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忍殺TRPGソロリプレイ【ニンジャのアルバイト 後編】

ドーモ。今回は2019年8月にTwitter上にてプレイしたソロシナリオのリプレイ小説を投稿させていただきます。プレイしたのは三笠屋=サンの【ニンジャのアルバイト】です。

前編はこちらです。

ヘッダー画像の使用元はこちら(https://www.photo-ac.com/profile/43626)です。

5.

「うわぁ! 本当にライオンだ!」

 少年ヤクザのロッコは、麻酔で動けないメキシコライオンを目の当たりにして歓声を挙げた。「ちょっと。それじゃあ、本当にいるか怪しかったってこと?」ライオンを仕留めた女ニンジャ、ライトニングウォーカーは口を尖らせる。

「ああいえ、そういうわけじゃないです。本当にライオンをやっつけちゃうなんてって」ロッコは慌てて否定する。モータルがニンジャを怒らせればどうなるかわからないものだ。そんな感覚を知ってか知らずか、ライトニングウォーカーはニヤニヤと笑い、言った。「それはそれで、わたしの実力を疑ってたってことになるんじゃあない?」「ああ、そういうわけじゃなく……!」

 ロッコが弁明する間に、もうひとりの少年ヤクザ、ブルーノがトラックを移動させてきた。「お待たせ。あとは荷台に積んじまえば完了っすね」トラックを降りたブルーノはそう言うと、相棒に目配せをする。「よし、やっちまおうぜ」

 かくして、巨大な体格のライオンを荷台に持ち上げるべく、2人の少年の悪戦苦闘が始まった。「もっと力入れろよ!」「そっちこそちゃんと持ってよ!」そんな様子を眺めながら、ライトニングウォーカーは笑みを漏らす。「わたしがやった方が早いんじゃなくて?」彼女のニンジャ膂力であれば、すぐに済むだろう。

 だが少年達は、同時に首を振ってそれを固辞。「これくらい僕たちが!」「姐さんは見ててください!」そして、同時に気合のシャウトを叫ぶ!

「「ナンオラーッ!」」

 おお、見よ! メキシコライオンの巨体が、見事リフトアップされ

 ばしゃり、とライトニングウォーカーの頬に、生暖かい液体が飛んだ。

「エッ?」困惑の言葉を漏らす彼女は、その目に映る『それ』がなんであるかに気づく。それは……巨大なハサミである。赤と白の不気味なコントラストのキチン質のハサミが、メキシコライオンの胴体を切断していた。彼女が浴びたのはライオンの血だ。……否。それだけではない。

「アバーッ!?」少年の悲鳴。「ブ、ブルーノッ!?」少年の叫び声。ライトニングウォーカーは我に返る。ブルーノは赤く染まった血の海で失神していた。「ブルーノ君!?」駆け出そうとしたライトニングウォーカーのニンジャ第六感が、警告を発する。

SHHHHHHHHッ!!

 不気味な『声』とともに、キチン質の大ハサミが動いた。「キエーッ!」ライトニングウォーカーはロッコとブルーノのもとへ咄嗟に連続側転を放ち、2人を両脇に抱えて跳ぶ。その直後、轟音が響き、ライオンが臓物をブチ撒ける。そして大ハサミと『声』の主が姿を現した。

「アイエエエエ……」ロッコが恐怖の悲鳴をあげる。ライトニングウォーカーはブルーノの様子を確認しつつ、横目でそれを見た。「カ、カイジュウ……!?」「バイオズワイガニよ。カイジュウと似たようなもんだけど」異常成長した巨体に、ライトニングウォーカーは覚えがあった。以前、このツキジでズワイガニ相手に大立ち回りを演じたのは記憶に新しい。

 仮にもニンジャであるライトニングウォーカーに気付かれることなくアンブッシュをやってのけたワザマエに、普段であれば皮肉交じりの称賛でも投げたかもしれないが……脳震盪を起こしたブルーノを見ていては、そんな気にはなれない。

「ロッコ君、運転できる?」ブルーノを彼に託し、カラテを構えながらライトニングウォーカーは言った。「すみません、できないです」ロッコは首を振る。「だよねぇ」ならば彼女がトラックを運転するか、それとも歩いて脱出するか。どちらにしろ、出口は巨大バイオズワイガニが塞いでしまっている。「あいつをブチのめして、脱出するわ。いい?」カラテを構え、女ニンジャは言った。少年は頷く。

SHHHHHHッ!!

