滝ステ

スト5にステージ依存ラグはあるのか?

格ゲーはスト5が好きなRAIと言います。今回はスト5におけるステージ依存ラグに関して書いていきます。

スト5のような格闘ゲームに限らず、ネット通信対戦ゲームにおいて通信遅延「ラグ」はつきものです。ネットを介している時点で緩和はできても無くすことは不可能なものですけど、どうも誤解している方も多いのがこのラグかと思います。
1)通信同期による入力反映ラグ
2)ライブ配信におけるトラフィック負荷による配信品質の低下
3)キャラが見づらいことでの優位性
このあたりが混同しやすいので解説していきます。

よく耳にするステージ選択に関する意見としては「スト5でトレモステージを選ばない人は、ラグを減らす気がないのか?」「夜の滝ステージを選ぶ人はラグってもいいのか?」などなど、何かとごっちゃになってない?という意見もチラホラ。

トレモステージとは?

トレーニングモードステージ、正式名称【The Grid】は「処理が軽いため、ステージ依存ラグが最も少ない」と言われているステージです。一般的にはトレモステージと呼ばれることが多いですね。オブジェクトが一切ないので一番シンプルなステージです。

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トレモ中にたまーに発生する1~2Fぐらいスト5が止まる現象。あれの原因は分からないので、今回の話からは割愛しています。オフラインでも発生するので、PS4の8分認証とかが悪さをしているのでしょうか…? 17秒に1回発生するフレーム落ちとか言われていますが、謎です。

あと、よくステージ依存ラグと勘違いされがちな「対戦相手をトレモ待ち受けしていて、マッチング寸前でゲーム全体が重くなる現象」は、ステージではなくてマッチングシステム上の仕様なので割愛。

1)通信同期による入力反映ラグとは?

通信対戦ゲームはお互いの位置情報とキー入力情報を高速でやりとりしています。感覚的には【2人でキャッチボールをしている】感じ。必ずボールは往復しています。キー入力がなくて位置情報が変わっていなくても「このフレームは何も入力されてないよ、キャラの位置も状態も変わってないよ」という情報を送る必要があります。(正確には同一フレームに両者が同時に動けるので、キャッチボール+αが必要なのですがややこしいので省略)

自分のキャラ位置とキー入力(いわゆるトレモのキーディスプレイに並んでるアレ)をサーバを介して相手に伝えるのですが、無線LANやプロバイダの状態、ネットワーク混み合い、対戦者間の物理的な距離の遠さなどによって、すぐ返ってくるはずのボール(通信データ)がちょっと遅れます。
こうなるとボールを待っている側が「ボールまだかなー、返ってこないと投げ返せないんだけど」と待ちが発生します。これが通信同期によるラグ。この待ち時間はゲーム内の時間が止まるので、いくら入力しても画面に反映されません。通信が不安定な側を待ってあげて足並みを合わせないと、片方だけずーっと動けない状況や片方だけがずーっと動ける状況が発生してしまい対戦が成り立ちません。二人三脚と同じくゲームとして同じ時間軸を二人で走るには、足が遅い方に早い方が合わせてあげないとダメなのです。

これを発生しにくくさせるために
● 不安定な無線LANは避けて有線LANにする
● 安定して通信できる良いプロバイダを選ぶ
● モデムと繋ぐLANケーブルのカテゴリをCAT7以上にする
● 必要なネットワークポートの解放
● パケットフィルタリング設定の解除
● NATタイプを1か2にする
● 古い通信規格のハブやルーターをはさまない
などが必要になるよー☆みんなやってるよね☆ね☆(しんじょうくん風)

