Rest at Seaside (再創造/五)

「最近、金継ぎを始めたんだが」
 縹の山の中、水鳥が言った。水鳥の家へ戻る下り道での出来事だった。
「きんつぎ? 何それ?」
「割れた器を直すやり方だ。破片のくっつけ方なんかまあまあに複雑なんだが、一番の特徴は継ぎ目に金の線が入ることだ。で、この金線を引く作業がどうも難しい。なかなか綺麗にいかないんだ。紫尽、おまえは絵が上手いだろう。細かい事を上手くやるコツとかあるのか」
「水鳥は意外と不器用だよね。それと、絵とそういう作業の上手さって関係ないと思うよ。俺だって折り紙の鶴綺麗に折れたことないもん……あっ千羽鶴! 千羽鶴折ればいいんじゃない?!」
「今の俺に回復を祈る知り合いは居ない」
 坂の下に赤い瓦屋根が見えてきた。水鳥の家は遠目には物置だ。紫尽は葉のついた折れ枝を拾って祈祷の真似をしていた。
「それよりさ、水鳥が趣味やるだなんて珍しくない?」
「趣味じゃない……つもりだ。金継ぎは爺さんの仕事だった。手伝いはしていたんだが主に荷造りで、全国色々な住所を丁寧に書くことに追われていた。何か教わっておけば良かったな」
「なるほどね。さすがの水鳥でも、醤油は自分じゃ作れないもんね」
 紫尽はいつもの調子で返事をしながら、けもの道の横の草むらの中を歩いている。やがて家近くの畑へ出た。草むらから出てきたために、動物避けのフェンスにぶつかる紫尽。大袈裟に痛い! と頭を押さえて唸る紫尽を見ても、水鳥は笑わない。しかし紫尽は笑っていた。
 夏休み、けれど、いつもと変わらぬ日。
 背後で蝉がミンミンと喚き出した。その大合唱に加わるようにして、紫尽がまた声を投げる。
「ねえ水鳥! 水鳥はさ、器を作るほうが向いてると思うよ!」
「どうしてそうなる」
「そう思うから」
「俺は何にしても不器用だよ」
「そんなことないよ」
 紫尽はそのままの笑顔で、水鳥の家へ駈け込んでいった。数十秒という素早さで戻った彼は荷物を持っていて、今日はもう帰らなきゃいけないんだ、と言った。昼の太陽が真上から二人の庭を照らしている。紫尽は大きく手を振ってさよならのジェスチャーをした。
「来週の海! 楽しみにしてるから!」
 そう言いながら下界へと走り去る紫尽を見送って、水鳥は一人仕事を始めた。裏の山、祖父の土地から持ち帰った荷物を軒下に置き、道具を持ち出し、時期の来たトマトを手に取って初めて、彼は一人、
「俺もだ」
と呟いたのだった。

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水上渓谷

再創造

18/8/10 完結しました 8/31 第八部に二話追加
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