ブゥムシャカラカ

4

 おじやだった。魚介類のおじやがテーブルにあった。遠路はるばる異国に来て食べるとは思ってもみなかった。フォークとスプーンを使って食べるみたいだ。お酒はどうかとクラーマに勧められた。私は断った。クラーマはどうやら飲むらしい。シャンパングラスを用意してそれに注いだ。どうやら仕事と私事の境目が曖昧になったようだ。気候のせいだろうか。それとも、もっと根本的な何が違うのか。あるいは私と打ち解けたと解釈したのか。透明なお酒だった。小さい泡。微炭酸といったところだろう。食中酒だ、と聞かされた。私は水をもらった。微炭酸だった。
「食べようか。サクラコ」クラーマは言った。
「いただいます」私は言った。
「いただきます」クラーマは言った。
 クラーマが先に食べるのを確認した。何も変化はない。私はそれを見届けて自分のおじやを口に運んだ。
「美味しい?」クラーマは尋ねた。
「美味しいよ」私は微笑んだ。
「サクラコは、見ていて安心する」
 クラーマはそう言ってお酒を口に運んだ。
「どういう意味で」
「人を疑うことに抵抗がない」クラーマは言った。「観光する人達って警戒心がとても無いから」
「まあ、高いお金払って疑心暗鬼になりたくはないからね」私は言った。
「ギシンアンキ?」クラーマは困惑する。
「ああ……」言い方を変える。「高いお金を払って、人を疑いたくないの。楽しくないでしょ」
「そうだね」クラーマは答えた。
「悪いとは思うよ」
「どうして? 人を疑うのは当然だよ」
「まあ、そうだけど」
 これ以上この話題で会話を広げる気はなかった。しばし食事に集中する。味付けがとてもシンプルだった。日本的だ。
「どんな役?」
 クラーマは尋ねた。3杯目のお酒を飲んだときだった。
「沢山言い訳して逃げ回るの。そして最後に死んでしまう」
「よく分からない」クラーマは首をかしげた。
「私もよく分からない」私は言った。「だからこうして役作りしに来たの」
「どうして来たの」クラーマは言った。
「陽気な国が舞台なの。陽気な場所で陰気な役をするから、雰囲気を掴むの」
「ふうん」クラーマは言った。「どうして役者になったの」
「気づいたらこうなっていた」私は言った。
「そんなことあるの」クラーマは言った。
「あるとしか言えない」
「分からない」
「特に望んでもいないのにそうなるってことはよくあるよ」私は言った。
「自分で決めたりしないの」
「どうしようもないことってあるでしょ。例えば……運命とか」
「怠けているだけじゃないのか。そんな人生、嫌」
「それもそうだけどね。どうだろう、それを認めるのも悪くないよ」
「私は思い通りの人生がいい」
「そうでしょうね」私は言った。「価値観が違うのかも」
「そうかも」クラーマは妙な納得を見せた。
 他愛のない会話。まるで言い訳のように感じてしまう。自分の発している言葉自体が。
「役者になれるなんて羨ましい」クラーマは言った。
「ありがとう」私は言った。
 別になろうと思えばすぐに出来る。続けていくか辞めるのか違い程度で、それ以外の障害は誤差だ。その誤差の範囲が人によってバラつきはするが。
 求めている状態と、現在の状態の差が大きくなったとき人は諦める。諦めることは悪いことじゃない。進路が変わっただけと受け取れない人が、あまりにも多すぎる。
 もしそれでも諦められないとするなら。それは粘り強さとか努力とか、信念とか、そういう綺麗事ではなくもっと禍々しいもの。
 そう……執念とかが近い。
「考え事?」クラーマは言った。
「クラーマは夢とかある」私は言った。
「ある」
 彼女はそれから、自分の叶えたい夢を語り始めた。適度に相槌を。お酒のせいで気分が高揚しているのかもしれない。
「完成した映画観るから」
 一通り喋ったのちに、クラーマはそう言った。
「ありがとう」私は言った。
 表情筋はあまり動かなかった。出来れば、彼女の心に何も残さない映画になって欲しい。私はそう望んでいる。







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雨小歩叶

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