ブゥムシャカラカ

3

 クラーマの家はアパートだった。年季の入っている建物。すぐ近くにお姉さん夫婦が住んでいる家があるという。
「良い部屋だね」私は言った。
「良い部屋にしたの」クラーマは言った。
 リビングに案内された。小さいソファとテーブルが置いてあった。名前の知らない観葉植物が床に置いてあった。窓の景色は住宅街。現代的で退屈な建物ではなく、歴史を感じる建物が並んでいた。古い建物をそのまま賃貸として使用しているとクラーマから説明があった。
「作ろう」クラーマは言った。
 彼女はシャツの腕をまくった。髪留めで髪を縛る。エプロンを借りた。無地の黄緑色だった。クラーマは水色のエプロンだった。
「何を作るの」私は尋ねた。
「魚を使った料理」クラーマは言った。「ええと——」
 その後に彼女は母国語で魚の名前を教えてくれた。どんな魚なのか結局分からないままだ。調べるのも億劫だった。彼女は冷蔵庫から材料を取り出す。中を覗くとあまり食材は入っていなかった。
「買い過ぎたから丁度いい」
 とてもそうは見えない。調理台に材料を並べ終えクラーマはそう言った。
「これで買い過ぎなの」私は尋ねた。
「どこのお店も量り売りなの。1人暮らしが多いから」
「なるほど」私は納得した。 
 クラーマの指示に従って調理をしていく。黙々と作業をする。時々クラーマが喋りかける。
「サクラコはどんな仕事をしているの?」
「そういえば言っていなかったね。気になる?」
「気になる」
 そういうものなのだろうか。
「役者」私は言った。
「へえ、凄いね」クラーマは言った。
「ありがとう」私は言った。
「どうして来たの? 休暇なの」
 役作り、という言葉が通じるのか。少し考える。
「仕事」私は言った。
「どんな仕事?」
「今回演じる役の勉強」私は言った。
「役作りか」クラーマは言った。
「そうだね」私は笑った。
「どうしたの。笑って」
「いや、何でもない。楽しいなって」私は言った。
「こんなことを仕事でするのは始めてだよ」クラーマは言った。
「そうでしょうね」私は言った。
「サクラコとは仕事以外でも付き合えそうだ」クラーマは言った。
「どうだろう」私は言った。「演じているかもしれない」
「役のときだけでしょ」
「抜けないときがあるの」
「ふぅん」
 分かってなさそうな顔をしていた。クラーマは器用に魚を捌いていた。私が切った野菜は不器用さを表現している。そういえば、料理って勝手に出てくるものじゃなかったよな、と再確認した。
 作って食べて片付けるまでが料理だ。そう先輩から教わった。今までその意味が良く分からないままだったが、今日のことで少しだけ意味が理解できそうな気がした。
「下手くそだね。サクラコ」クラーマは笑っていた。
「料理人は演じたことないの。まだね」私は言った。







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実りある人生を(どんな実かは知りませんが)
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雨小歩叶

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