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「17世紀東シナ海域史のIfストーリー」としての国性爺合戦を考えてみた

 ディズニープラスで配信されてるSHOGUNを見てるうちに、頭に浮かんできたのが、「この世界の国性爺合戦ってどんなものになるのかな」ってことでした。

 考えてみれば、「歴史上の人物をモデルにした架空のキャラクターたちが主要人物となり、史実をアイデア元としつつ自由にストーリーを展開させる異国の歴史劇」という点で、国性爺合戦とSHOGUNは共通します。
 だったらSHOGUNの要領で、今度は国性爺合戦を映像化したって良いし、むしろ国性爺合戦の原点である「江戸時代の架空戦記」としての面を強調した、「17世紀東シナ海域史のIf」として発想を膨らませることだってできるはずです。

 では、そのIfの起点をどこに設定するか。
 これを、「もし江戸幕府が南明政権の日本乞師に応じていたら」と定めてみたらどうなるか。
 それをちょっと想像してみました。


  • 日本側の状況

 日本からの南明支援軍は、紀州藩主の徳川頼宣が総大将を務めつつも、その陣容は九州や山陰山陽、それに四国の西国大名たちの軍勢で構成されます。そして、その西国大名は勇躍して、唐土もろこしへの出征に応じます。西国大名たち派遣軍は太閤秀吉の轍を踏む朝鮮侵攻策を退け、薩摩から琉球を経て広東地域に上陸、その後もあくまで明軍の後詰を務める策を選択しました。
 西国大名の本当の目的は、物資の前線と後方への輸送という名目を用いて、鎖国政策下で禁じられた東シナ海域での自主交易を行うことでした。
 先鋒大将を務める島津家が元締として取り仕切る中、派遣軍は瞬く間に海上交易団に変質し、幕府の鎖国政策も有名無実化していきます。
 しかし、その「交易」と、名分であったはずの合戦の双方において、配下の武士たちの戦国時代さながらの乱取りすなわち略奪によって現地の物資を調達する例は頻発しています。
 そのため、華中・華南の民の間では、「倭寇が帰ってきた」と日本武士団を嫌悪する空気が醸成されています。

  • 清国・朝鮮側、そして鄭芝龍の状況

 日本乞師実現に加え、本国である満洲の飢饉、さらに長年の悪政と流賊の横行に痛めつけられた華北社会を抱え込んだ負担も重なり、華南制圧の停滞を余儀なくされた清国側は外交によって事態の打開を図ります。
 まず、既に自らの冊封下に組み込みつつ形式的には中立国となっている朝鮮を介して、将軍職への野心をむき出しにする紀州頼宣や派遣軍による事実上の交易によって経済的な自立傾向を強める西国大名への警戒心を募らせていた幕閣へ明からの撤兵を働きかけます。同時に、島津家の支配下で辛苦に喘ぐ琉球国に対して分離独立も使嗾しはじめます。
 これらの秘密外交を仲立ちしていたのが、かつて日本乞師実現に奔走していたはずの鄭芝龍でした。
 東シナ海という縄張りとその利権を日本の西国大名たちに奪われてしまったことは、鄭芝龍にとって大きな誤算でした。一方で、陸戦では狂暴なまでの戦闘力を発揮しつつ、自らの手で制海権を維持する海軍を持たない日本武士団の弱点も、彼はすぐに理解しました。
 南明と日本、清国と朝鮮の狭間で、東シナ海の海賊王は遊弋を始めます。

  • 華中・華南の状況

 南明の勢力圏にあたり華中・華南の民衆社会にも、大きな変化が生じつつあります。
 南明政権と軍を構成するのは、旧明朝末期が政治的に迷走する中、各地を実質的に統治した郷紳階層によって養われ、襲い掛かる流賊に対して江湖渡世の幇会や武術門派の協同もあって自らの地域を防衛してきた民兵団です。
 その民兵団と日本武士団、特に「陣借り」と称して渡海し自らの命も敵味方の命も塵芥ちりあくたのごとく軽んじる将軍家直参の旗本奴はたもとやっことの武闘は日常茶飯事となっています。そのため、旗本奴の中には「浪人」と称して逐電し、さらには清国軍の陣中に加わる者まであらわれています。また、民兵団同士でも郷里や幇会や門派での対立関係がそのまま持ち越されています。
 彼らを養ってきた郷紳階層の中にも、自らの地域における不輸不入の支配権を朝廷に公認させる封建領主化への脱皮を目論む機運が生じ出しています。そして、王朝そのものの求心力や権威などないことを自覚し、軍もまた直接掌握もできないでいる南明朝廷に、その機運を封じる手立てはありません。
 秦漢以来の中華における大前提であった「一君万民」の思想に基づく皇帝専制の社会像は、この戦乱の中で瓦解しつつあります。形式上は朝廷を運営していることになっている朱子学信奉者の中には、この状況を忌避するが故に、既に清国に下った同族を介して内応しようとする者も出始めています。
 日本乞師を実現させたにも関わらず、南明は急速に自壊への道を歩みだしています。

  • カトリック、プロテスタントの状況

 東シナ海域の交易圏を巡って争いを繰り広げてきた、カトリック国のスペインやポルトガルと、プロテスタント国のオランダやイギリスにとってもこれは対岸の火事などではありませんでした。
 朝鮮同様に日本を警戒してきたルソン島のマニラ政庁は清国側への支援を模索しています。
 一方オランダは、島原の乱でも幕府を支援した縁もあり、台湾フォルモサ島北部を日本武士団の中継拠点として提供しています。しかし、南明派遣軍と彼らが臨時に召し抱えた商人たちといった日本人の人口は日に日に増加し、オランダ最大の拠点であるゼーランディアでは降って湧いた商機と母屋を奪われる疑念がせめぎ合っています。


 ざっとこのくらいの事までは想像することができました。
 で、そこから先はどうしたものか、主人公たる国性爺、鄭成功に当たる人物はどうするのか。

 ……どうしたもんでしょうね、コレ。

 いやもう、自分で書いててもグチャグチャも良いところですからね、この情勢。
 逆に言えば、どういう立場に立つかで物語の方向性は大きく変えられるわけで、そういう自由度もあるのかな。

 とまあ、そんなわけで。
 もしこの記事を見た方、特に欧米圏の映像関係者、もっとピンポイントに言うならSHOGUNのスタッフやその人たちと伝手がある方で、「このネタ面白そうだし企画化したいな」と思われたら、遠慮なく使っちゃってください

 見たいと思ってる人が、少なくともここに一人はいるわけですし。

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