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"よそ者"を受容する文化-五島列島リモートワーク実験2日目-

五島列島リモートワーク実験2日目。朝すっきりと目が覚めて海辺を散歩。

5歳息子と自転車で一時保育の保育園に行くと、担任の先生がクラスの子どもたちに「昨日話した今日からくる新しいお友達だよ」と息子のことを紹介してくれた。

小さな声で「いってきます」と言って息子が教室にはいっていくのを見届けてから食料品の調達をしようと保育園の近くにあるお店にはいった。

見慣れない食材がいろいろと置いてあっておもしろい。できたてのこんにゃくがバケツ的な入れ物のまま売られてる。ご飯のお供にいかの塩辛をゲット。そんな風にそんなに大きくない店内をうろうろしながら数日分の食材をかごに入れてレジに向かう。

レジではおばあちゃんが、レジ打ちをして買ったものたちを袋につめてくれる。東京では袋詰は自分でやることが多いから新鮮だ。
詰め終わったところで、「そら豆はね、こうやってちょっと切り込みをいれて塩水につけてからゆでるとおいしいんだよ」とおばあちゃんが突然話し出す。

ちなみにわたしはそら豆を買ってない。

プッシュセールスなのか、なにかを間違えているのか、わたしが戸惑っている間もおばちゃんはそら豆のおいしいゆで方についてしゃべり続ける。塩ゆでじゃなく塩水につけてゆでるのがポイントらしい。一緒にじゃがいもをゆでてもおいしいのか、ふむふむ。

ひととおり説明が終わったあと「これさっきもらったから」と袋に入ったそら豆をもらい、豆ごはんをつくるといいとえんどう豆も出てきた。え、どういうこと?!びっくりしながら御礼を言って、お店を出る。

帰り道の自転車はなんだか心がほかほかしてた。

東京で買い物をしていると、店員さんに話しかけられるなんてほとんどない。なにかのキャンペーンのプレゼント的なもの以外におまけをもらうようなお店で買い物をすることもほとんどない。

滞在2日目にして、五島の文化を実感する出来事だった。

そのお店に入るのはもちろんはじめて。そしてあとから気がついたのだけど、わたしはレジのおばあちゃんに「どこから来たの?」とも「見慣れないけどどこに住んでるの?」とも聞かれなかったのだ。

「どこから来たの?」と聞かれて、「東京から来て、今週いっぱい島のキャンプ場に滞在してるんです」「じゃあこれ持っていきなよ」という話の流れなら分かる。

でも、そのおばあちゃんはわたしになにも聞かなかった。

あきらかに”よそ者”であるわたしに対して、どこから来たどんな人なのかを確認することもなく、もらいものの豆をわたしにくれたのだ。

会社でも地域でもコミュニティに馴染んでいくにはその人が「何者か」を知っていくプロセスがある。名前を名乗り、自己紹介し、自分のことを知ってもらう。そういう風にこっち側とあっち側の境界線をすこしつづ越えてすでにできているコミュニティの輪の中に入っていく。

わたしは初対面の人に自分から話しかけるのも、話しかけられるのもすごく緊張する。新しいコミュニティに入っていくとき、わたしは大きなエネルギーをつかって自分を知ってもらわなければいけない。

だけどおばあちゃんはそういうことをぜんぶすっとばして、何者かもわからないわたしに豆をくれた。まるで境界線なんてなにもないみたいに。それはわたしにとって初めての体験だった。

バンガローに戻ってさっそくおばあちゃんに教わったとおりにそら豆をゆでて食べたそら豆はとてもおいしかった。

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次の日、保育園の帰りに同じお店に寄った。

そら豆がおいしかったって言うタイミングを見計らっていたらおばあちゃんが先に「そら豆どうだった?」と聞いてくれた。「おいしかったです!」と答えて、東京から来たことや今回のプロジェクトのこと、息子が近くの保育園に一時保育で通っていることを話す。

滞在期間中、毎日そのお店に通うことが楽しみになった。

東京とはちがう他人との距離感。さきに距離を縮めて、それからお互いのことを知る。そんな順番もあるのだ。

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