新しい通信同期方法

上記の二人三脚は「ゲームスピードに追い付けないほど通信が不安定な人がいる場合」の通信同期方法です。PC版のスト5が発売されてからある問題が多くなりました。PS4版ならば機器のスペックはCAPCOMが把握できるのですが、PCとなると予想もつかないような低スペックパソコンでスト5を遊ぶ人が現れます。これによって回線の安定度に依存しない新たなラグとして、キャラクターの処理やオブジェクトの多いステージの処理が追い付かず、ゲーム自体の処理が遅れて相手に追い付けない現象が生まれました。以前は二人三脚の仕組みで両者同じだけのラグになっていましたが、2020年2月19日に実施された通信環境の調整により、スペック不足側の画面描写をフレーム飛び(ゲーム進行の同期の為のポーズ)させて処理が先行する側に追い付かせるように変更。

通信の遅れがある時は二人三脚方式で早い側が遅い側を待つ仕様ですが、ハードのスペック不足や熱暴走(初期型PS4でも発生例あり)でゲーム処理の遅れがある場合は遅い側の処理を飛ばす仕様となっています。処理を飛ばすというのが想像つきにくいですが、通常60fps(毎秒60フレーム)の処理をあきらめて、10fps(=50f飛ばし)や1fps(=59f飛ばし)で処理させることで、ゲーム処理が追い付かない側を無理やり追い付かせる仕組みです。低スペック側だけコマ送りのように飛び飛びの画面描写になりますが、正常に処理できている側がラグに(理論上は)巻き込まれることがなくなりました。処理が遅い側は画面描写がカクカクなので、相手の攻めなどに対応するのが大変ですが「低スペック側にだけリスクを負わせる仕様」になったので、ネット環境をきちんと整えている人からすると納得ではないでしょうか。

2)ライブ配信におけるトラフィック負荷による配信品質の低下とは?

ライブ配信者やオンライン大会運営者がよく言う「ラグ対策にトレモステージを選んでください」は前述した通信同期による入力遅延とは根本的に意味が違います。複雑なステージや、背景が頻繁に動いているステージを選択すると、ライブ配信する際の配信データの通信量が増大します。ネット対戦での通信量は変わらないけど(そもそもステージ状況は通信していないから)その映像をライブ配信する際のデータ量が背景が複雑な分だけ増します。

テレビや動画配信などは映像として変化した部分だけデータを送ることで画面を描写し直して動いているように見せています。なので動画配信としては対戦に関係ない背景は真っ白が理想的なんですが、そういうステージはないので最も動きが少なくオブジェクト数も少ないトレモステージが配信では推奨されるのです。

海外の大規模な大会だと、エンターテインメント性が重視されて「視聴者にとって変化があってきらびやかで楽しませる映像」が求められるので、配信用の器材の品質にお金をかけつつ「ステージはランダムで!」と指定があったりします。

ライブ配信でトレモステージ以外を使って影響するのは配信用パソコンのスペックが低い場合に、配信の画質が低下したり、止まったり遅延したり映像が飛んだりする可能性が上がるぐらいなので、大会であっても対戦者同士は影響を受けません。配信者としては、そういう配信トラブルはできるだけなくしたいのでトレモステージを推奨したいところでしょうけども、対戦する人同士がラグりやすいからという理由でトレモステージに限定する必要はないのです。

3)キャラが見づらいことでの優位性とは?

キャラが見えにくくなる代表ステージ「夜の滝ステージ」なんかがありますが。ユリアンとダルシムはどこにいて何の行動をしているでしょうか?

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カラーによっては相当見づらい状態が作れます。これが原因で「夜の滝ステージを選ぶな!」という意見があるわけです。どうもこの「特定のステージ使うな」発言が「きっとラグの原因になるからだ」と誤解されている方も多いのですが、ステージによって入力遅延ラグは発生しないので無関係です。しかし、見えにくいことで相手の行動への反応に時間がかかることはあります。言うなれば視認と反応のラグという感じ。

格闘ゲームは相手の状況や自分の状況を瞬間でとらえて最適行動をしていく必要があるので、キャラが見づらいというのは相手に自キャラの状態を把握するのに時間がかかり、それだけで優位に立てます。個人的には、ステージ保護色で優位に立って勝ったとして、その強さって本当に強さと言えるの? とは思いますが。

