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再創造

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18/8/10 完結しました 8/31 第八部に二話追加
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再創造 目次のページ

※ 本作は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ★ 登場人物 第零部 一    Drawing Sea (8/31 一部修正) 二    Drawing Sea 2 三    Drawing Sea 3 四    Drawing Sea 4 五    Rest at Seaside 六    Drawing Sea 5-1 七    Drawing Sea 5-2 八    Scramble 第一部 九    Aquarium 0 十    A

Drawing Ocean 2 (再創造/五十八)

「おはよう。紫尽くん」 「おはようございます。水族館さん」  暦は進んで十月。十月五日の金曜日。  朝の挨拶をしながらも、二人は夜の屋上に立っていた。開かれざるべき闇に浮かぶ舞台。立ち入らざるべき月に見下ろされた舞台。  紫尽はグラウンド側のフェンスに寄り掛かって牧野を迎えた。  扉の前に立つその手に、全長三十五センチ程の鉈。 「あっこれはね。なんとなく持って来ただけだから。ここ二回はこれに頼りっきりでさ、手にひっついちゃった」  語る牧野はいつものつなぎを首元まで着込み、背

Aquarium 15-5 (再創造/四十九)

 六年前。凍えるようなある日。  北縹駅から、または『秩序』局本部からほど近い、年季の入ったアパート。  二階、一番奥の部屋で、ストーブだけがじりじりと燃えていた。 「僕は悪いことをしました」  包丁も手放さぬまま、科囲有樹が口にする。 「きみは悪くないよ」  平山未蓮は正面からその手を握って言う。  膝が血だまりに浸かった。 「僕が悪いです」 「きみは悪くない」 「悪いです」 「悪くない」 「悪い……」 「有樹くん」  音も無く泣き出した有樹に、未蓮は告げる。  その目を見

Aquarium 13 (再創造/四十三)

 九月五日。夕刻の火葬場。  たった今骨を拾い終えたばかりの父から届いたメールを、平山錐仏は一人見つめていた。  射す西日。枯葉を乗せたプラスチックのベンチ。  蝉時雨の中、一人、見つめていた。 「すまない」  心中でなぞる。 「あの日、僕は間違って、おまえは正しかった」  なぞって、空虚を味わった。 ★  九月九日。五人の揃った平山家。  その後、『秩序』は『秩序』局への侵入経路と手順を図で示し、五人に対して簡潔に説明した。結局、『秩序』局の監視というのも大半は『秩序』

Drawing Forest 6 (再創造/三十五)

 九月五日。すっかり日も落ちた時刻。縹駅から十分程歩いた路地。  純喫茶、と呼ぶにふさわしい風貌の室内で、萩尾と紫尽は二人、向かい合って座っていた。 「何飲む?」  くつろいだ姿勢の萩尾が尋ねる。  夕刻の屋上。話を終えた一行は流れのまま解散となった。いつもは固まる面々も、今日は用有りらしい。皆まっすぐ家路の様子だった。  そこで、萩尾は紫尽を捕まえたのだ。 「俺はコーヒー」  萩尾が続ける。 「そしたら、同じので」  紫尽が答えた。 「あら、和田くんコーヒーいける人?」 「

再創造の人々(改)

目次 ☆ ▲平山錐仏(ひらやますいせん)主人公 ▲和田紫尽(わだしづく)海に行きたい ▲行仁水鳥(ぎょうにんみどり)山に住んでる ▲牧野水族館(まきのすいぞくかん)(本名不明)通り魔 ▲萩尾睦陽(はぎおむつび)怪しい男 ▲科囲有樹(しないゆうき) ★ 目次 旧版のページ

再創造の人々

目次 ☆ ▲平山錐仏(ひらやますいせん)主人公 ▲和田紫尽(わだしづく)海に行きたい ▲行仁水鳥(ぎょうにんみどり)山に住んでる ▲牧野水族館(まきのすいぞくかん)(本名不明)通り魔 ▲萩尾睦陽(はぎおむつび)怪しい男 ▲科囲有樹(しないゆうき) ★ 目次

Drawing (再創造/六十四)