 バイオズワイガニの咆哮。「キエーッ!」怒りのシャウトを叫び返し、ライトニングウォーカーはバイオズワイガニの懐へと肉薄する。「キエーッ!」硬い腹へと放たれた掌底は、伝説のカラテ技ポン・パンチに類似したもの。一撃で甲殻を粉砕できれば理想的だが、彼女のカラテでは不足。無論それは織り込み済みだ。

「イヤーッ!」打撃が甲殻に浸透しきるよりも速く踏み込み、肩から背中にかけて広範囲のカラテを打ち込む。暗黒カラテ技ボディチェック! 先の掌打のインパクトを堪えた甲殻が逆位相めいた衝撃に軋みを上げ、巨獣はたたらを踏んだ。

「まだまだァッ!」本来この連撃の〆として放つべきフィニッシュアーツは渾身の双掌打と相場が決まっているが、此度の彼女の狙いはそこではない。ズワイガニの脚を、胴を、触覚を足場に連続側転を繰り返し、宙へと跳ぶ。「キィ……エエエエェェッ!」シャウトとともにダンジョンの天井を蹴り、全体重と位置エネルギーを乗せたニー・ドロップを放つ! 稲妻めいて落下したライトニングウォーカーの右膝が、バイオズワイガニの甲羅を撃ち抜いた……!

……SHHHHHHッ!!!

 だが、一撃を受けたバイオズワイガニがあげた声は、生存本能に基づく悲鳴ではなかった。決着を確信したはずのライトニングウォーカーのニューロンに、不気味なアトモスフィアが走る。同時に彼女のニンジャ観察眼は、敵の甲羅の奇妙な傷……亀裂を見て取った。デジャ・ビュめいた感覚を覚え、訝しむ。

 ライトニングウォーカーは察した。脱皮を繰り返したため体躯が大きくなっているが、このバイオズワイガニは……彼女が以前、カラテで撃退したそれと同一個体であった。「まあ、そんなにホイホイと出くわすような生き物じゃあないだろうけどさ」毒づきながらも、とどめを刺すための行動に移らんとする。だが!

SHHHHHHッ!

 メキシコライオンを屠った大ハサミが、ライトニングウォーカーを両断せんと迫る!「イヤーッ!」ライトニングウォーカーは迫るハサミに跳ね馬の要領で両手を添え、その勢いを利用して宙を舞う! 狙うは今一度のニードロップ! 甲羅の完全粉砕によるゲームセットだ!

ガァンッ!

 強烈な金属音が鼓膜を揺るがし、ライトニングウォーカーは訝しんだ。音の方向に視界を移す。錐揉み回転する輸送トラックが彼女に迫り……。

「ンアーッ!?」

 地上のトラック事故と同等以上の衝撃が、空中の女ニンジャを跳ね飛ばしたのだった。

6.

 地上で戦いを見守っていたロッコは、ブルーノを傷つけたのとはもう一方の大ハサミが足元へ振るわれ、彼らが乗ってきたトラックかち上げたのを見た。そしてバイオズワイガニはトラックを、ボレーシュートの要領でライトニングウォーカーに打ち込んだのだ。大ハサミの直接攻撃は囮だった。

 呆気にとられたロッコの真横数メートル先にトラックが落下した。運が悪ければ潰されてノシイカになっていたところだ。我に返った彼は、姉貴分の名を叫ぶ。「ライトニングウォーカー=サン!?」ナムサン、吹き飛ばされた女ニンジャは床に転がったまま動かぬ。廃コンテナに衝突痕が見える。