ステージが暗いだけでなく、飛行機の上で戦うステージは背景の傾きによってキャラの距離感が把握しにくくなったり、かりんビーチステージはそもそも足元が隠れてしまって公平な対戦向きではない、というCPT使用禁止カラーやステージもありますね。

Kanzuki Beach、Flamenco Tavern、Skies of Honor、Field of Fate、Mysterious Coveの各ステージは大会での使用が禁止される。また、トップ16以降の試合については上記ステージに加えてThe Gridの使用が禁止される

処理が重いステージは存在するのか?

そもそもステージの状況は通信されていないので、どのステージを選択しても通信速度が原因の入力反映ラグに影響をあたえません。背景などのステージ描写はおのおのの機器(PS4やパソコン)が処理しています。当然ですがPS4で十分処理できるオブジェクト数でステージが作られているので問題は生じません。ステージ処理がし切れなくてラグるのかどうかの確認はかなり簡単で、以下の手順で可能です。

もしステージ描写処理が追い付かなくてラグるならば、処理が重いと言われているステージはオフライン対戦やトレモでも同様にラグらないとおかしい

オフライン状態のトレモでラグが発生するか確認。オフライン対戦会でトレモステージ以外を選んだ場合にラグが発生するか確認。

注)オフラインでもラグが常に発生する場合はPS4の故障か熱暴走、PCのスペックが足りていない可能性があります。

スト5を解析してみた方の意見

海外ではスト5のネットコードを改造したり、解析が進んでいるので、そういった解析者はどんな意見なのでしょう?体感や経験則ではなくスト5を内部解析している方の意見を紹介。

スト5ネットコードバグの改良コード開発者fluffysheap氏の、ステージ依存ラグに関する記事(英語)。

ステージ依存ラグに関する部分を日本語で要約すると以下のような感じ。

基本的にステージがラグの原因になることはないが、ステージ処理もできないような低スペックパソコンという条件下ではフレームドロップ(フレーム飛び)は存在する。
ステージ処理に起因するフレーム飛びは、対戦相手を待たせるのではなく処理しきれない側のフレームをスキップして対処しているので、相手を巻き込んでのラグにはならない。(解説追加:ゲームスピードは落ちず、低スペックPC側だけがコマ飛びしてカクカクになる)
トレモステージ以外を使いたければ自由に使ってください。それによってあなたは誰も傷つけていません。

MDZ_Jimmy氏も、PS4版でどんなステージ選ぼうがオンでもオフでも毎秒60Fを維持できてるという検証結果(英語)。

ステージのゲームの状態を相互に通信して同期する必要はありません。インタラクティブなオブジェクトを使用したInjusticeなどの他のタイトルとは異なり、Street Fighter 5のゲームプレイには影響しないためです。

ステージ情報は通信する必要がないから、通信ラグの原因にもなりえない。という結論はここでも同様。

ステージ依存ラグが存在した時期

PC版のスト5が発売された2016年2月17日から、通信環境の調整がおこなわれた2020年2月19日までの4年間は、スペック不足のPCが処理し切れないことで、ステージ依存ラグは確実に存在していました。自分もPC版の人と対戦していて、ステージのオブジェクトが多い側にいくと確実にラグるというのを何度も経験しました。この時期にスペック不足のPC版とたくさん対戦した場合、経験則として「トレモステージ以外はラグが起きやすい」という結論に達した人は多いと思います。
特にPC版スト5のフリープレイ期間になると、低ランク帯は地獄のようなラグ祭りだったことを覚えています。

滝ステラグい説

前述の「低スペックPC巻き込みラグ」時期の4年間を経験した人は、滝ステはラグいと結論付けるのは当然です。ただ、最近だと「ネット対戦はトレモステージ一択」という考え方が広まった結果、ラグを感じる時はトレモステージが多くなってきていないでしょうか?

