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来る夢、来る人、去る思い

大きめの器の底には白米が敷き詰められ、比較的小さめにカットされたトマトとレタスが彩を添える。さらに主役と言わんばかりの甘辛い韓国風ソースで味付けされたカルビが輪を描いて乗り、その中心には半熟卵に刻み海苔が鎮座している。

その名も「ライム丼」だ。

思い起こせば90年代後半、春・秋の岩岳で有名であった白馬岩岳MAZDAカップ、さらにその奥にある栂池高原ヒルクライムに参加していた高校生の私は、当時所属していた地元のショップチームの先輩に連れられてやってきたのがこのライム丼を提供してくれているお店”来夢来人”ライムライト。

高校生の自分にとって大人な先輩に連れていかれる地方の大会遠征は刺激ばかりであり、その中にあってグルメも大きな要素を占める。言うまでもなくライム丼の虜になった私は白馬へのレースの際は必ずと言っていいほど来夢来人によってライム丼を楽しんだ。
社会人になりオートバイにまたがった私はあいも変わらず信州の虜であった。毎月ツーリングで1回は訪れている信州一帯で白馬まで足を延ばした際はライム丼を目指していた。

2017年、ライム丼との最後の邂逅となった白馬ソロライド。
近くのジャンプ競技場にて。

月日は流れ自身も転職・結婚と生活環境が変わることにより、信州へ足を運ぶことも少なくなったが、図らずしも山一つ挟んで嫁の実家がある為、自転車で山を越えてライム丼を食べに行ったこともあった。

そんなライム丼との久々の再開を心待ちにした2022年、突然ライム丼は私の前から姿を消した。
ENS白馬岩岳に参戦をすると決めたその時から来夢来人にお邪魔することは必然であり悩みようのない事実だったのだが、お店に入ってみたメニューにその名を確認することが出来なかった。

嗚呼、何かの間違いであってくれと縋る思いで女将さんに「あの……らっ、ライム丼は?」と考える前に聞いてしまった自分の行動にも驚いたが、その返答に頭が真っ白になった。

「懐かしいこと言うわね、久々に聞いたわ、その名前」

なんとライム丼、その名の通り看板メニューだと思い込んでいたのにディスコンしていたのである。別れは突然に訪れた。
前回来店が2017年の夏であることを考えれば来夢来人が、観光産業で成り立っているような雪国白馬でコロナ禍を乗り越えて営業していること自体奇跡的で感謝せざる得ない状況であるとは思うが、私は何と贅沢な思い上がりをしていたのだろう。
お店が継続しているだけで御の字ではないか。

私は自分にそう言い聞かせながら、チキン南蛮定食を食べるのであった。新しい思い出も作り出すために。

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