 晩秋。 「おはよう、行仁くん」 「もうお昼ですよ。平山さん」 「まあ、そうだね。いやー冷える」  両手を擦り合わせ、息を吹きかける平山。  昼の屋上は続いていた。  昼食をとうに終えた水鳥も、この場所に在り続けている。 「ねえ、行仁くん」 「なんですか」  寒さにも顔を上げ、行仁水鳥が答える。  今、この舞台に立つのは彼らのみ。 「うん。僕がさ、いま目の前のこの街、縹の街の何もかもが、一面の海に見えるって言ったら、どうする?」 「海ですか」 「そう。海。海しかない。ずっと海

Drawing Forest 10 (再創造/六十)

「……なんだ」  十月六日。終わりの後。  午前十時の自宅で朝食を食べながら、適当につけたテレビだった。 「水族館、行くって言ってたのにねえ」  萩尾は食べかけの食パンを冷蔵庫に突っ込むと、部屋の奥、ベランダ窓の手前に敷いたままの布団へ向かった。迷いなく寝転がる。六畳の居間は玄関まで見通せた。  全身を毛布で包む。  通学はやめにした。  ふと見た窓の外。晴れた空と縹の山の緑が美しく見えた。ここは三階だった。  陽気が暗い知らせを助長した。萩尾はテレビを消し、もう一眠りしよう

Scramble 6 (再創造/六十三)

 十月十四日。夕刻。縹高校近くのラーメン屋。  平山、水鳥、萩尾の三人はいつだかと同じ最奥のテーブルを囲んでいる。  休日らしく、人は多い。家族連れらしい子供の声も聞こえた。  間。 「実はさ、俺、有樹に会いに行くの久々だったんだよねえ」  注文を終えて、萩尾が口を開く。 「なーんか気まずくなっちゃって……。かかさず毎週行ってたのにさ。一月もサボっちゃった。まあ、ちょうど和田くんにも会えたし良かったかなあ」 「今日は元気そうだったね」  平山が答える。 「まだ話せてないけどね

Aquarium 22 (再創造/六十二)

 同日。少し後の時刻。縹市北東の山あい。  仏花を抱え、墓地を訪れた平山の視界に、一人共同墓の前に佇む水鳥の姿があった。  墓石を見上げている。  供えられた花が風に揺れた。 「行仁くん」  平山が声をかける。 「平山さん。どうも」 「ここで合ってる……みたいだね」 「はい」 「これ、洗ってくるね」  平山は花を水鳥に預け、ステンレスの花立を手にした。そう汚れていない。人の訪れはあるようだ。  水道まで歩き、桶を手に戻る。  水鳥は同じ姿勢で立っていた。 「少し前、紫尽の父だ

Drawing Sea 11 (再創造/六十一)

 十月十四日。日曜日。まだ明るい夕刻。縹市北東の山あい。  水鳥は、紫尽の元を訪れていた。  等間隔な墓石の間を歩き、階段を上る。  三段目の山側の端。木々に背を抱かれた、水鳥の目指した共同墓の前に、一人の男が立っていた。何も手にせず、ただ一回り大きな墓石を見上げている。  水鳥の足音に気付き、男が振り返る。全身を包んだスーツは、ネクタイに色がある。  どこか見覚えのある目をしていた。 「こんにちは」  仏花と桶を手にした水鳥に、男が声をかける。 「こんにちは」  と返すと、

Aquarium 21 (再創造/五十九)

 そうして、全てが終息した。  十月六日。あらゆる場所で牧野の犯行が知らされ、同日正午。彼が偶数月殺人の容疑者であるとも告げられた。牧野は全ての凶器と、被害者のものとわかる持ち物や身体の一部を所持しており、前『秩序』の死を前にしても彼の犯行は明確であった。これにより、『秩序』そのもののみに留まらぬ、『秩序』局員まで総入れ替えの騒動となった。また、元『秩序』局員、平山未蓮の罪も明かされ、近しい事件の被害者が親子関係という事実も暫し世間を騒がせた。  幕引きは嵐の如く。  縹の街

Drawing Sea 10 (再創造/五十七)

 九月十六日。日曜日。早朝。  紫尽、水鳥の二人は再び縹駅から列車に乗り、浜辺の駅、橙止を目指していた。  八月三十一日と同じ。静かな車内。  二人にしても会話は無い。  休日の始発列車は五時二十分発であった。  間。  がたごとと、列車は盆地内を出口に向かって走る。ふと、東の山の間から柔らかい陽光が差した。  二人は金の光に照らされた。    きっかり十八分の後、彼らは砂浜を歩いていた。駅前から始まって、北を向いて、縹の街に背を向けて、のんびりと歩いた。それから、なんとなく