見出し画像

                              片田 学
 甲府盆地の端にある町の、川に沿って立つ倉庫を縁あって仕事場としている。山を近くに望みながらも、広がりを感じる環境に出会いを感じたのが四年前のこと。毎日この景色を見ながら仕事をとの当初の思惑に反し、いつの間にか扉を閉めて、籠るように手を動かすようになったのは、強い川風だけが理由ではないと思う。

 閉めた扉の曇りガラスの大きな窓は、景色は見えねど、電灯がいらないほどの光が入ってくる。その光は変化しながら、一日の時の流れや、季節の移ろいをなんとなく感じさせてくれる。時に素材の表情を美しく、ものの形をありありと見せてくれたりもする。見え方が変わったり、時に忘れてしまっていたことに気付いたりと、本当に自分次第なのだ。

 修行時代、一つのものを任され、作り上げて、少し落ち着いたとき、写真撮影を行うのが慣わしだった。目の前の素材と対峙を繰り返す、手を動かす時間から、少し距離をとってものを見る。これまでの時間とこれからの時間に想いを巡らせる。その時間が特別だった。

 悩み、挑み、自分に問うただけ、思いは深まるが、どこまでもやり尽くせないことを感じた。今もこの習慣は続き、はじめから自分で考え、手を動かし、決断するようになったことは、その思いを濃く、強くした。

 木と人と向き合い、ものの形にしていくことは、自分と向き合うことにつながっていると思う。
 不安や迷い、寂しさ、喜び、楽しみ、いろいろな思いや感情に揺れながらも、とらわれ過ぎずにいるためには、真摯に、地道に手を動かすことを続けていくしかないのだと思う。時とともに変化を重ねながら。

 平坦ではない日々、仕事場に立ち、動き始めると、自然に心も動き始めるのは、この光からもチカラをもらっているのだと、改めて思った。

片田 学 長野在住
工房トロワ 木工作品を2019年工房からの風へ出展
http://torowa-furniture.petit.cc/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?