市民による市民の為の市民の水道(前編)

前回の記事では海外の水道民営化の失敗例を中心に紹介してまいりました。そこで今回は日本の改正水道法について見てみたいと思います。

【改正水道法が成立した背景】

市町村など各自治体の水道事業者は人口減による収入減からくる赤字体質のところが多く、老朽化した水道管の更新が遅れています。

そんな水道の運営権と料金の徴収権を民間業者に委ねる事で民間業者が自らの資本を使って水道管の更新等を迅速に進める………………というのが狙いのようです。

【水道民営化のキーワード】

そんな水道民営化を語るにあたって重要なキーワードが『コンセッション方式』です。

これは、“施設の所有権は発注者に残す。しかし、運営権については当該施設・設備の運営を行う為に設立した特別目的会社に移す”という仕組みです。

こうした特別目的会社をSPC(Specific Purpose Company)といいますが、このSPCは発注者から運営権を委託された施設を運営して得た収入のみで運営に必要なコストを調達する『独立採算型』で事業を行う事になります。

当然、SPCは収入と施設運営費用に責任を持たなければなりません。その代わり、ある程度自由に経営する事が許されているのです。

【民間業者は水道料金上げ放題!】

上記のように自由に経営出来るSPC。水道料金についても自由に設定出来ます。

前の記事( https://note.mu/rainbow2018/n/nff71fba55593 )でも書きましたように、儲からない水道事業で利益を上げる為には水道料金を高くしたり、保守点検の回数を減らして運用コストを押さえたりする必要があります。

何せ、独立採算型ですから水道事業で赤字が出たとしても外部からお金を回して赤字を補填出来ない。

となれば上記のような措置をとってくるのは必然と言えましょう。

実際、既に海外ではそれが起こっていますし、これに近いケースが日本でも起こっています。

【民間業者の横暴に苦しめられるペンション村】

岩手県・雫石町にある、50人ほどの人が暮らすペンション村の水道事業は民間企業によって運営されていますが、同町の水道は民間業者『イーテックジャパン』が所有するポンプによって井戸水を汲み上げる形で供給されています。

しかし、現在イーテックジャパンの経営が悪化しているため同社は電気料金を滞納している状態です。

そこで井戸水を汲み上げるポンプの稼動に必要な電気料金を住民に肩代わりさせようと考え、以下の対応策をとる事にしました。

・『ポンプの電気料金は住民が負担』

・『今後は水道料金に電気料金を上乗せ』

・『これを拒否すれば水道を止める』

これらの対応策は何と“住民の了解を取らずに会社が一方的に決めている”のです。

会社の損失を埋めるために水道料金を値上げするケースは以前の記事( https://note.mu/rainbow2018/n/nff71fba55593 )でも記述したフィリピン・マニラのケースにおける民間企業のマニラッドやマニラ・ウォーターと似ていますね。

そして料金を払えない住民に対して水道を止める事も辞さない強硬な姿勢はボリビアのケースにおけるトゥナリ社に近い。

実は、岩手県雫石町・ペンション村の水道事業は『水道法が定義する水道』には当てはまりません。

実際、水道法では以下のような記載があります。

(用語の定義)

第三条 ー省略ー

2 この法律において「水道事業」とは、一般の需要に応じて、水道により水を供給する事業をいう。

ただし、【給水人口が百人以下である水道によるものを除く。】

ペンション村は住人が100人に満たず、同地域の水道事業は、【水道法が定義する水道事業】には該当しません。

また、ペンション村の水道事業は最初から民間企業が水道供給を担っていた場所であり【雫石町の水道事業には含まれない】のです。

【ペンション村は未来の日本である】

これを根拠に、『水道法改正とペンション村の件は無関係である』とする声がありますが、私は断言します。

関係大ありだ、と。

根拠は、『民間業者が水道の運営を担うようになると、どのような事が起こり得るか』という“本質”です。

『たとえ赤字でも動かし続けなければならない水道インフラ』と、『儲けを出して事業を維持しなければならない民間業者』は相性が悪い。

それなのに民間業者に水道インフラを任せれば、水道料金が値上がりするのは当たり前。

“高額な水道料金に苦しめられたくないなら民間業者に水道事業を任せるな!”

ペンション村の惨状は日本の未来であると肝に銘じるべきです。

【世界で水道民営化は失敗している!】

これからイギリス・フランスの事例についてお話しします。

【🇬🇧イギリスの事例🇬🇧】

イギリス国内の財政が悪化していた1989年にサッチャー政権が水道民営化を推進、各地の水道事業の運営を民間業者に委託します。

しかし、その民間業者は水道料金を毎年値上げ。

更に水道検査の合格率が85%に低下し漏水率が上昇。このような有り様にもかかわらず株主には高額な配当が支払われ、役員にも高い報酬が出ました。

1999年にブレア政権が誕生すると水道会社は料金の値下げを強いられますが、却って経営が悪化し外国資本による買収を招く事になりました。

国内の財政を改善する為の一手であった水道民営化は、イギリスの水道インフラが他国に掌握されるという結果を招いたのです。

【🇫🇷フランスの事例🇫🇷】

フランスのパリでは水道が民営化された1985年から2009年の間に水道料金が265%も上昇し、しかも収益の30%は民間企業の内部留保金に消えました。

そんなパリの水道事業ですが、2010年に再公営化します。

その際「Obsevatoire」という組織が設立され、市民と業者側のマネージャーや技術担当が水道事業や水問題について議論する場が設けられました。

これにより、それまで企業秘密として隠匿されてきた投資計画や財政報告が公開され内部データベースへのアクセス権も与えられる事になります。

その結果、日本円にして45億のコスト削減と水道料金の8%値下げを実現。

公共事業の運営に市民が参加する事によって、事業のムダが省けた好例であると言えましょう。

(後編に続く)

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