2020年2月19日以降のネット対戦で、自分がラグを感じた際のステージ
(ラウンジマッチは除く)
ラグを感じた試合数:合計46試合
トレモステージ:22試合(47.8%)
滝ステージ:15試合(32.6%)
トレモと滝ステ以外:9試合(19.6%)

人間は一度確信した後に、それを変えるのは非常に難しいです。ラグい時にステージが滝ステだったら「滝ステはやっぱりラグい」という印象が残ります。トレモステージでラグい時は「相手の回線が悪い」と思います。滝ステでラグい時に「回線品質が悪い」という考えにいたらないのは不思議ですよね。
無線でネット対戦するような、相手に気を使わない人がお気に入りステージを滝ステから変更していないことが多いのと、過去に存在したステージ依存ラグの経験則で、滝ステラグい説が多くの人の中で定着してしまったのではないかと思います。
ゲーム内の仕様はどんどん改良されています。過去の判断基準を見直してみることが大切です。

ひょっとしたら自分のせいかも、という視点

ラグった時に対戦した両者に意見を聞くと、どちらも「相手がラグい」と言います。これを読んでいるあなたはどうでしょうか。自分が悪かったかもな?と思えるでしょうか。

古くからある「天狗様のしわざ」的な、受け入れがたいことは何かのせいにしてしまえばスッキリ理論。格ゲー界でも「レバーが悪いから負けた」「モニターが悪いから負けた」など無限に出てきます。通信ラグはどちらが原因か分からないのに「ラグ使いに負けた」と言いたくなります。ネットワークの品質をユーザーの努力で改善できるのは、ゲーム機からプロバイダの間だけ。プロバイダ間で通信品質が低下した場合に「どちらのせい?」を決められる人はいません。でも、せめて自分で改善できる部分はベストを尽くしてみようよ、というのが「自分のネット環境を見直す」行為になります。

ちなみに「高速回線を引けばラグは起きない」というのはよくある誤解で、格ゲーの通信対戦に必要な回線速度は下り1Mbpsも必要ありません。格ゲーは2キャラ分の位置情報や状態情報、両者のコマンド入力程度しか送受信していないので、やりとりする情報量としてはかなり少ないのです。
ネット回線に関してはこちらの記事がすごく詳しいので興味のあるかたはぜひ一読を。

まとめ

ステージ依存ラグは「あの4年間」には確実に存在し、そこを経験した人達によって「ネット対戦はトレモステージを選んだ方がいい」という経験則が広まったわけですが、今は存在しない可能性が大です。自分は「ステージ依存ラグはない」と思っています。トレモステージ以外を選んでいると連戦してくれない人が多いので、お気に入りステージはトレモにしていますが。

ステージ依存ラグがあるかどうかは信仰心のようなもので、あると思っている人には「ある」し、ないと思っている人には「ない」ので、ぶっちゃけどっちでもいいんですけど、一番伝えたいのは

ネット対戦時のラグをステージのせいにして終わりにするのではなく、自分のネット環境を見直してみましょうよ。

ということです。

負けた時にコントローラーのせいにして自分のミスに目を向けないと、永遠に強くなれません。同じように、PS4のインターネット接続診断で「100Mbps出てるから自分はラグの原因にはならない」と決めつけて他の改善点を放棄してしまうと、瞬間的な回線速度は速いけど不安定な回線のまま、という場合もあるわけです。田舎だから回線とプロバイダに恵まれない、集合住宅で他の居住者に依存してしまう、などの問題はあるとは思いますが、みんなが自分のネット環境を可能な限り良くしていけば、ネット対戦自体の環境も良い方向に進みます。トレモステージを選ぶことが当然になるのではなく、ネット環境を可能な限り整えることがスト5プレイヤーにとって当然になって欲しいなあ、と願っています。

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