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川上

                              稲垣早苗
川上。
カワカミって、繊維業界の用語でもあるのですけれど、ご存知ですか?

工房からの風を企画している母体の日本毛織(株)は、今はコルトンプラザをはじめとして、さまざまな事業を営んでいますけれど、創業からの繊維事業では、「川上」の部分の仕事といわれています。
川上、とは、布そのものを作る仕事。
布はその後、服飾メーカーさんのもとで、洋服になったりしていきます。
使い手が知る名前は、最終のデザインを行ったブランド名。
そう、川下の名前です。

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工房からの風は、川上を大切にしていきたい。
そんなことをここのところ、ずっと思っています。

最終的にデザインされたり、ディスプレイされる美しさも大切です。けれども、私たち、そういうことって、とても上手くなった気がします。コーディネートの力。センスを磨いて、そこで表現していくこと。

そんな「川下」の力に対して、ゼロから生み出す力、「川上」の部分は、
どこか人任せだったり、手を抜いてはいないだろうか。。。
そんなことを思います。

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「工房からの風」に出展する作り手は、「川上」のことから「川下」のことまで自ら行う人たちです。
その中でも、特に、「川上」のことを喜びながらものを作る人と一緒に風をそよがせたいと思うのです。
センスは大切だし、プレゼンテーション力はあった方がいい。
けれど、そういう人が活躍していく場は、今はきっと多いような気がします。

一方、素材や技術に誠実に向き合いながら、「川下」のことへ意識が向いていない人もいます。
「川下」だって大切な表現の次元だから、向いていた方がいいと思います。
けれど、「川下」ばかりに気を使うよりも、「川上」のことを丁寧にやりすぎて、世の中に出ていくのが苦手な作り手が持っている確かな魅力を見落としてはいけないな、と思っています。

「川上」のことをしっかりやっている作り手。
そんな人たちの、深い思いや日々の仕事を薄めることなく、けれど広く扉を開いて、ものごとを届けていきたいと思います。

追記
「galleryらふと」で出している通信「小屋の音」の前身は、ベイスノオト。
それは、香水の用語から引きました。

まず最初に香る匂いがトップノオト。それに対して、香水がつけた人の匂いと馴染んで、最後に立ち上がってくる香りをベイスノオトと知って、その名を通信の名前にしたのです。

工藝、手仕事の品の魅力って、まさにそうだと思うから。

今思えば、ベイスノオトと「川上」も、似たニュアンスがあるような気がしますね。

2008/10/30 工房からの風director's voice初出 2019/06/28加筆修正

ベイスノオト、川上、あんぱんの話。
ずっと想いは変わっていないんですね。
あきれるほどに!
けれど、スリリングまでに変わっていくことにも、恐れず、億劫にならず、喜びをもって果敢に取り組んでいきたいのです。
餡のおいしさ追求は怠らず、けれど、その表現方法、展開方法、伝達方法・・・などは、「今」の英知と響き合って。

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