 怪物は獲物をカイシャクすべく、女ニンジャの元へ歩を進めている。ニンジャであることなど関係あるまい。彼女を捕食するつもりなのだ。「アイエエエ……」ロッコは悲鳴を漏らしながら、ブルーノの肩を抱えあげる。不幸中の幸いか。戦闘の過程で位置関係が大きく変化し、彼らと出口の間には障害物は無い。必死に走れば、脱出は可能だろう。……ライトニングウォーカーを見捨てれば、という前提の話だが。

 ソウカイヤ直属のヤクザでありニンジャである彼女を見捨てたと知れれば、彼の属するクランはソウカイヤにケジメを取らされるのは間違いない。もっとも、そのことを知るのはこの場に居る3人だけだ。ロッコと(生き残れば)ブルーノが口をつぐめば、事態は闇に葬られる。

 だがそうして、ライトニングウォーカーが生き残ったとしたらどうなる?(そもそもニンジャは死ぬのか?)その場合はライトニングウォーカーを見捨てたことは知れ渡る。何より彼女自身は、冷酷な怪物であるニンジャは、自分を見捨てたモータルをどうする?
 
「……なあ、兄弟」

 いつの間にか目を覚ましていたブルーノの声が、ロッコを現実に引き戻した。「お前、つまんねェこと考えてんだろ、今」ブルーノの口調は咎めだてするようなものではない。「姐さんを見捨てて生き残るなんてのは、俺はゴメンだぞ。お前もそうだな?」

 ロッコは頷いた。「そうだね。それは……クソだ」ブルーノは息を吐いた。「クソのついでにもう2つ考えろ。まず1つ。俺たちがくたばって、姐さんが一人で生き残ったらどうなる?」ロッコは答える。「それは……多分、隙を見て逃げる」ブルーノは頷く。「ニンジャだもんな。あの人はなんとかなんだろ」「問題はその先だよ」

 マケグミの命がスシ1つよりも軽いネオサイタマで、少年ヤクザが2人死んだところで気にするような余裕がある者は少ない。半年にも満たないあの女ニンジャはどうだろうか? 冷酷、残忍、無情なるニンジャである彼女は。馴れ馴れしく、いつもカネに困っていて、自分たちを弟のようにかわいがってくれている彼女は。
 
「あの人、絶対引きずるよね」ロッコは断言した。ブルーノは呻く。「あとよぉ、俺らが死んだことをオヤジに言うぜ。そしたら多分ソウカイヤに話が行く。ケジメ取らされるかもだ」「クソだね。あの人の指、綺麗なのに」実際そうなるかは知らない。結論は、どうなろうとろくでもない未来しか無いことだ。

 ブルーノは脂汗を流す。「よし、もう1つ考えろ。俺には思いつかねェ。頭もフラフラするしよ」朦朧とする意識を手放さぬよう、繋ぎ止める。そして言った。「俺とお前、そして姐さん。3人全員で生き残る方法を考えろ。時間は無ェぞ」

「ああ。わかってる」ロッコはまず、横倒しのトラックを見た。何がある? 何か使えるものはあるか? バイオズワイガニを食い止めて、ライトニングウォーカーとブルーノとともに脱出する手段はあるか?

 そして、ロッコは笑った。「クソみたいな手を思いついた」ブルーノも笑った。「いいね。やってみようぜ」

7.

 巨獣は、バイオズワイガニは、ぐったりと動かぬ獲物へとゆっくりと歩を進める。ヒビの入った甲羅が痛む。以前も同じようなことがあった。野生の獣は、生き残るために学習をする。この小さな生き物は時として、素早く動いて甲羅を砕く。彼はそう学習した。

 これまで出くわした中で同じように素早く動く者は居なかった。彼の頑丈な甲羅に何かを硬く小さなものを当てて声を上げるのが精一杯で、やがて逃げ出すか彼の胃袋に収まるかだ。彼はそれを好んで食らった。そのうち脱皮を行い、生まれ育った巣を離れて数日経った彼の前に、再び素早く動く生き物が現れた。

 この生き物は同じように甲羅を砕くだろう。その苦痛を二度と味わぬよう、彼はハサミを罠として素早く動く生き物を仕留める手段を用意していた。果たして狙いは的中し、彼は新たな獲物を得た。目の前に横たわる生き物が、かつてのそれと同一個体であると彼が理解しているかはわからない。

 やがて彼は、ハサミで生き物をつまみ上げた。無論、口へ運んで咀嚼するために。獲物はピクリとも動かない。

SHHHHHHッ!!

