら有形資産と異なり、無形資産には以下の「4つのS」を性質として持つ。そしてこの性質のために、無形資産時代の経済は、有形資産時代の経済とは大きく異なった姿となる。

・4つのS(1)スケーラビリティ
有形資産と違って無形資産は「使ってもなくならない」。つまりいくらでもビジネスの成長に合わせてスケールすることができる。
例えばスターバックスはブランドや従業員マニュアルをコアに急成長を遂げた。コカ・コーラは世界中で製造販売されているが、アトランタのコカ・コーラ社はブランド、ライセンス契約、レシピなど一部のプロセスにしか関与しない。実際の製造販売は各国のボトリングカンパニーが行っている。
更にFacebookを見るとわかるように、スケーラビリティはネットワーク効果と合わさりやすい。その結果、無形資産時代の経済では独占・寡占状態が発生しやすくなる。

・4つのS(2)サンクンネス(Sunkenness)
有形資産と違って無形資産は「市場で売りにくい」。特許や一部のブランドは例外だが、従業員マニュアルやノウハウなどは売ることができない。これは、無形資産はその持ち主である企業に紐づいて形成されやすいからだ。例えば、トヨタ式生産システムをトヨタの工場自体から切り離して売ることはできないだろう。
このため、無形資産を作るためのコストはサンクコストの性質を持ちやすい。
また、この「評価しづらく、売りづらい」特徴によって、無形資産をコアにする企業は負債による資金調達が難しくなってしまう。

・4つのS(3)スピルオーバー
有形資産を持ち主以外が使うことは考えづらいが、無形資産(アイデア)はすぐに模倣されてしまう。
例えば、iPhoneの誕生以後、他メーカーの作るスマホも「iPhoneっぽく」なった。つまりアップルによるデザインやその他R&Dの成果は他メーカーによって利用されているのだ。
更には、コンサル業界も参考になる。50~60年代において、マッキンゼーは顧客の業界に詳しいベテラン人材によるコンサルではなく、若くて優秀なビジネススクール卒業生を大量雇用して、標準的な手法で顧客の問題解決を図るコンサル手法を確立した。その後、あらゆるコンサル会社はこの手法を真似ることとなった。

確かに、特許によって一部の知的財産は守られている。しかし実際には模倣・侵害が発生しても裁判が終了するまでには長い時間がかかってしまう。ライト兄弟は飛行機を発明した後、人生の大半を特許紛争に費やすこととなった。
このように「投資のリターンを全て享受できない」ことから、一般的に企業は無形資産投資に及び腰になることが考えられる。
逆に、スピルオーバーをうまく管理できる(なるべく模倣されにくくする or 他社から上手くスピルオーバーを享受する)会社は大きなメリットを受ける。

・4つのS(4)シナジー
無形資産は組み合わせることで更に価値を増すことがある。
MP3プロトコル+小型ハードディスク+楽曲ライセンス+デザイン、この4つが合わさったときにアップルはiPodを作り出すことが出来た。

米国における生産性は80年代の停滞の後、90年代に再び成長した。その要因の1つとしてウォルマートにおけるIT投資&組織改革&サプライチェーン効率化を挙げる研究がある。つまり、ソフトウェアと組織開発という無形資産の組み合わせが大きな価値を生んだということだ。
なお、米国企業は欧州企業に比べて90年代以後のIT化の進展によるメリットをより多く享受したと言われる。これは多くの米国企業がソフトウェア導入に合わせて組織改革を行い、シナジーを手にしたからかも知れない。
(注:ということは日本企業のIT投資の成果がイマイチに感じられるのも、やっぱり組織改革を徹底していないから・・・なんでしょうか)

なぜ無形資産投資が増え続けるのか?

・データによれば、米国においては90年代、ヨーロッパを含めても2000年代からは無形資産投資が有形資産投資を上回っている。

・ただし各国で揃って無形資産投資が増えている訳ではない。スウェーデン、米国、イギリスは無形>有形となっているが、スペイン、イタリア、ドイツなどは依然として有形資産投資の方が大きいようだ。これは直観とも整合するデータだろう。

・いずれにせよ、なぜ無形資産投資は増え続けてきたのか?

・すぐに頭に浮かぶのは、90年代以後のITやインターネットの発達であり、確かに90年代以後に投資は更に増加している。事例について考えてみても、例えばUberのサービスは無線配車によっても実現できたはずだが、やはりPCやスマホの登場によってようやく定着したと言えるだろう。

・しかし、米国のデータを見ればわかるように無形資産投資はITが発達するはるか以前、50年代から一貫して成長し続けてきたのだ。
例えばベル研究所などによる社内R&Dという概念の誕生、トヨタ式生産システムの発達などがその一因と考えられる。

・特に先進国の経済が50年代から現代にかけて、製造業主体からサービス業主体に転換してきたことも指摘される。
しかし、直観に反して製造業の方が一貫して無形資産を多く活用してきたとのデータもある。つまり、むしろサービス業に関連して無形資産投資が増えたことが、無形資産投資の全体的な増加の主要因とも考えられる。

・更に、政治の役割も見逃せない。下記データからは、雇用規制が緩やかな国であるほど無形資産投資が大きいことが伺える。最近数十年に渡る規制緩和によって無形資産投資が促されたのかも知れない。

・また、既に触れたように無形資産はスケーラビリティがある。グローバル化により世界中にビジネスが拡大しやすくなった結果、無形資産がより活用されやすくなった側面はあるだろう。


(パート2に続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?