 彼は歓喜の声をあげた。……その時。


BLAM! BLAM! BLAM!

 大きな音とともに、彼の甲羅が揺らいだ。慣れた感覚だった。硬く小さなものが当たったのだ。身体を動かし、それを放った者を見る。床に寝転がり、こちらを睨む小さな生き物。再び甲羅が揺らぐ。その生き物は鳴き声をあげた。無論、彼はそれを理解などしない。BLAM! また甲羅が揺らぐ。
 
「ソマシャッテコラーッ! テメッコラーッ! キヤガレッオラーッ!」

 彼が取れる選択肢はいくつもあった。ハサミで摘んだ獲物をさっさと口に運び、それから次の獲物を食らう。――否。彼は食事はゆっくりと摂ることを好む。甲羅を揺るがされながらの食事は好まない。では獲物を投げ捨てて目の前の獲物を仕留めてから食らうか? それも否。獲物が息を吹き返し、逃げたらどうする? BLAM! 甲羅が揺らぐ。

SHHHHH……ッ!

 彼は片方のハサミに獲物を摘んだまま、もう1体の獲物に歩を進めることにした。ハサミを振り下ろして仕留め、そして2体の獲物を存分に味わう。素晴らしいことだ。一歩。硬い大地を爪が貫く。二歩。獲物がじりじりと後ろに這う。三歩。先程ハサミの中の獲物に叩きつけたそれを乗り越える。BLAM! 甲羅が揺らぐ。そして。

KABOOOOOOM!!!!

 バイオズワイガニの直下で、コケシ・アサルトライフルの銃弾にガソリンタンクを撃ち抜かれたトラックが、大爆発を遂げた。

8.

「ちくしょう! マジにクソみたいなプランだな!」撃ち尽くした麻酔銃を投げ捨て、ブルーノは叫ぶ。立ち上がろうとするも、頭がぐらりと揺れて、バランスが取れない。匍匐前進で進みながら、炎上するバイオズワイガニを見た。憧れの人を食おうとしたクソッタレが、苦痛の悲鳴をあげている。「ざまぁ見ろだぜ」

 そこまで思考して、思い至る。「姐さんッ!?」肝心のライトニングウォーカーはハサミに掴まれたままだ。このままではまとめて焼死してしまいかねない。「ブルーノ!」ロッコが駆け寄ってくる。コケシ印のスリングベルトで、ライフルを肩から下げている。ぶっつけ本番だったが、ロッコの銃の腕は自分より良いようだ。

「ロッコお前、カニは姐さん捨ててこっちに来るって言ったろ!」ブルーノはカニのハサミを指差した。ロッコは彼に肩を貸して立ち上がらせると、言い返す。「カニがどう動くなんて完璧に想定できないよ! それよりライトニングウォーカー=サンを助ける事を考えないと!」

「今度はライフルでカニを撃つか?」「なんか、弾が詰まっててもう撃てないっぽい……」「マジかよ!? コケシブランドって本当に役に立たねェんだな!?」少年達がああだこうだと言い合う間に、バイオズワイガニのハサミの間から、スルリとライトニングウォーカーが落下した。

「「ライトニングウォーカー=サン!?」」

 頭から地面に激突する寸前、女ニンジャはカッと目を見開くと、両腕をバンザイ・チャントめいて伸ばした。「キエーッ!」落下のショックを肘の関節で吸収し、そしてその勢いで連続バック宙を打ちながら、2人のもとへと文字通りに跳んできた。

 これがニンジャか。モータルであれば首の骨を折って死んでいたに違いない。ブルーノは改めてライトニングウォーカーが、人智を超えた超人であるのだと理解した。「姐さん」「ライトニングウォーカー=サン」2人は口々に、安堵と恐怖を籠めて彼女を呼び、女ニンジャの顔を見た。

 そこにあったのは……ぐしゃぐしゃになった泣き顔だった。「あ……ありがとう! 死ぬかと思ったぁ!」そして彼女は、2人の少年を抱きしめてオイオイと泣き始める。「死ぬかと思った! 2人も死んじゃうと思った! 良かったよぉ!」女の細い両腕が、見た目にそぐわぬ怪力を発揮して少年達を締め上げる。「姐さん! 首! 絞まってます!」「息が、息が!」

 2人の意識がどこかへ向かう一歩手前でライトニングウォーカーは2人から離れた。そして、それぞれの目を見た。「本当にありがとう。そして……ごめんね。怖い目に合わせちゃったし、ライオンは死んじゃったし……」そういえばそうだった。当初の目的をすっかり忘れていた2人は、顔を見合わせる。メキシコライオンを捕まえて、オヤブンにプレゼントするつもりだったのだ。

「いや、こちらこそスンマセン。姐さん」ブルーノが頭を下げる。「オトウサンもまぁ……本気にはしてなかったと思いますし」ロッコも頭を下げる。ライトニングウォーカーは目を拭い、笑った。「いやぁ、ヤクザが一度約束をしたからには本気でしょフツー」少年達は同時に頭を上げた。「マジすか」「ケジメですか!?」

 ライトニングウォーカーはニヤニヤと笑う。「ンー……他にライオンがいればいいけど。多分居ないのよね」開けられずに残った檻にはバイオアナコンダやバイオパンダ、バイオカンガルーにラマなどが収められているようだが、彼女のニンジャ感覚はメキシコライオン特有のアトモスフィアを感じなかった。

「ま、アイディアが無いことは、無いわ」「おお!」自信満々の女ニンジャと、歓声をあげる相棒を見たロッコは内心でため息をついた。あまり期待はしない方が良さそうだ。そして何気なく振り返り……。炎に包まれるバイオズワイガニが、こちらに歩を進めようとするのを見た。「アイエエエ!?」

「嘘でしょ!? なんでまだ生きてんの!?」ライトニングウォーカーは慌てながらも2人の少年を両肩に担ぎ上げる。「こんなことなら最初から逃げりゃ良かった!」そして、出口へ向かって一直線に走り出した。「カニだのイカだの! なんでこんな目に遭わなきゃなんないのよぉ!」

 右肩に担がれたブルーノが叫んだ。「スンマセン! 元はと言えば、俺が失神なんぞしたせいで!」「別にいいから! それより、ライフルであいつ撃っちゃって!ちょっとは怯むでしょ!」左肩のロッコが叫んだ。「弾詰まって撃てません!」「マジで!? やっぱコケシブランドはダメね!」

 やいのやいのと叫びながら、人間が通れるギリギリの幅の通路へスライディングで飛び込んだ。バイオズワイガニがハサミを通路に無理やり突っ込み、ライトニングウォーカーのエメラルド色の髪が数本散った。走り出すのが1秒遅れれば、彼女の首は吹っ飛んでいただろう。
 
「姐さん!」ブルーノが叫んだ。「なぁに!?」安全圏に逃れてからも走るのをやめずに、ライトニングウォーカーは叫び返した。「俺、強くなります! 姐さんを守れるくらいに!強くなります!」言うだけ言って、ブルーノは赤面した。

 どうしてそんなことを叫んだのか、彼にはわからなかった。ニンジャを守るモータルなど、聞いたことがない。だが、どうしても彼は、叫ばずにはいられなかった。ヤクザの矜持か、男の意地か。黙りこくる兄弟分の顔を見たロッコも叫んだ。「僕もです! 強くなります!」

 ライトニングウォーカーも走りながら、叫んだ。そして、笑った。「うん、それ、いいわね! 強くなりなさい! ふたりとも!」

《エピローグへ続く》